295-聖魔法大武道場剣術試合全行程の終了

「……王家の御前試合でも、これ程の闘いはそうはあるまい、という良き試合を見せてもらった。第二王子として、観客の一人として勇士達に感謝を。そして、最後に一つ、この場を借りて告知を行わせてもらいたい。此度の剣術試合を観覧する者であれば知らぬ者はなかろうという存在、貴賓席におられる元邪竜斬りにして我が国の英雄、現役最強のダイヤモンド階級冒険者ハンダ-コバルト殿の叙爵式が近くに行われる予定である。王家は全権を辺境伯家に任せている為、新聞や情報水晶の記事をこまめに確認する事を勧める!では、以上、第二王子、バナジウム・フォン・カルノー・コヨミ、静聴に感謝する!」


 副団長アタカマが控え室で第三王子の伝令鳥に記入済の書類を手渡していた頃、地上闘技場で行われていた聖魔法大武道場剣術試合閉会の議は恙無つつがなく進行していた。


 第二王子に送られた大歓声と英雄叙爵の告知への祝いの言葉が飛び交う中、貴賓席から顔を出した英雄本人が正装姿で「いや、第二王子殿下の話は良かったけど、俺の叙爵にはそんなに注目しないでくれ! 何なら無視して欲し……」と言い掛け、同じく正装をした二人、相棒の人型の元邪竜と第三王子の召喚獣に羽交い締めにされて貴賓席に戻されて観客に大爆笑された以外は。


 これもまた、英雄本人の親しみやすさと高い好感度故である事を観客のほぼ全数が知っての大爆笑ではあったが。


 そして、地上闘技場内の一角、一般客と同様の席ではあるものの、記者用に設けられた記者席には筆記具を走らせる者が多い。


 この剣術試合は、取材用の映像魔道具等の使用は不許可で、後日、公式の試合映像の写しが配布される事になっているが、筆記による記録には制限が設けられていないからだ。


 今日の夕刊と明日の朝刊には間に合う時間帯だが、この臨場感を如何に伝えるかが記者達の腕の見せ所なのだろう。

 既に通信伝令鳥が地上闘技場の外で待機している媒体もある程だ。


 挨拶を終えて、盛大な拍手が落ち着いた頃、第二王子は礼をして貴賓席へと下がって行った。


 その後は大司教の締めの言葉だった。


「これにて聖魔法大武道場剣術試合は閉幕となる! 無事に終えられた事に感謝を! そして良き応援だった! ありがとう! では皆、興奮冷めやらぬ中の退場となるので遺失物や転倒等にはくれぐれも注意を! また、この試合の観覧券は周辺屋台の品一品と引き換え可能なので、飲食も楽しんでいくと良いぞ! 乗合馬車は夜まで増便されているし宿泊施設の相談窓口もある! 急ぎの移動が必要なのは業務を抜けてきた又は夜間勤務と交替してもらった騎士団団員のみ! それでは!」


 地上闘技場が拍手とそして再びの大爆笑と共に散会した。

 

 これで、周辺屋台の売り上げは天井知らずになり、乗合馬車や宿泊施設の経営者達の懐も豊かになるだろう。

 併設施設で飲食や宿泊をおこなう者も少なくはあるまい。


 方々に設置されている聖教会への寄進箱にもかなりの枚数の銅貨や銀貨が入っている様だ。

 これは、勿論強制ではない。


 自分達の寄進が巡り巡って地上闘技場の様に皆を豊かな気持ちにさせてくれる設備や医療の充実等、良き用途に用いられる事を知っているからこそである。


「さあて、と。茶色殿は副団長の所とか諸々お使いをしてくれているから、魔石殿達はどうされますか? この地上闘技場の整備を手伝って下さいますか?」


 貴賓席以外が空席になった事を全範囲の確認が可能な視聴聖魔法で確認した後、大司教が頭上を見上げた。


『いえ、名誉の負傷から復活と再生を成された斧槍殿と金剛石の為に』『、新たな魔石を探しに行って参ります』


 大司教の問い掛けに、透明水晶と鎧岩が大型の時計への変化を解き、応える。


 そして、そのまま転移を行った。


「金紅殿と若い二人は少し休んでおきなさい」


 それを受けて、聖魔法大導師は軽々と三名と金の魔石を控え室に転移させてしまった。


 そこに、『聖魔法大導師殿、大司教殿、概ね良い反応ばかりですが、一つだけ懸念が。音声を転送いたします』


『たまにはパパ、と呼んでも良いんだよ、千斎? あ、お父様、父上、お父さん、お父ちゃん、お父ちゃま、でも』


殿、こちらが音声です。』


『ありがとう、魔法隊隊長。……ほら、百!』


 警備責任者としての務めを果たした息子を揶揄からかうな、と聖魔法大導師が転送された音声を再生する。


『……ついに叙爵、か。婚約者候補の件、急がねばな』

 巧妙に音声阻害を掛けていた様だが、その一言を残した者達が記者席に居た事を騎士団魔法隊隊長、千斎は聞き逃さなかったのだろう。


『愚かな事を。どうせ記者席に潜り込んであわよくば聖女候補とハンダ-コバルトに接触しようとしたのだろうな』


『……緑、緑簾を聖女候補と共に配置したのは良かったな。あいつら、への牽制を元邪竜と共に良くやってくれた。……聞こえましたか、第二王子殿下』


『……傍仕えと共にこの第二王子バナジウム、確かに承りました。それでは、少し休まれてから皆さんも空きの貴賓席に集合なさって下さい』


『了解しました』『はい』『承りました』

 第二王子に応えた聖魔法大導師、大司教、そして騎士団魔法隊隊長。


 こうして、聖魔法大武道場地上闘技場剣術試合は無事に終了し、ライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢とスズオミ・フォン・コッパー侯爵令息の婚約も無事に解消に至った。


 新聞や雑誌の記事の多くは試合内容とハンダ-コバルトの叙爵についてであろうが、こちらもすぐに国中に伝わるだろう。


「婚約者の席を空にしない様に配慮すべきだろうね」

「候補でも良いので、とにかく空席にしなければ良かろう。……まあ、貴賓席で話せば良い。とりあえず、お疲れだったな。百よ」


「お互いにね。浅ちゃん。……まあ、一つだけ懸念があるけど、まあ、これ位はね。」

「ああ、一つで済んだのだ。良しとするべきだ。」


 大司教と大導師の会話もとりあえずは落ち着いたものとなった。


 聖魔法大武道場剣術試合全行程、終了。


 二人が述べたただ一点、コヨミ王国の聖女候補セレン-コバルトを我が物とせんとする国、聖国が記者として紛れていた事を除けば、円満具足と言える大成功であった。











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