292-聖魔法大武道場剣術試合第二試合と聖魔法大導師

 1、2、3、4、5……10!


 脳内での思考剣術を終え、静寂を切り裂く勢いで動いた二人の剣戟が各々一閃のみではない事に気付いたのは私と百と……。


 まあ、それは良い。


 斧槍と凧型盾と交差する動き。

 そして手刀が絡んだ剣戟。見事だ。


 そもそも、私と百とで整えたにも拘わらず斯様に地上闘技場の芝が乱れているのもその証左だ。


 二人から溢れ出す魔力。

 それは体内から体外へ発せられ、芝にもそれは届き、踏みしめられて倒されていく。


 それらの魔力が芝を媒介として再び彼等の体内へと循環していく様子は、植物が二酸化炭素を取り込み、酸素を排出するかの如く。よって、二人の体に疲労は僅かしか存在していない筈だ。


 若き二人は芝達へ魔力を伝えるのみで、循環させる事はまだ能わない。

 そこで、この地上闘技場を支える芝と土と魔法貝達が溢れた彼等の魔力を吸収し、闘志に溢れた魔力のみに流されて勝利に固執し過ぎぬ様に補助していたのだ。


 因みに、多少の乱れがあった芝達は休憩時間内に私と百斉が整えた。

 造作もなかった、というのは我々だから言える事だろう。


 然しながら、騎士団団長と副団長の二人にはその補助は必要ない。それ故に、この芝達はかなり乱れている。


 などと考えていたら、二人は打ち合いの末にまた距離を取り始めた。


 ここですぐに打ち始めないのは、互いの力を知り尽くしているからであろう。


 そうだ、時間は。

 先程の集中の為に取った時間もある。……大丈夫か。まだ、15分ほどはあるな。


 それにしても、地上闘技場の観客達は実に静かだ。この試合の邪魔をしたくないのだろう。


 私もこの好勝負に水を差さない様にしたいのはやまやまだが、やはり、一応伝えておくか。


「残りはおよそ15分。時間の感覚はあるかな、二人共?」


「はい……」「ありがとうございます、時間というものを忘れかけていた」


 副団長の返事は短かったが、恐らくは団長と同じだろう。


 分かるぞ、私も嘗て百斎と闘った時はそうだった。楽しくて、時間というものを忘れてしまうのだ。


 それでも、これは剣術試合。

 一方は斧槍で、もう一方は手刀。


「やはり、


 ふむ、副団長は両手持ちにしたか。もう防御は不要、という事だろう。

 任せなさい。致命傷でも瞬時に治してやろうぞ。


「……ならば」

 団長は、敢えて獅子の手から


 こちらは、魔力を腕のみに、という事か。


『よし、実況だ、百、行け!』

『ほいきた!』


「よぉぉし、皆の者ぉ、ここからはまばたき一つもまかり成らぬぅ! 後悔をしたくなければぁ、ただ一つぅ、刮目して! 見よ!」


 うおおおっ!


 うわああっ!


 地上闘技場内に溢れた、最後の声援。


 それが、第二試合で最も激しい剣戟の交差の合図だった。


 振り下ろされた両手持ちの副団長の斧槍。金の凧型盾で避けながらもごうん、と獅子の手を奮う団長。


 金剛石の防具に守られた体が、メキリ、と音を立てる。


 続いて、めり込む筈の団長の手刀。

「払ったくらいじゃあ、防げねえのは承知の上!」


 その瞬間。

 副団長の動きに私さえも目を疑った。 


 斧槍の柄を、離した? ……違う!


 柄を離した、否! のか!


 やるな、副団長!


 斧槍の柄の根元でしたたかに団長は打ち据えられ、額から流血していた。


 それなのに、実に嬉しそうに笑っていたのだ。

 

 流血。どうする、試合を止めるか?


『いや、続ける、でしょう?』

 そうだな、百よ。


 と言うよりは、もう既に二人はまた剣戟を交差し始めているぞ?
















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