幕間-53 紅ちゃんとお話のあたし

「楽しかった! ライオネア様はめちゃくちゃ素敵で格好よくて、スズオミ様も凛々しかったし、団長閣下と副団長閣下の試合はもう興奮! したし、八殿はシュッとしてて、芝はふさふさ! 殿下は面白くて、ナーハルテ様は可愛らしくて! タコ焼き? おいしかった! お父さん、串焼き10本は食べ過ぎだよねえ!」


 怒濤の一日を終えてあたしはゴロン、とベッドに横になった。


 暫くは王都に滞在という事で、お父さんもお母さんもカバンシ兄ちゃんもあたしも、前回の任務の時の様に医療大臣閣下のタウンハウスを使わせて頂く事になったのだけれど、本当に良いのかな、という感じは相変わらずだ。


 お風呂が広くて、そう言えばハーフエルフっぽいお母さんと初めて一緒に入浴出来たんだけど、お母さん、元々スタイル良かったのが、何か、こう……凄かった。

 色々。あたしもあんな風になれるのかなあ、と少しだけ期待してしまったりして。


「ね、紅ちゃん。一緒に試合見られたら良かったね。魔力に拠らない『気』で満たされて、逆に聖魔力を循環させまくって急成長した芝、凄いふかふかだったよ! 屋台も。紅ちゃんは何が好きかな。聖教会本部の皆が出してた石鹸の屋台にも行ったよ! 本当に全屋台制覇してね、大武道場の併設施設の飲食店のメニューもね、デザートは全制覇したの! ナーハルテ様はびっくりされてたけど、楽しいって、喜んで頂けたの! 殿下はね、あちらの食べ放題、っていうのみたいで面白いよ、って! 聖教会本部主催でやってみたら楽しいかも、って皆で盛り上がったよ!」

 独り言じゃなくて、これは聖教会本部の宿舎から大切に運んできた特別な映像水晶への呼び掛けで。


 最高の試合だったし、楽しかった。


 だけど、紅ちゃん。本当、あたし、自分のせいで紅ちゃんと離れちゃったのに。


「ごめんね、紅ちゃん。……べ、べ、紅ちゃんかわいいね。べ、べ、紅ちゃんカッコいいね……」


 一緒に試合とか、楽しかった事を全部紅ちゃんと出来てたらなあ。


 こんな時は、歌うんだ。


 作詞作曲あたし、紅ちゃんの歌。


『セレン様、謝らないで、ね?』

 え、紅ちゃん、あれ、あの可愛らしくて可愛い紅ちゃんの声?


『かわいい……。あと、聞こえちゃった? 紅ちゃんの歌。恥ずかしいなあ。魔馬の月白ちゃんにしか聴かせてないのに』


『はい、聞こえました。……嬉しいです。格好良い、も足して下さったのですね。そして、そうです。口調は無理ですが、声は斯様に。口調も努めますね。それから、姿もある程度の時間は変化出来るようになりました』


 紅ちゃんを、励ますんだ、あたし!

 そう思ったのに。

『紅ちゃん、やっぱりあたし、紅ちゃんに会いたい!』

 なんで正直に言うの! あたしの馬鹿!


『ありがとうございます。セレン様、僕を励まそうとして下さったのはちゃんと伝わりました。この水晶のお力で、お心にあるお言葉を述べられたのですよ。ご指導頂いております方々から「あの姿と声の方が敵を油断させられる事もあるだろう」と助言を頂戴しました。セレン様のお側におります為にはこの機会は良い学びと言えました。むしろ、ありがとうございます。もう少しだけ、お待ち下さいね。お父様の叙爵までには、必ず間に合わせます』


『本当? 嬉しい……!』

 紅ちゃん、言葉遣い、凄い。


 格好いいなあ、もう!

『待ってるよ! あ、紅ちゃん! 叙爵までには戻ってきてくれるんだね? あたし、ダンスはけっこう上達したよ! 紅ちゃんにも見て欲しい! あ、お作法とかはどうしよう?』


『セレン様でしたら大丈夫かと存じます。ただ、聖女候補としての作法と上位貴族令嬢としての作法とでは些か異なるかと』


『紅ちゃん、すご……。言葉遣い教えてほしい。え、上位? お父さん、上位貴族なの?』


『はい。コヨミ王国に於かれましては辺境伯閣下は四大公爵家であられますし、準辺境伯閣下となられるセレン様の父君は元々救国の英雄、邪竜斬り殿であられましょう?』


『うーん、兄ちゃん邪竜? って言うの、あたしもお義父さんもムカッとするんだけど、兄ちゃん本人がお父さんに斬られたの、誇りに思ってるからねえ……』


『その辺りは飛竜殿にお任せすれば宜しいかと。申し訳ありません、僕は戻りませんと』


『うん、お話出来て嬉しかった!』


『はい、僕もです!』


 最後まで可愛い声でいてくれた紅ちゃん、ありがとう。

 

 通信が切れた映像水晶は、紅ちゃんの分まであたしを見守ってくれているみたいで。


 ぐっ、と拳を握りしめて。


 紅ちゃんに相応しいあたしになるよ! と、精霊界の紅ちゃんに、改めて誓うあたしなのでした。

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