279-聖魔法大武道場剣術試合の騎士団団長
「いい打ち合いだな。……特に、お前の息子、スズオミは良くなった。……だが、もしもの時には残念ながら間に割って入らねばなるまい」
「ああ。父親としてご令嬢には礼を言いたいくらいだ。しかし、やはり、なのか。……仕方ないか。その時は手伝うよ、金ちゃ……いや、団長。大司教様には?」
「無論お伝えしてある。大導師様もその可能性を鑑みて審判としていらして下さっているのだろう。空中は茶色殿、場内は魔法隊隊長……千斎殿がおられる。貴賓席には高位精霊獣殿達、元邪竜殿に英雄殿ご夫婦に加えあの方もいらしているから、両殿下の御身と筆頭公爵令嬢殿と候補中一の聖女候補殿には万が一も有るまいて」
「……だな!」
笑顔と共に、白い歯が見える。
騎士団副団長アタカマの笑顔には、精神を安心させる何かがある。
万が一は無かろうが、もしもの際に場内を落ち着ける為には彼の力が必須だろう。
それにしても、ライオネア。
我が子ながら、才能に奢らず、鍛錬を常とする素晴らしい存在。
然しながら、もしかしたら騎士団団長たる私以上に獅子の精霊獣たる先祖の血を濃く受け継いでいるのでは、という懸念は常にあった。
恵まれた体格も、そう。
腕利きの士官学校生どころか、騎士団の新兵とさえ遣り合えるだろう魔力と体力、瞬発力。
知性や性格も人の上に立つ者として申し分ない。
敢えて難点を挙げるならば同性に好かれすぎる事くらいか。
但し、これは本人には如何ともし難かろう。
この剣術試合の前に私も数回稽古をつけたが、また成長をしていた。
『もしかしたら、学院時代の我々よりも……』という私が抱いた懸念は愛しき薔薇騎士、我が妻も同様であったらしく、多忙の身ながら剣術試合前のライオネアに細剣を渡してくれていた。
私の学院時代、剣術試合の練習時の事。当時の同級生だった妻との闘いがあまりにも激しく楽しかった為に、意図せず獅子への獣化をしてしまったのを収めてくれた剣と同様のもの。
その様子はアタカマもその場に居たので骨身に染みているだろう。
私も、自身の体験を語り、ライオネアも心に刻んだ筈。
然しながら、此度の試合は……。
「緑殿にも言われたが、スズオミは精霊殿のお声を伺い、ご協力頂ける様になった。もしかしたら魔石殿がお助け下さるかも知れない。俺もそうだが、団長も、二人の闘いをきちんと見届けたいだろう?」
『それは我々も同様。透明水晶も鎧岩もでしょう』
『ああ、それに狐殿と……殿も』
この念話は、私の防具となって下さった金殿とアタカマの金剛石殿だ。
狐殿とは大司教様の事か。
それならば聞き取れなかったのはおそらくは大導師様の事。
『そうですね、出来得る限りの協力を。大導師も同じ気持ちですよ』
「おおーっと、ライオネア、跳んだー! 人力でこの跳躍は凄い、凄すぎる! そしてここで武器を
何と、隣におられる大司教殿は私達のみに通じる念話と会場全体を盛り上げる実況を同時に行われた。
なるほど、これがあの聖女候補殿が起案した同時通話か。
内々ということで騎士団でも団長、副団長、大将級のみに形骸が伝えられている術式。
魔法隊隊長、千斎殿は既に使いこなしておられるのかも知れぬが。
公になる日も遠くはないのだろう。
正直、嘗てはライオネアとの婚約を解消する程の存在が平民の聖女候補なのだろうか?と思っていたのだが。
初代国王陛下の末裔殿の魂の転生に大きく寄与した上に元邪竜斬り殿と名高きネオジム博士のご令嬢ならば、と考えを変えていたのだが。
元邪竜殿に認められ、聖教会本部の双璧たるお二人が証を示された聖女候補最大の聖魔力所有者、聖霊獣殿の血族でもあられる精霊獣殿を召喚獣とする程の存在。
しかも、斯様な術式の原型を……。
元邪竜斬り殿は準辺境伯位を叙爵されるご予定だ。確か、ご令嬢の婚約者候補は目下選定中……。
そうか、ならば。
「どうした、団ちょ、金ちゃん? 何かすっきりとした顔をしてるぞ。いや、金ちゃんの顔が良いのはいつもだが」
「そう見えるか? 確かに、な。顔が良いかはさて置き、間に入るのではなく、試合を続ける手助けをしてやりたいと思ったのだ。……若い彼らの為に」
「そりゃ良い! ほら、見ろよあの刺突! さすがだ!」
「いや、それを避けているスズオミも素晴らしい」
最後は実子ではなく互いの子を褒める形になってしまったが、私も心を決めた。
間に割り入るのではなく、いかに若い二人の闘いを持続させ、決着させるか。
それが私達の
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