280-聖魔法大武道場剣術試合の聖魔法大導師

『それは我々も同様。透明水晶も鎧岩もでしょう』

『ああ、それに狐殿と……殿も』


 聞こえてきたのは、今回の試合で若き者達(私や大司教百斎からすれば団長副団長も十分に若い)の防具となって下さった魔石殿達、金殿と金剛石殿の声だ。


 大司教百斎の狐は残し、私の鬼は音声阻害を掛けて頂いたのか。

 あの二人ならば構わぬのだが、まあご厚意と捉えよう。


『そうですね、出来得る限りの協力を。大導師も同じ気持ちですよ』


「おおーっと、ライオネア、跳んだー! 人力でこの跳躍は凄い、凄すぎる! そしてここで武器を細剣レイピアに代えて、……刺突の一閃! ……おお、スズオミ、防いだあ! やった、やったぞぉ!」


うすちゃん、そろそろだよ。準備は?』

『誰に訊いているんだ、ひゃくよ。出来ている。それにしても実況? 解説? が上手いな』

 さすがは大司教。

 地上闘技場内の各方面に対して抜かりがない上に三者への同時会話とは。


 二人に伝えた私の心中も間違いではない。

 

 それに……。

 浅と百。気の置けない会話の時の呼び方だな。

 その程度には余裕があるという事か。


 それにしても、聖女候補セレン-コバルトの念話術式案は素晴らしいものだった。

 第二王子殿下に控えし者も喜んでいるだろう。


 術式に改良を加えたのは私と百斎。

 コヨミ王国初代国王陛下ないしは現第三王子殿下に対する心からの敬意を持たぬ者には扱えぬ術式なのだ。

 無論、我々の様に両の御方々に対しての敬意を持つのであれば更に術式は強まる。


 故に、公式の術式として公表しても、例えば聖国の連中などには使いこなせまい。


 副団長令息が見事にかわした刺突。

 良くしのいだな。


 かなりの衝撃波にも拘わらず刺突を連続で繰り出す団長令嬢もさすがだ。

 

 かの者が身に纏う魔力が金色に染まっていく。

 もう少しで……なの……か?


 私は腕に付けた魔道腕時計を見る。


 残り時間は……あと20分か。

 第三王子殿下のお陰で流行しているこの時を示す魔道具の携帯用はたいへんに使い勝手が良い。


 一応、選手二人にも「残り時間は20分!」と声掛けをする。


 すると、また大司教百斎から念話が届いた。

『団長副団長も決心した様だ。間に入るのではなく、試合を無事に終えさせてあげたいらしいよ』


 そうか。それならば。


『透明水晶殿、鎧岩殿。今から風の壁を作る。金色の者に変化が生じても、試合時間内程度ならば持ちこたえられよう。可能であれば勝敗を決定させてやりたいとお考えなのでしょう?』


『ありがとうございます』『お心遣い、痛み入ります』


 魔石殿達も協力を惜しまぬ姿勢で若き者達の傍に居る。


 団長副団長は恐らく自らの娘と息子、若き者が全力を出せる様にと考えているのだろうが。


 然しながら、団長副団長よ。


 貴殿らも、我々から見たら若き者なのだよ。


 私達、年嵩としかさの者達に任せて、試合観戦を楽しむと良かろう。


 そうだろう、百よ?





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