278-聖魔法大武道場剣術試合の自分
聖魔法導師様のお言葉を経て、あとは武器への魔法付与を行い、どちらを先に用いるかを決めるのみとなった。
母上に頂いた細剣と愛用の長剣。どちらにするかと考えていたら自分の防具、鎖帷子になって下さった透明水晶殿が
『まずは長剣になさっては?』と言われたので確かに、と思い、細剣を剣帯に納めて長剣を掲げた。
すると、自分が掲げた長剣に応え、スズオミも自分の愛剣を
人々の声援が遠くに聞こえ始めた。
楽しい、と、高揚感と共に気付く。
そうだ、自分はスズオミと闘えることが嬉しいのだ、と。
貴賓席を見る事はしないが、ナーハルテ・フォン・プラティウム、我が心の姫君。
君に恥ずかしくない試合を見せられたら、と願い、そしてまずは一閃を。
キン、キン、キー……ン。
剣術大会の決勝とは違う。剣戟の響きが深い。しかも、全ての。
剣術大会から今日までの彼の研鑽が伝わってくる響きだ。
キン、キン、キィン、という澄んだ音が耳に心地よい。
「……楽しいよ。君と闘えて嬉しい」
スズオミの言葉。
口をついて出てしまった言葉を、試合中に礼を失したと気にしながら、それでも剣戟を緩めまいとする彼に。
「……自分もだ。あの試合の続きが出来るとはな。……ありがとう」
自分も同じ事を思っていたよ、と伝えながら更に長剣を振るった。
『……よろしいでしょうか』『ええ』
透明水晶殿も認めて下さった。
ならば。
「だから、こちらを使わせてもらうよ。……少しだけ、待ってくれ」
この試合、身体能力向上の為に魔力を使用してはならない。
だから。
跳力だけで、自分は高く跳ねた。
不思議だ。常よりも跳べている気がする。
心中で長剣に礼を言いながら剣帯に納め、頂いた細剣を手にして降りる。
さあ、どう出る?
ガキィ!
自分が魔力を込めた細い細剣からの刺突の剣先。
スズオミ・フォン・コッパーは、それを。
……払い落とした。
「いいぞ、スズオミ! 自分も嬉しいぞ!」
一応とは言え自分の婚約者、偉大なるお方の末裔殿の親しき友。
彼についての色々が頭に浮かび、そして霧散していく。
目の前に居るのは、強い、敵。
嬉しい、嬉しい、嬉しい……楽しい。
全身を巡る魔力の渦。
細剣を握る手に集まる力。
『力に溺れてはなりません! 母君にこの剣を頂いた意味と、父君のご忠告を忘れぬ様に! 細剣殿から諸々伺いましたぞ!』
分かっております、いや、自覚してはいるのです。透明水晶殿。
だが、自分は。
今、目の前に居る強き者との闘いを、楽しまずにはおられないのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます