幕間-52 聖魔法大武道場周辺で求める者

「あ、あんたも記者さんかい? いや良かったよなあ今日の剣術試合! まさか、周辺屋台の俺達も見られる様に映像水晶と特大の反射幕を張って下さるなんてなあ。こんな良い場所に屋台を出させて頂くだけでもありがてえのに! 魔道具品評会の時抽選に外れてむしろ良かったのかも……って違ったな、そう、興奮してあそこのあいつなんか、売り物の串焼き、食いだしてさあ! 笑ったよ! ん? ああ良いよ記者証なんか! さっき、獣人の子達に焼き菓子食わせてやってたろう? 見てたぞ! フードも外さなくて良いから! まあ、そのちょっと見える目からして男前なんだろうけど、何か理由があるんだろ!」


 行列が落ち着いたらしい多足蛸を丸く焼いた物の屋台の主人は笑いながら答えてくれた。


 聖魔法大武道場剣術試合終了から大分時間が過ぎた後も、周辺は賑わっていた。


「で、何だっけ。試合にいらしてた第三王子殿下の事か? 良い方だったぞ? ご婚約者の筆頭公爵令嬢様、なんか夢みてえにお綺麗でなあ、今は買い食いしに行ってるうちの母ちゃん……あ、奥方? あんたさすが記者さんだなあ、言葉が丁寧だあ! なんか驚いて口開けてなあ、すげえ顔してたのに、和やかに微笑まれてな、かわいい聖女候補様と一緒に屋台の品を満遍なく買って下さって! 他の屋台でもなんだよ! 皆で第三王子殿下、ご婚約者様、聖女候補様御用達って看板出すかって笑ったよ! あ、そういや、聖女候補様達と言えば、試合終了後に来てたムカつく連中がヘンな事言ってたっけ……」

 ヘンな事。

 の事だから、と想像は付くが一応訊いてみる。


「……ヘンもヘンでよお! 聖女候補様の婚約者? 候補? に聖国? ほら、あのえらそうな国! あそこの高位貴族が選ばれるとか根も葉もない事を! あと事もあろうに筆頭公爵令嬢様も聖魔力保持者となられたのだから聖国にいらっしゃるべきだとか言いやがるから俺達全員で何だそりゃ大概にしろや! つってな、たたき出してやったよ。殴っちゃいねえが、脅してやった。二度とこの国に来んな! ってな! めちゃくちゃビビってたから、もう言わねえと思うぞ?」


「……冗談にもならないねえ。しかも面白くもなく、ただただ不快だ。それよりはこの、多足蛸を焼いた物の名前、タコ焼き? この名前の方がよっぽど話題になりそうだ」


 そう、屋台の主人の手書きらしい、ぺたりと屋台の雨よけに貼られた筆文字の紙に書かれた、タコ焼き、の文字。


「これな! お目が高いぜ! 第三王子殿下が『凄い! タコ焼き! あ、カツオ節、あります? マヨネーズ、ある! 青海苔、はないかあ! あ、乾燥海苔あるの? 素晴らしい! ソース、は……甘口たれ? そうか、なるほど!』って言われてなあ、すげえお詳しくてさ! タコ焼きって名前、俺んとこで独占しなければ自由に使って、って! 嬉しくて、10人前くらいをお渡ししたら、マジックバッグだろうな、リュックにひょい、って! んで、たくさんお礼言って下さって、三人仲良く色々食ったり飲んだり買ったりして下さってた! 全くなあ、ヘンな噂、あんたも潰しといてくれな! ああ、いいよ持ってきな!」


「良いのですか? ありがとうございます。それからコヨミ王国のタコ焼き屋台第1号、おめでとうございます」


「ありがとよ! あ、あんた何処の雑誌? 新聞? の記者さん? あんたの記事なら金出して読むぞ、っていねえ! 足早えなあ、あのフードの記者兄ちゃん……。魔法か?」


 タコ焼きをくれた屋台の主人にはすまなかったが、教えてもらった内容は、この世界の新聞や雑誌に掲載されるのではなく、に渡る。


 僕がそう思ったのは、皆が屋台を楽しみ、フード姿の者が居る事にさえ気付かない場所、ぽつんと木製の椅子が置かれただけの静かな所まで転移してからのこと。


『……頼むね、紙綴かみつづ


 今は、恐らく茶色殿、が持っているのだろう、紙の束。


 僕は、束ねられたそれと同じ材質の紙に文字を移す。魔力で。


 重ねられた文字の、締めの言葉。僕の数少ない友人のうちの一人への手紙にはこう記した。


『雀さんにも、会えた。時は、来た。新しい『キミミチ』を宜しくね』

 

 紙綴の紙片は紙の鳥になり、一瞬だけゆらりと動き、そして……消えていった。



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