301-八寸剣鉈さんと私達

『改めまして末裔殿、八寸剣鉈に存じます。百斎様がこの国の前身の聖教会をまとめるお立場になられました際にコヨミ様から贈られました存在にございます。八ちゃんでも八でも、お好きにお呼び下さいませ。本当に久々に魔力に拠らない『気』を頂戴出来まして、今でしたら多頭蛇でも一刀両断しまして、双頭蛇殿にお戻しできそうです』


「やだなあ剣鉈、いくらご機嫌でも、多頭蛇と言えばあの国の聖大司教の召喚獣じゃないか。まあ、双頭蛇殿にお戻ししたいのは僕も同じだけれどもね」


「あの国…ああ、あの聖女様が顕現されたという伝説がある国! だけど、聖教会本部の聖女候補ちゃんであの国近くの出身の子なんて、あの国が依頼した人狩りから逃げてきた子もいるのに! 自国にふざけてる! そういうの全部、大陸の聖魔法関連機構とか、大司教様達の糾弾をのらりくらりと躱してるんですよね? 自分の国の聖教会がそんなじゃあ、聖女様が絶対悲しまれますよ! そもそもその多頭蛇さんも、聖女様が召喚されたのを代々受け継いでいるだけで召喚主でもないくせに! 多分剣鉈様は指示する主頭は残して、召喚から抜けられる様にしてあげようとしておられるのでは? お優しいですね!」

 

「素晴らしいです、セレン様。他国の召喚の状況にまで理解を広げておられるなんて!」


 ええと、はい。 

 私の『気』、お役に立てて良かったです。


 て言うか、聖国……ひどくないか?

 聖女様、本当に嘆かれるよね?

 許せないな。

 

 あと、何だろう、聖魔力保持者が現れない……。何か、ひっかかる……。


『気になる?』

 

 あ、リュックさん。 

 そうだね、気にはなるけど。


 後で寿右衛門さんにも訊いてみようね。

『そうですね。それが一番かと』

 ね。そうだよね、黒白。


『あ、じゃあ、紙綴さんに言っておくよ』

 え、そんな事も出来るの?

 

 確かに今、紙綴さんは寿右衛門さんに預けてるけど。

 

『紙綴さんは特別』

 そうなんだ。まあ、そういう事にしておこうか。


 とにもかくにも、ご挨拶。


「恐らく、百斎さんのお側で聞いていらしたかと思いますが、初めまして、初代国王の末裔、魂の転生をしまして、あちらでの名前は暦まといです。剣鉈殿、こちらでは第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミと申します。よろしくお願い申し上げます」


『ご丁寧にありがとうございます。末裔殿……第三王子殿下は勿論ですがご婚約者であられる筆頭公爵令嬢殿も聖女候補殿も、ご自由にお呼び下さい。ああ、聖女候補殿は良く学ばれていますね。良い事です。そうです。多頭蛇は被害者なのですから』


 ええと。

「では、八さん?」 


『良いですな、それでお願い申し上げます』


「では、わたくしは八様と」「あ、ありがとうございます! じゃあ私は八殿で!」

 

『いずれもその様に。あ、殿下、是非に芝達の上に転んで上げて下さい。皆が喜びます』


「どうぞどうぞ。ナーハルテ筆頭公爵令嬢もセレン嬢も芝を楽しんだら、ここを出て買い食い、楽しんでいらっしゃい。剣鉈をお貸ししますから、何があっても大丈夫!」


『その通りです。何かをしてきた相手は大丈夫ではないですが、皆さんは絶対に大丈夫です!』


「あたしも雷パンチをぶつけますから! それにしてもこのわさわさ芝に転がって良いのですか? 楽しそう! あ、ナーハルテ様には何か着替えを……って、リュックちゃん偉い! 簡易テント? はい、じゃあ行きましょう!」

 

「え、あ、はい……あ、わたくしも転がる……のですか!」


 あっという間に、青々と茂る芝の上に籠バッグなリュックちゃんが取り出しましたのは……簡易テント!


 多分、天幕さん系だよね。

 その中にナーハルテ様を軽く押し込み、自分も入るセレンさん。

 朱々さんともだけど、魔道具さん達とも仲良いよね、セレンさん。


 本当に、『キミミチ』の聖女候補とは違う!


 そして、戸惑いのナーハルテ様を見られて内心嬉しい私でした。


『殿下、ちょっとだけ待ってて下さいね!』


 気にせずどうぞ、むしろナーハルテ様をお待ちするこの時間もご褒美です、とセレンさんに返してからふと思った。


 コヨミさん、召喚獣の浅緋さんにも武器、渡してたのかなあ。


『あ、その通りです。刺々しさ満点の金棒ですよ。私の友人です。いやあ、懐かしいなあ。大司教様、百斎様が私でスパスパ、聖魔法大導師様、浅緋様が金棒でドカーン!と!』


 スパスパ。ドカーン。

 

 聖教会本部の双璧がそういう物理的解決、良いのかなあ。


『あ、いえ、勿論、防衛と他者、善良な国民を守る為ですよ?』


 あ、うん。それは信じてますよ。 

 それは、ね!


 多分、そういうのも含めて、それでもやっぱり百斎さんと浅緋さんに自分自身を守ってほしいから、コヨミさんは八さん達を渡したのだろうな、と考えを改めた。


『そうです、私達は、傷付ける為だけの存在ではありません。守る為にも在ります。では、そろそろ』

 

 そうだね、八さん。また今度。

 

 私は、土に刺した八さんを抜いて、浄化魔法を掛け……ようとしたら刀身が綺麗で驚いた。


 八さんの……自浄魔法だ!


『ありがとうございました』

 

『どういたしまして』

 挨拶をしたら、リュックさんが預かってくれていたのだろう、飛び出してきた八さんの覆い、麦藁色の剣鞘が刀身を覆った。


「動きが良いです。剣鉈。殿下達の御身をよろしく頼むね」

   

 百斎さんは、私に会釈してから八さんを私の背中のリュックさんに収納してくれた。

 自分の代わりに、と声掛けをしながら。


 そうか。


 百斎さんにとって、八さんは武器じゃなくて。

 

 分身とか、そういう存在。


 きっとそれは、浅緋さんの金棒さんもそうで。

 金紅さんの長剣さんやアタカマさんの斧槍さん、金剛斧槍さん達も恐らくは。


 いつか、私も自分の武器を持つ事があるのなら。 

 だとしたら、百斎さんと八さん達みたいな関係になれると良いなあ、と少しだけ憧れてしまった。


 まあ、私には国宝級か、もしかしたらそれ以上な魔道具さん達がいてくれるから、そんな機会はないかも知れないけれどね。











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