第八章

303-転生された素敵な王子殿下と何だか本格的に準辺境伯令嬢になりそうなあたし

「え、えーと。やっぱりあたし、貴族令嬢になっちゃうんですね」


 あの激闘、感動の剣術大会から数日後。


 医療大臣閣下のタウンハウスに滞在中のあたしの所に来客、正しくは賓客の第三王子殿下がいらしている。


 お母さんの指示で、ゲストをお迎えする部屋なのは分かる。分かるけど。


 なんで、お迎えするのがゲスト用の寝室なの、お母さん!


 八の街のこじんまりした(大好きだけど!)診療所と家が兼ねられていたあのお家の私達の部屋なら全部入るんじゃ? みたいな広さのゲストルームだから、応接用と寝室が分かれてて、専用の水回り設備もあるんだよねこのタウンハウス。


 なのに、何故か寝室。


 お母さんも、応接室にいるから一緒にお話しても良いと思ったのだけど、「主の妻として殿下をお連れして、お茶等のご用意はさせて頂くから。」

 だって。よく分からない。


「うんそう。頑張れ、としか言えない状況。あ、でも、中央冒険者ギルドで叙爵式なのは良くない? けいとかとち達も呼べるって! 王家からは兄上と私の予定! どうかな? ナーハルテ様は姉君の結婚式にご出席だからご欠席になりそうなのは残念だけど」


「ですな。筆頭公爵家からは殿下と共にご令嬢を出席させたいと聞いておりますが、こればかりは」

 うーん、渋くて素敵な人型じゅったん様。


 お客様なのに、ベッドルームのテーブルと椅子とに座られた殿下にお茶を出して頂いてるのは良いのかなあ。

 あ、テーブルも椅子も簡易的な品じゃなくて、多分1本の巨木から全部の材木を切り出した、とか高級な物らしいよ。


 そうだ、お話!

「いやいやいや。あの、簡易叙爵式に王家から殿下お二人ですよ。良いんですか? 実は四大公爵家の一角な辺境伯閣下が認められた幻の準辺境伯位とは言っても! それに、マ、じゃなかった第三王子殿下は実は、ねえ……」


 すっ、と出されたあたしへのお茶は、良い香りの柑橘系のお茶だ。

 お茶菓子は胡桃のパウンドケーキ? これ、コッパー侯爵家のご当主様のお店のだ! 王都で1番人気の! 

 食べたい、けどまだ我慢。


「あ、食べて食べて、どうぞ。因みにこれ、スズオミ君からだよ。あと、話はまだ続くからね。叙爵式、そこでセレンさんの婚約者候補さんが正式に発表されるから。決定はしたから、正式発表のその前に私がセレンさんに伝えるのが一番良いみたいで。安心して。リアクションがあばばばば、でもほぎゃえん、でも私なら耐性あるから! はい、ベッドに座って下さい。ネオジムさんがそうさせて下さいって」


 お母さん、あたし、何故ベッドに?


 聖教会本部から貸与された特別な映像水晶(精霊界からの像も頂ける優れ物!)越しに大司教様と大導師様がご覧になっているし、じゅったん様もいらっしゃるからそういう変な誤解は絶対ないけど!

 

 て言うか、第三王子殿下、ナーハルテ様以外の女子にはそういう興味、無い。絶対。


 どちらかと言えば、渋系のおじ様が好みなのでは、とかあたしは薄々感じてます。それはさて置き。


 あたしの事、さすがにあばばばば……はかなり言ってますけど、ほぎゃえん、はないでしょう! 

 いくら、あたしでも! 


 ベッドって、もしかしてあたしが気絶しない様に? 婚約者候補さん、そんな大物様なの?


「え、あ、ネオジムさんのご指示だって言ったよね? まさか、私がセレンさんに何かするとか? もしかして、怖がらせた? なら、扉開けて私、廊下から話そうか?」


「いえいえいえ! 万が一、よりも遥かに上の確率でないですから、そんなの! まさかがあったら殿下を操る操作系の魔法か魔道具でしょう? じゅったん様や黒白ちゃんやリュックさんがいるのに、そんなの出来るのどこの国ですか! 座ります、座ります!」


 ごめんなさい、あたし、そういうのよりも殿下の異性(なのかな……)の好みの事を考えてました。


 いけないいけない。

 慌ててベッドに腰を下ろして、そう、思い出せ、さっき殿下が言われた事……珪ちゃんと橡ちゃんに会えるのは嬉しい!

 八の街を守る警備獣の代表的存在として頑張ってるかわいくてかっこ良くて賢いオオトカゲちゃん達!


 あ、そうだ、婚約者候補さんの話も一応聞かなきゃ!

 まあ、大体の見当は付いてるけど!


「結局カバンシ兄ちゃんと緑さんですかね、やっぱり! 真面目な顔出来るかな、あたし。本番で笑いそう」


「ううん、違うよ、三人」

「へえ、三人? あと一人、だれですか?あ、まさかじゅったん様? は恐れ多いな。紅ちゃん……はまだ人型取れないか! そうだ、殿下、紅ちゃんね、声は可愛いのが出せる様になったんですよ! あと、叙爵式には来てくれるって!」


 違う……のかな。

 じゅったん様、微笑まれてるし。イケオジスマイル、ってやつですね。


「どうしようかな。聞く? 見る?」

 見る? 映像水晶?まさか、余所の国の方?

 

「え。何でですか? わざわざ? 映像水晶で? じゃあ、聞こうかな」


「うん、そうだよね。知らない存在じゃないからね。えーと、高位の方からね」

 知らない存在じゃない、って事は国内の方だよね。


 それにしても、高位? ああ、緑さんと兄ちゃんは高位精霊獣さんと伝説の元邪竜で飛竜だからその辺微妙なのかな。


 確かに、緑さんとカバンシ兄ちゃんってどちらが上なんだろ?

 あと、残り一人って、誰、誰なの?

 紅ちゃんじゃないなら聖女候補の誰かとか?


「ええと、まず、バナジウム・フォン・カルノー・コヨミ第二王子。私の兄上」

 はい? 何、冗談?

 不敬……にもならないのか、第三王子殿下だもんね、仰ってるの。不敬罪が適応されないとかじゃなくて、雰囲気ね。


「次ね。ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢」

 きたあ、ライオネア様! 素敵! って、反射的にガッツポーズしたけど、はいい?


 うん、分かった。幻聴だね。

 そんな訳ない! じゃあ、最初のも幻聴だ!よし、決定!


「で、スズオミ・フォン・コッパー侯爵令息。スズオミ君。……以上です! 驚いた? あれ、意外と平気? 凄い! さすがは、ライオネア様とのダンスで1分間見つめ合える人だ!」

 え、いや、あれは3分に伸びましたよ殿下!


 じゃあなくて!


「そっかあ、三人って言うのは掴みの冗談だったんですね! 第二王子殿下とライオネア様とか、面白素敵過ぎ! 素敵な冗談ですね! なあんだ、結局、スズオミ様お一人じゃないですか! もう、殿下ったら、ご冗談がお上手なんだから! でも、スズオミ様なら仲良しだから安心です!」

 

 うっかり本気にしちゃうところでしたよ、と笑うあたし。


 そうしたら。


「え、全員、本当に婚約者候補だよ?」


 殿下、王子様スマイルできるようになったんですね!

 じゃないよ! ほ、ほぎゃえん!


『え、セレンさん本当にほぎゃえん、って!あ、ネオジムさん、大丈夫でしょうか? 指示通り、後ろ向きに倒れても良い様にベッドに座ってもらったんですけど………あ、はい、お待ちしてます!』

 さすがに意識を飛ばしたあたしと、近いのに転移してきてくれた最近はこっちの姿が多いハーフエルフっぽい美人なあたしのお母さん。因みにお母さん、激ナイスバディです。


「申し訳ございませんでした、殿下」


「いえ、助言をありがとうございましたネオジムさん。私も大切な友人のセレンさんが嬉しいと思える人に婚約者になって欲しかったですから。今回は候補全員がそうなのですからね、嬉しいですよ」


 本当に、意識を飛ばした訳じゃないから聞こえた会話。


 本当に、あたしもそう思う。


 めちゃくちゃラブラブなのに、あたしがお二人は狙われている、と言ったら色恋(と謀略、策謀ってやつかな)じゃなくて物理的にだと思って防御を固めようとなされてしまう。

 そんな所も微笑ましくてお似合いな素敵カップルのお二人、殿下とナーハルテ様。


 特に殿下。


 魂の転生をされて、異世界の異性の第三王子殿下の体に入って、無双しまくり、婚約者を大切にしまくりなんだもの、尊敬しちゃう。


 ナーハルテ様も、そう。


 たまにだけど、あの方の傍にいられるようになったら本当にプラチナ色のお姫様なのはお姿だけじゃなくて中身もめちゃくちゃお美しいからだって、よく分かった。


 あたし、あの方とお友達になれたことは、正直信じられない時がまだかなりある。


 あんな風にお互いがお互いに思い合える婚約者候補同士になれる……の? あたし!


 その為には何を……ええと、選抜クラスには編入が決まってるから、このまま高等部の最終学年に進級して、勉強と聖魔法のあれこれと、あ、ダンスとお作法と、色々?


 ぐるぐる回る意識の中で。

 

 殿下が仰った婚約者候補様達は、意外過ぎて、でも最高すぎて。


 そんな方達に加えて、婚約者候補様の最後の一人がスズオミ様だった安心感を思い出したあたしは、よく分からないまま、笑顔で気絶した、らしい。







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