幕間-55 届いた紙の鳥と不思議な紳士と俺達

『おや、紙鳥ですね。珍しい』

『本当だ、って、チュン右衛門ど、さん! こちらで普通に紙鳥って』

『そうでした。それならば、何故でしょうか』


 今日も今日とて、大学の静かな場所でチュン右衛門殿と日なたぼっこ(ちゃんと休憩時間だ)の俺、中身は異世界コヨミ王国王子のニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ外見は暦まといさん。


 風に揺れて、ふわふわとしているもの。


 あちらでならば、かなりの範囲で知られているものだ。

 それは、魔力を込めて生成された紙の鳥。


 伝令鳥や召喚鳥の様な精霊獣の鳥または鍛錬を重ねた本物の鳥ではなく、魔力を込めて折られた紙の鳥。

 紙自体に魔力が存在する事もある。


 チュン右衛門さんは、代々の雀一族であられる右衛門族の口伝により異世界や魔力等にも造詣が深くていらっしゃる。


 それ故に、おや、ですませたが、こちらでは中から魔力が込められた紙の鳥が浮き出てきたら特撮? かCG? か何かなのだろう?


『……悪しきものではない、と思うが、さすがに識別魔法は使えないぞ』


 あちらでも使えなかったろうに、と自分にツッコむ俺だが、まあ、爆発とかはなさそうだ。


 そんな事を考えていたら、紙の鳥は俺の頭頂部、つまりチュン右衛門さんの傍らにひらりと着地をした。


 さて、どうしたものか。

 すると、「……ああ、申し訳ございません!」


 大きな声と、大柄な男性。

 いや、本当に大きいぞ?


 あちらのアタカマ騎士団副団長閣下くらいの大きさじゃないか?


 多分、だが、2メートル超えはこちらでは珍しいよな。


「たいへんに不躾に、しかも斯様な風体の者が見ず知らずの方に話し掛けます事をお詫び申し上げます。私はこういう者です。その、そちら様の頭部にございます紙の鳥を、わたくしに頂戴したく……」


 出来る限り体を小さくさせて、威圧的にならないように、だが、距離を取って。


 紳士的な方だ。

 然し、この俺の耳に慣れた言葉遣い。

 まるで、あちらの高位貴族相手の商売人の様だ。役者さんか?


 因みに、こちら……うちの大学は建物でなければ入る事は自由。地域住民の憩いの緑に溢れた場所、らしい。

 所持品検査や身分証明書確認をお願いする事はままあるらしいが。


「あ、これはこれは……。雀殿、ありがとうございます。はい、こちら、私の名刺です。ああ、名刺をご存知とは……! はい、これをあの方にお渡し下さい」


 え、チュン右衛門さんと会話を? ではないか、さすがに。


 だが、頭頂部から飛び上がり、名刺を嘴に挟んだチュン右衛門さんにありがとうございます、と声を掛けている。


 紳士的で、しかも良い人だな。

 動物(チュン右衛門さんは例外だが)に対する所作に人柄が透けて見える事はある。勿論、動物だけに優しい場合もあるが。


 この人は前者だな、と思いつつ名刺を受け取り、チュン右衛門さんに代わりにと紙鳥を咥えてもらう。


 すると。

「……え。ナワンカの、社長さん? 『キミミチ』の!」 

 驚いた。役者ではなかったのか。

 

「我が社をご存知なのですか、ありがとうございます!」


 ご存知も何も、『キミミチ』の会社!


 実在したんだな……。

 あ、この方のこれ、『キミミチ』の会社うんぬん、は嘘ではない。


 俺は、一応あちらでは王族。

 虚実の判断力は割とあった。

 魔力ではなく勘の方で。

 それが、チュン右衛門さんと共に居ると実に研ぎ澄まされるのだ。

 おかげでまといさんに下心ありで近付く奴から距離を取れたり、お姉さんや一輪準教授と組んで社会的に制裁を加え(俺はまだだが、お二方は経験ありらしい)たりという具合だ。


 その勘が、この人は真実を語っていると告げていた。


 飛んでいったチュン右衛門さんから紙鳥を受け取ると、大きな体を縮めた紳士から丁寧に礼を言われた。


「本当に、助かりました。金銭でのお礼では受け取って下さらないかと、如何でしょう、雀殿」

 大柄な紳士が手にしていた上質な革鞄から取り出したのは、小さな封筒。


『私の判断で受け取っても宜しいでしょうか』

『……そうだな。そうしてくれるか?』


「よかった、お受け取り頂けて! あ、名刺の連絡先はいつでもお使い下さいね!」

 

 何度も何度も頭を下げてから、去って行く大柄な男性。


 紳士的な雰囲気男性だった。

 靴も磨かれていたな。大きさ的に特別注文の品か?


「……これって」


 チュン右衛門さんから渡された封筒の中身。

 それは、紙の鳥を拾って渡しただけのことにしては高額すぎる金額のコーヒーチェーンのカードギフト。


 いや、額も額だが。


『魔力……ですよね』

 ああ。


 どういう事だ。 


 何故、魔力の残滓が。


 高位精霊殿達はあの人の様なゲーム会社の人達、つまり『キミミチ』を作り出してもらう方達にそうとは知らせずに、夢で情報を与えていただけではない……のか?


『おや、魔力の残滓ざんしは名刺からも感じられますね』

『……確かに。これは……どうしたものか』


 そうしていたら。

「すいませーん、今こっちに凄い大柄の男性が来ませんでしたか? って、まとい、まといじゃん!」


 せっかくチュン右衛門さんと作戦会議中?だったのに。 

 今度は、紳士とは異なる軽々しい声が聞こえてきた。


 誰だ? 馴れ馴れしい。


 少なくとも、俺は聞いた事の無い声だ、とまといさんの記憶を探ると。


『……チュン右衛門さん、悪いが俺がブチ切れたらフォローをよろしくな』


『御意に……。ですが、その様にはさせません。必ずや、御身をお守り申し上げます』


 よりにもよって、な人物との(俺にとっては)初対面な再会。


 不快以外の何物でも無い、が。


 チュン右衛門さんがいてくれて、本当に良かった。

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