282-聖魔法大武道場剣術試合決着直前の僕
「残り時間は20分!」
聖魔法大導師様のお声だ。
いつの間にか、そんなに時間が過ぎていたのか。
キィィィィィン……。
刺突からの衝撃。
僕自身、これを抑えられている事が不思議なくらいに重い剣戟。
鎧岩殿が加重を受け流して下さっているのだろうか。
それでも、重い。その上、細剣の細かな動きの分、更に捌くのが難しいのだ。
しかも、ライオネアの魔力の質……? が変化している様にも思われる。
それを、愛用の長剣を繰り出して何とか躱す。
カン、カン、ガキッ!
……堪えた!
『違う! 来るぞ!』
カラーン、カラカラ……。
何だ?
捻りを加えた魔蛇の様に、細剣が僕の長剣を躱し、突撃してきた。
そして。
『その感覚だけに囚われてはいけない! 今から大導師様が目眩ましをして下さるので試合に集中を!』
透明水晶殿のお声?
そうであるならば、何故僕にまでお声をお聞かせ下さるのだろう?
集中? おかしい。
試合中のライオネアが集中をしないなど、有り得ない。
まさか、この魔力に戸惑っているのか?
これは、この魔力は。
聖魔力に目覚められ全属性保持者となられたナーハルテ様の如き、新たに現れた魔力なのか?
『ライオネア・フォン・ゴールド、湧き上がる新たな力に囚われて己の意志と異なる思考に躍らされてはならぬぞ! 己自身を取り戻せ!』
聖魔法大導師様の念話。
これもまた僕にまでお聞かせ下さっている。
共に舞い上がる幾つもの竜巻。
風圧は届かず、塵も僕達の所を避けているかの様で。
僕達を守って下さっているかの様だ。
「おおーっと、両者の闘気が竜巻を呼んだあぁっ! 臆するな、そして両者の姿が現れる時を刮目して待て!」
そこに、大司教様の実況のお声が聞こえた。
それに続いて、
「うおお、すげえ、すげえよ! 頑張れよお! 勝て! って言うか、二人とも勝ちで良いくれえだ!」
「面白いことを! でも、やっぱり皆は最後まで観戦したかろう!」
「……その通りだ! おい、闘技場内の皆ぁ、竜巻が晴れたら精一杯応援すんぞ!気合いを溜めとけ! 声が枯れない様に気を付けろよ!」
『ライオネア様、そのお姿も素敵すぎです!でも、ご自身でそのお姿に変化なさって下さい! お守りさん、お願い!』
ハンダ-コバルト殿、カバンシ殿、緑殿に、セレンだ。
セレンは、念話。
お姿?
確かにライオネアの鎖帷子姿は優美で美しかったが……?
お守り? が必要な状況なのか?
そこで、僕は見た。
金の目が常よりも輝き、魔力さえ金の光彩。
そして、髪の毛と、顎の周囲……、頸部のそれはまさか、
まさか、そんな。
いや、ゴールド家の初代様は獅子の精霊獣であられるし、団長閣下の雄々しき獅子の獣人のお姿は騎士皆の憧れだ。
そうだ、この獣人化。
皆様方やセレンには竜巻の中が見えておられるのだろう。
恐らく、貴賓席の全ての皆様方にも。
団長閣下と父上……副団長閣下は勿論、大司教様と聖魔法大導師様、それに魔石殿達と魔法隊隊長閣下と、第三王子殿下の伝令鳥殿。
何だ、不安になる事など無かった。
周囲には鉄壁の布陣。闘技場内の皆は安全。不安は皆無だ。
ならば、僕は僕のままで、ライオネアと相対するのみ。
「おお!」「すげえ、元邪竜斬りのハンダ-コバルト……さんだ!」「じゃああれ、隣の似てるけどめちゃくちゃ賢そうで激イケメンな方は……元邪竜……殿!」「え、あれ、あの緑色の素敵な方……噂の第三王子殿下の召喚獣殿かしら?」「あ、聖女候補殿!……に、あれ、噂の名医、ネオジム博士か!」
凄いな。
セレンの父君はあっという間に地上闘技場内の雰囲気を変えてしまわれた。
それに、セレンの念話。
本当にセレン、君はライオネアの事を応援してくれているんだね。
僕も、似たようなものだよ。
耳が獅子の耳となり、普段以上に髪と目が黄金色。
均整の取れた腕は獅子のそれになっていた。
そして、あの跳躍。僕が見惚れたあの姿は。
『来るぞ!』
突如、ライオネアの刺突の勢いが増して、僕の長剣を弾いた。
当然だが、ライオネアの力は強い。
然し、これは……!
まるで、生き物の様だ!
いや、それより、剣を取りに行かないと!
何をしているんだ、僕は!
決意したばかりなのに!
丸腰でライオネアと試合など、常時のライオネア相手でも正気を疑われても仕方ないぞ?
取り敢えず、距離を!
そう考えた時。
『私の名前を呼べ、スズオミ・フォン・コッパー!』
『まだ大丈夫だ。呼びなさい、細剣と、護符を。そして自身を取り戻しなさい。ライオネア・フォン・ゴールド』
透明水晶殿のお声と同時に聞こえたのは、何方かのお声だ。
何方かのお声の方が幾分か早かったか?
『そうだ、その通りだ。惑わされず、良く
透明水晶殿。
ライオネアは漲る新たなる力からもたらされた勝利への誘惑にも呑まれず、僕に一撃を喰らわせることもしなかった。
そして、僕の動作を待ってくれている、のか?
その清廉さに対して僕は、僕には何が出来る?
そうだ! 呼べ、お呼びするんだ!
「そうです、
『よく呼んだ! すまぬが拝借するぞ、獅子の騎士よ!』
縞殿の魔力が土を巻き上げる。
すると、涼しげな一陣の風が吹き、ライオネアの二本差しの剣帯から長剣を
そして……ライオネア愛用の長剣は、僕の手の中に。
『すまない。君の主と闘う為に、力を貸しておくれ』
『大丈夫。この剣は君ならば、と。主を頼む、とも』
ライオネア愛用の剣殿、そして鎧岩殿、いや、縞殿。
ありがとうございます!
「ありがとう、スズオミ。残り時間、悔いなく闘おう!」
「ああ!」
ライオネア、やはり君は雄々しい、そして美しい。
男とか女とか婚約者とか、そんな事は今はどうでもいい。
とにかく、君と今、闘える。それがとても、嬉しいよ!
「良く言った! 残り時間は5分!」
聖魔法大導師様のお声と共に静まる竜巻。
君達も、ありがとう。
地上闘技場全ての耳目よ、ご覧あれ。
スズオミ・フォン・コッパー、生涯最大の闘いに、今、出ます!
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