幕間-51 時々ボディーガードな雀殿と日々楽しく労働な俺。
「『キミミチ』のカントリスにそっくりな美形さん! やっぱり、ネットには出るよなあ。とりあえず、俺とカントリスの顔、消せて良かった……」
学生とは異なる時間帯での昼休憩。
食後にネット検索をしてみたら、やはり、多少は話題になってしまっていた。
まあ、俺の印象は薄かったみたいだし、カントリスの顔についても「二次元が三次元になってた! 三次元の方がイケメン! だけど写真撮れなかった」とか、「コヨミ王国王立学院の制服の再現度スゴい! なぜか靴下だった! 許可無しで写真はマズいかなと思ってたらいなくなっちゃった!」とか、「『キミミチ』二作目の宣伝? まさかのカントリスメイン?」とか、まあそんな感じで悪意のあるものは見当たらなかったのでそれは何よりだ。
『一応報告を。見てもらえたら有難いです』
あまり魔力を込めずに大書店預かりのまといさんのノートパソコンにメールを送信しておく。添付ファイル付で。
カントリスに託した俺からの手紙が届いたかは気になるが、いつまで使えるかも分からない、魔法が存在しない世界での魔力は出来る限り温存した方が良いだろう。
俺の名前は、こちらでは暦まとい。殿、はさすがにやめる事にした。
異世界の王国の第三王子ニッケル・フォン・ベリリウムコヨミは前世の姿。
魂の転生をした俺と入れ替わりで魂の転生をされたのが初代国王陛下の末裔殿であられる今の姿、まといさんだ。
それで、俺は現在、まといさんの姉君さとりさんの恋人であられる大学準教授一輪松葉先生の秘書として日々労働に勤しんでいる。
頭の上には、雀殿。
現世で初代国王陛下に協力し、異世界に転生された偉大なる鳥であられる高位精霊獣殿の末裔殿、チュン右衛門殿だ。
昼食は、人通りも少ないベンチの上なので特にどうと言う事もない。
実は、この雀殿、人気のない場所を察知して案内してくれているのだが、それは学内では俺と準教授しか知らない事だ。
今、俺達が話していたのは、先日何故か一時的に昼日中に夢渡りをしてきた俺のあちらでの友人(親友と言ってもいいくらいだ)の一人、カントリス・フォン・マンガンの件だった。
会話というか、念話だな。
『まといさん、カントリス殿のお顔を隠せましたのは御身の魔力と魔法の賜物です。素晴らしき事です』
『ありがとう、チュン右衛門殿』
そうだった、チュン右衛門さん、と呼んでほしいと言われているのだがまだ慣れない。
何しろ、この雀殿は先ほども言ったように、初代国王陛下が我が故郷、異世界に転生された時にお側にいらした雀殿の末裔殿であられるのだ。
つまり、俺にとっては恩人(獣?)の末裔殿でいらっしゃる。
『まといさんに殿呼びをさせたなど、転生をしてあちらでまとい様……ニッケル様の伝令鳥となりお仕えしております初代に叱られてしまいますよ』
確かに。
『そうだ、そう言えばこちらにおられる高位精霊殿、精霊獣殿もか、にはチュン右衛門ど、さんは会われた事があるのか?』
あちらでは情けない程度の魔力持ちだった俺が、こちらでは雀殿限定とは言え念話を使えて更に夢渡りの媒介者の様な存在にもなれている。
不思議だ。
『いえ、私はまだでございます。ですが、初代は紙芝居や演劇等で初代国王陛下があちらに興味をお持ち下さる契機になるべく知恵を絞りました友人が高位精霊殿ないしは高位精霊殿であられたと申していたと、代々右衛門一族に伝わる口伝にございました』
成程。
紙芝居や演劇が今では乙女ゲームになっているという訳か。そして、まといさんをあちらにお連れするよすがになった、と。
だけど、『キミミチ』の制作会社って本当に表に出ないよな。
俺の様に高位精霊殿か高位精霊獣殿が制作会社の人員の夢に現れて予知を授けられている、とか?
勿論、ホームページとか情報アカウントはある。
但し、問い合わせはメールだけ。
俺は問い合わせた事はないが対応は早く丁寧らしいとネットで見た。
あと、何故か会社のマークが狸なんだよな。社名は、ワナンカ。
チュン右衛門さんと共に調べたのだが、登記上の問題もなく、経営状況も良い。
ゲームのイベント等はないが、キャラクターグッズ展開は割と多い。
「ああ、あの子ゲームは戦略シミュレーションくらいしかしなかったから」とさとりさんが言われたように、まといさんはそういうグッズ展開? はあまり調べていなかったらしくて、ナーハルテのアクリルスタンド、というやつは固めた透明スライムみたいなものにゲーム画面のナーハルテを写したものだが良く出来ている。
まといさんも、こちらにいらした時にご存じだったら購入していただろう。
一輪先生が「ワナンカの公式通販サイトで見付けたからあげる! ダメ、転売!」と言って俺の職場の机に置かれているのだが、何故かナーハルテと俺とセレンという謎なセレクト。
俺もナイカ(ナイカ・フォン・テラヘルツ。魔道具開発局局長令嬢。イケメン令嬢の内の一人)を入手してさとりさん、でも姉上、でもなかった姉さん(まといさんが呼ばれていたお姉ちゃんは呼びにくい)にお渡ししたらたいへんにうけた。
一輪先生は、色違いのナイカと言えるくらいに似ているのだ。
まといさんがこの事を知ったら「ほーしーいー!」と叫ばれそうだな。
それに、まことしやかに囁かれている『キミミチ』新作の話。
携帯版が出たのでそれでお終い、かと思っていたのだが。
『もしかして、私が人型になる様な事態がございましたら高位精霊殿、高位精霊獣殿にもお目にかかれるかも知れません』
『なるほど。初代国王陛下があちらに渡られるきっかけとなられた初代の雀殿も最初は人型になられていたのだったね』
『左様にございます』
チュン右衛門ど、さんの人型。
見てみたい気はするけれど、そうなるとまた色々ややこしい事にならないだろうか。
俺は今の生活、かなり気に入っているのだが。
まあ、魂の転生をされたまといさんのご苦労に比べたらこれくらいの事は、とも思うが。
そして、ナーハルテ・フォン・プラティウム。
嘗ての俺の婚約者。今は大切な友人。
彼女は今きっと、幸せだろうと思う。
そう、側にあの方が居て下さるから。
そう、俺は。
ナーハルテの事を思うと、つい、ないものねだりをしてしまうのだ。
君の様にときめくことが出来る相手に、俺もこちらで会えたら良いのだがな、と。
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