第七章終-転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子だったけれどヒロインの筈だった聖女候補さんともかなり良い友人関係を築けたなあと実感する今。

「芝の上を転がりまくるの、楽しかったね!剣鉈さんもリュックさんの中に入って付いてきてくれるし、屋台で色々買い込もうね!」


 セレンさんがナーハルテ様の着替えをお手伝いしてくれたついでにまといの予備の服の中で少し小さめな物をセレンさんに着てもらったので、二人とも中々に活動的なパンツスタイル。

 私よりは小柄なさとりお姉ちゃんがよさげなのを入れておいてくれたらしい(もう驚きはしないけれど感謝はたくさんしておく!)。


 リュックちゃんとリュックさんが亜空間で遣り取りした成果。素晴らしい。


 芝さん達からは、絶対に私達に怪我をさせない、汚れさせたらいけないというお気遣いを感じました。


 でも、せっかく八さんと『気』で充填した魔力使いまくりで浄化魔法とか掛けてくれてたのは良かったのかなあ。

 楽しかったけどね?


「芝は意外とふかふかしてて、良い香りがして、草原みたいで最高でしたね! 落ち着いたら、月白ちゃんで皆で小旅行とか、学院生のうちならなんとかならないかなあ……」


「童心に戻りましたかの様で、楽しめました。行動用の衣服をリュックちゃまに預かってもらっておいて良かったです。セレン様、殿下、ニケ様にお願いしまして大書店に伺うのでしたら年度中に……筆頭公爵家の馬車でしたらほぼ叶います。月白様で、というのは分かりかねますが」


「百斎さ、大司教様が許可してくれそうだけど、そうだね、大書店なら。それにしても、二人とも白いシャツにナーハ、ナーはレモン色、セレンは水色のパンツ、似合ってるよ」


 そう、ナーハルテ様もセレンさんも白シャツが似合う。

 さとりお姉ちゃん、ブランド物のシャツを入れておいてくれたんだよ。貴族御用達店の品と遜色ないよ、ありがとう!

 ナーハルテ様の白シャツは行動用の為、既製品(だけど高級品)なのですよ。


「殿下、確かにこのシャツとパンツ、かわいいしめちゃくちゃ質も良いから有難いんですけど、マトイ様のお姉様のですよね、これ? とにかく、あちらでのご自分のは絶対! ダメですよナーハルテ様の許可無く誰かに渡しちゃ!」


「セレン様、お気遣いありがとうございます。でも、わたくしはもう大切な衣服を頂いておりますので。こちらです」


 籐篭バッグのリュックちゃんから出て来たのは……あ、あれですね。

 ニッケル君が夢渡りのナーハルテ様に渡してくれた、お姉ちゃんにはサイズが大きかったので私に譲ってくれたベビーブルーのパーカー!


「そうなんですか! 良かった! 清楚で可愛くて、お似合いです素敵! でも、それはそれ! とにかく殿下、医療大臣閣下に渡された皆の為の品とかあと人道的にやむを得ず、とか意外ではダメですよ絶対! 殿下はそういうのお気になさらなそうだから! あ、皆の為に、のは偉いですすごいです尊敬します! でも恋する素敵で華麗な乙女がいる方は軽々しく他の相手にご自分の服をあげちゃあ、ダメです!」

 セレンさんから凄い量のダメ出し。


 あ、はい。確かに。


 私、第三王子殿下にはもう着られないから勿体ないのでどうぞ、とかしそうな気がする。

 いや、勿論元自前なのはさすがに伏せるだろうけれど。

 あと、さりげなくナーハルテ様を誉める姿勢、良いですよ、セレンさん。


「恋する……わたくし……私が……セレン様、お言葉が率直でいらっしゃいます……」


「え、あ、すいません正直すぎた……けど、お二人の事を狙ってる連中がいないとも限らないからラブラブなところは見せつけられる時は見せつけないと!ねえ、八殿!」


『その通り!』

「え、そうなの? やっぱり聖国の刺客とか? だったらやっぱり、緑簾さん、呼ぶ?」


「でしたら、私、も朱々にいらして頂けるかを……」


『違う! とにかくお二人はいちゃつけ! おい、頼むぞセレン? あと八寸殿も!』


『うん、頑張る!』『任された!』


 あれ、緑簾さん? 何か違った?

 八さんがいれば大丈夫って事なのかな?


 だったらごめんなさい、八さん。


『……聖女候補殿、すまぬが、常にこう、なのかな?』

『……です。あたし、気を利かせてお二人だけにさせたいと思ってたんですけど、付いていった方が良いですよね?』


『当たり前! 私だけでは無理だ! いや、警護は、警護ならばな、大丈夫だが』


『分かってますよ!』


『ご面倒を』『『『『お掛けします(しゅ)』』』』

 ん? 八さん、セレンさんに黒白、ハイパーにリュックさんにリュックちゃん?

 何だか、皆さんが仲良し?


 あ、そうだった。


「取り敢えずそれ、セレンさんにあげるからこれからも着てね。聖教会のマジックバッグに入れた今までの服に着替えないといけなかったら入れ替えてね。あ、お好みでなかったら話は別だよ?」


「ええ……?凄く良いお洋服ですし嬉しいんですけど、言ったそばから……?」


「いや、だからそれはあちらの姉のだから!大丈夫! 友達にあげたらむしろ喜ばれるよ!」


 あ、今更ですが、三人で歩いてるここはまだ例の魔樹の針葉樹の所なので人の気配も他にはありません。


 『必要になったら即座に音声遮断とか諸々の魔法付与はお任せあれ! 警護もですぞ!』とは地上闘技場を出た時の八さんのお言葉。念話だね。


「まあ、分かりましたよ。変な女が殿下を騙して、とかより遥かにマシだから。はい、ナーハ、ナー様、手!」


「セレン様、お似合いですよ? それに、わたく、私は一番下の妹なので近い方がいら、いると嬉しいのです。……はい、手ですか?」


 何なに?


「はい、殿、ニケ様はそっち! 握る! ダメですよ、恋人繋ぎで! はい、よくできました!」

 

 え、何これ嬉しいんですけど。


 ナーハルテ様を中心に、右側に仲良しセレンさん、左側に恋人繋ぎで私。


 これって。


「ええ。第三王子殿下と筆頭公爵令嬢様はラブラブで、聖女候補セレン-コバルトはお二人をめちゃくちゃ応援してます! の図ですよ! それに」

『もしかしたら、あっちのセレンも』


「セレン様?」「どうしたのセレンさん?」


「何でもないです、行きましょう! 目指すは全屋台制覇! 足りなかったら聖魔法大武道場併設施設にも行きますよ! はい、お二人も!」


「あ、はい! 行こう!」「分かりました……分かったわ?」


 凄く、不思議な感じだ。


 大好きな悪役令嬢様に釣られて異世界に転生したら、ヒロインの筈の聖女さんとも友人になれるなんて。


 そのヒロインさんのお父さんは元邪竜斬りの英雄さんで、お母さんは、エルフ族の血族さんで医学博士さん。

 元邪竜さんは召喚竜さんで、お父さんは近々叙爵予定でもあって。


 攻略対象者の一人は私の親友で、ヒロインさんに恋をしていて、何とか婚約者候補に残れそう。

 彼の婚約者だった人気実力1位のイケメン令嬢様もヒロインさんの婚約者候補になりそうで。

 しかも、攻略対象者じゃなかった(イケメンで賢い素敵な王子様だけど!)第二王子殿下、我が兄上も期間限定の聖女候補さんの婚約者候補に立候補中。


 どんどん『キミミチ』から離れていく異世界現実


 でもそれは、とても良い方向に離れている気がして。


「ニケ様?」


「何でもないです。セレンさんと友達になれて良かった、あと、私の婚約者、可愛くて可愛いなあ、ってそれだけ」


「よくできました! あ、ナー様? 大丈夫?」


「大丈夫、で、よ」


 ナーハルテ様の白い肌が染まっていく様子に声掛けをするセレンさん。


 それを見ていたら、嬉しくなった。


 転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の第三王子殿下でした。


 然しながら、現実の私は悪役令嬢様をお慕いしつつ、ヒロインさんとも清い友愛を築けております。


 これが乙女ゲームなら、平和過ぎて面白味がないのかも知れないけど。


 でも、これは現実だから。


 平和が一番! だよね!


 第七章〈終了〉




















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