296-空席の貴賓席の私達

「皆に来てもらえて良かったよ。今日の二試合は実に素晴らしかったね。参加者四名と大司教様そして聖魔法大導師様には感謝を申し上げます」


「「「「光栄に存じます」」」」

「「全ては聖霊王様、精霊王様、そして初代国王陛下のお導きに存じます」」


 騎士の礼と、聖教会の正式な礼の皆さん。

 兄上も含めて、整えられた皆の動作が荘厳さを醸し出していた。


「……では、ここからは内々の話をさせてもらおうかな」

 荘厳な雰囲気から一転、気の置けない雰囲気に。

 その切り替えもさすがです、兄上。


 兄上に呼ばれたこの空席だった地上闘技場の貴賓席は内部が亜空間になっていた様で、私達がいた貴賓席とは広さが異なっている。


 壁の厚さは、同じに思えるのだけれど。


 こちらに呼ばれたのはセレンさん以外のハンダさん達コバルト家の皆さんと、護衛(必要かなあ? って方々だけどね!)として一緒に観戦していた緑簾さん。


 ネオジムさんは、多分カクレイさん達が用意されたのだろうエルフ族の準正装(なんだって。寿右衛門さんが教えてくれた)。

 体型の良さを引き出しながらも優美な雰囲気の絹のドレス。

 基本は白なのだけれど光を反射して銀にも見える。スパンコールみたいなキラキラは極小の魔石なんだって。


 ハンダさん達は緑簾さんと同じタキシード姿。

 皆さん本当にお似合い。誂えて下さった兄上もさすがです。

 キラキラ素敵なネオジムさんを皆でエスコートしているみたい。


 それから、先程兄上と挨拶を交わしていた大導師様浅緋さんに騎士団団長金紅さん副団長アタカマさんにライオネア様とスズオミ君。

 後者二人は、第二試合前に着替えた準礼装の学院の制服で、金紅さんは簡易鎧に変化された金の魔石さんを身に着けている。

 ライオネア様と金紅さんは本当に眼福! な美形父娘様!

 スズオミ君も凛々しいんだよ、存在感が増してる! 試合のお陰かな?


 アタカマさんは試合で破損した斧槍の補修の為に防具から変化された金剛石さんの代わりに予備のタキシード姿。

 やっぱり、体型がすごくがっしりとしていて姿勢が良いから本当に格好いいの! て言うか、皆さんも元々がっしり系のイケメンさん達だからね。


 カバンシさんは、知性派な雰囲気もあるけど。

 あとは警備責任者の千斎さんと現場責任者の寿右衛門さん。

 それから私と男装の麗人、朱々さん。以上。


 豪華だ。兄上は言わずもがなな素敵王子様。


 選手の皆さんは勿論、私達も休憩や軽い飲食は済ませた上での集会。


 さすがは兄上。

 その辺りも踏まえた時間帯の招集だった。


 あ、ナーハルテ様とセレンさんは大司教様百斎さんと一緒に地上闘技場の芝と土を癒してくれています。

 あと、もしかしたら魔法貝もなのかな?


 そして、今回の試合の立役者とも言える魔石殿達。武器はそれぞれの所有者の本来の姿に戻っている。

 アタカマさんの斧槍さんだけは金剛斧槍さんになってるけどね。

 国宝級の長剣さんはきちんと金紅さんの剣鞘と剣帯に収まっています。


「とりあえず、皆座って。飲み物は……ああ、ありがとう」


 給仕をしてくれている兄上の傍仕えさん、か、かわいい!

 熊のお耳でお顔は人な美少年獣人さん。


 髪の色……黒、じゃないんだ?

 黒に近い藍色、かち色って言うんだね。蜂蜜色の大きな目、くりくり!


 魔力の気配からして、きっと、名のあるお家の方だよね?

 従者見習いも見聞の為とかなのかな。


 あ、今更が過ぎるけど、理系の私が色彩の名前に詳しいのもニッケル君の知識のお陰です。


 でも、あちらの一輪先生が好奇心旺盛な方だったから色彩辞典とか色々読ませてもらえてたからっていうのもあるんだよ。


 私は面白いからだったけど、王族ニッケル君の場合は、髪の毛とか目の色で出自を判断出来たり、判断が出来ないと王家の血族なのに……とか侮られる可能性も無いとは言えないから必要だったんだって。


 あと、寿右衛門さんとハイパーも合間に色々捕捉してくれてるからそれも記憶してるよ!


 ところで、傍仕えさん、朱々さんみたいな男装……じゃないよね。


『ご明察です』

 良かった。ありがとう寿右衛門さん。


「確認したいのはハンダ-コバルト殿の準辺境伯位の叙爵の件だ。先程、閉幕前の挨拶でその旨に触れたことについては事前確認をしてはいなかったが、カバンシ殿にはお伝えしていた事なのでご了承頂きたい」


 兄上が、カバンシさんを見た。

「ええ、第二王子殿下から内密にお話頂きました。僭越ながら私から伝えましたので、こちらのネオジム博士も了承してございます」


「はい。むしろ、20年以上もお待ち下さいました王家並びに辺境伯家の皆様方のご理解とお心の深さに感謝申し上げます。夫がたいへんに失礼を致しました」


 揃って軽く頭を下げる二人に、兄上は優しくお声掛けをする。


「むしろ、此度のニッケルの転生の件でご迷惑をお掛けしたのは我々の方です。特にご令嬢にはご心痛を与えてしまいましたね」


 兄上が、非公式な場だからと少し頭を下げられた。


 慌てて止めるハンダさん。

「いや、第二王子殿下……! 内密に、って……あ、俺が第三王子殿下のおかかのおにぎりガツガツ食ってた時だな? いや、それは、いやあ、……はいはい、分かりました!セレンの聖魔力とか、ネオジムがすげえエルフ族の血族とかあっから、色んな意味でお受けした方が良いのは分かってます! 仕方ね、じゃねえ、もら、頂きます! 準辺境伯爵位! 煮るなり焼くなりご自由に! ほら、頭を上げる! あ、でも、俺の出自は……」


 出自。


 そう言えば、セレンさんからも、ハンダさんの方のご血縁の話は聞いたことなかったな。


「その件は叙爵決定の検討の際に把握済みです。相手が出自と主張する国と、ハンダ殿が出自とされるお国、いずれにも我が国から調査、確認を経て後者のお国からは場合によればご助力を頂けると公正証書を頂いております」


「そ、そうかそこまで……。なら、何も言わねえ。ただ、セレン、娘にはまだ内密に願えますか」


「それはハンダ殿、カバンシ殿、ネオジム博士にお任せいたします」

 兄上とハンダさんのやり取り。


 うーん、私、ここにいる意味あるのかな。


 ハンダさんの過去に訳あり、みたいなのは冒険者さんだから色々あるよねきっと。


 それにしても、傍仕えさん、私の魂の転生の件までご存知なんだ?

 もしかしたらナーハルテ様の姉君お二人のどちらかの滞在先のご出身なのかな。


 白様にもお会いしたいなあ。

 今、上のお姉様が嫁がれるご予定の国で委細説明中なんだよね。


 ふわふわ、もこもこ、ポフポフ。ピンクのぷにぷに肉球。

 懐かしい……。


 また後でリュックさんに出してもらおうかな、あのふわふわ。

 さすがに、肉球を拝借するには白様ご本人でないとね。


 ナーハルテ様と日向でふわふわ……あ、ダメだ。

 さっきまで、一緒に観戦出来ていたから余韻が。


「それで、叙爵の際にはご令嬢の婚約者候補も同時に発表する事になります。……お覚悟を」

 

 本当にしっかりしないと、ってあれ、かわいい傍仕えさん、何だか魔力の気配が……?


 え、ハンダさん、何で汗かいてるの?


 叙爵が本格的になってきたからハンダさん程の人でも緊張……とか?


 どうしよう、本当に癒やしのふわふわ、必要かなあ?


 今は、さすがに出せないよねえ……。

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