281-聖魔法大武道場剣術試合決着前の自分
「残り時間は20分!」
聖魔法大導師様のお声が聞こえた。
キィィィィィン……。
細剣から刺突を放つ度に響く衝撃。
自分が言うのも……とは思うが、かなりの重圧と衝撃波だろう。
堪えているスズオミには本当に頭が下がる思いだ。力を付けたと感じていたが、ここまでとは。
本当に良く鍛えてくれた、と敬意まで覚えてしまう。
だが……。
先程から、自分の魔力の質が変化している様な気がするのだが、これは、スズオミの強さに歓喜した高揚感故なのだろうか?
その間にも、長剣を上手く使い、自分の刺突を抑えるスズオミ。
カン、カン、ガキッ!
通常の刺突であれば、今の彼には弾かれているだろう。
然しながら、自分の細剣はまるで利き腕の様にスズオミの長剣を躱し、突撃する。
『その感覚だけに囚われてはいけない! 今から大導師様が
透明水晶殿の檄が飛ぶ。有難い。
集中。そうだ、自分は今のスズオミにはもしかしたら、勝てないのかも知れない。
勝てないのかも知れない?
何故、ここでそう思ったのだ?
自分はいつも、勝ちたいとは思っていた。
それは、言わば負けることもあるだろうという気持ちも持ち併せた表裏一体のもの。
だが、勝てないのかも知れない、とは考えたことは決して、ない。
だが、今は?
スズオミの研鑽の成果、この剣戟の交差。
時間が過ぎて、引き分けになるなら、それでも良い筈。
ただ、全力を尽くすのみ。後悔はない。
なのに、何故。
それに、試合時間はかなり経過している。
スズオミの技量は高い。
それなのに自分のこの力は、何だ?
何故、これ程の力が今、湧く?
勝てないのかも知れない?
『ライオネア・フォン・ゴールド、湧き上がる新たな力に囚われて己の意志と異なる思考に躍らされてはならぬぞ! 己自身を取り戻せ!』
迷走する自分に活を入れる様に届いた聖魔法大導師様の念話と共に舞い上がる幾つもの竜巻。
自分とスズオミの為の壁であるかの如く。
すると、途端に自分の細剣から発せられた刺突の勢いが増して、スズオミの長剣を弾いた。
まるで、意志を持つかの様に。
違う。これは。
自分の力ではない!
『私の名前を呼べ、スズオミ・フォン・コッパー!』
『まだ大丈夫だ。呼びなさい、細剣と、護符を。そして自身を取り戻しなさい。ライオネア・フォン・ゴールド』
透明水晶殿のお声と同時に聞こえたのは、
何方かのお声の方が幾分か早かったか?
そうだ、細剣は。
それに、護符。……そうだ。
細剣を握り直そうとした時、はたと自分の動きが止まった。
手が。獅子の手になっていたのだ。
これは、獅子の獣化? 自分が?
父上に忠告を頂いた、あの。
そして、体が軽い。
長剣から細剣に代えた時に跳躍した以上に高く跳べそうな気がした。
そうだ、スズオミに剣を返さねば。
返す? 何故?
何を言うのだ、自分よ。
まだ迷うのか?
先程の刺突は自分の力ではなかろう?
長剣を拾い、スズオミに返して、仕切り直すのだ。そして、ぎりぎりまで互いの力を尽くして闘う。
当然だ。
……当然なのか? このまま勝利を得れば良かろう?
……違う、違う、違う! 自分が自分を侮辱するな!
私はライオネア・フォン・ゴールド。初代の獅子を継げたというのならば、その誇りを守り、闘う!
『そうだ、その通りだ。惑わされず、良く
「そうです、
そこに、透明水晶殿のお声と、スズオミの声。
『よく呼んだ! すまぬが拝借するぞ、獅子の騎士よ!』
そうだ、このお声は。
スズオミの防具殿、鎧岩殿のお声だ。
すると、土を巻き上げた新たな一陣の風が吹き、自分の二本差しの剣帯から長剣を
同時に、剣帯に結んでいた護符が細剣の
それと共に、自分の高揚感は霧散して、代わりに疲労感が体を巡った。
何故だろう。疲労が心地よい。
そして自分の長剣は、スズオミの手に。
……良かった。
「ありがとう、スズオミ。残り時間、悔いなく闘おう!」
「ああ!」
「良く言った! 残り時間は5分!」
慣れない筈の獅子の手に、吸い付く様に細剣が馴染んだ。
薔薇の花弁を模した柄に、母上と……の面影が見えた気がした。
聖魔法大導師様のお声と共に、竜巻が静まる。
勝てないのかも知れない、ではない。
勝つのだ。但し、己の力で。
獅子へと獣化したこの力も、己の力としよう。
自分は君の憧れなどではないよ、スズオミ。
1対1。
君と自分は、対等だ。
真に競い合える、我が友よ。
短いが、残された貴重な時間、心ゆくまで、
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