277-聖魔法大武道場剣術試合の僕

「よし、付与には問題なしだ。それでは、昏倒等、試合続行不可能の場合、又は戦意喪失と見なされる際にもその場で試合終了となるので注意を。魔石殿達よ、若き者達を頼みますぞ。……では、始め!」


 聖魔法大導師様の合図で、僕とライオネアは距離を取り、それぞれの武器を構える。


 ライオネアは細剣と長剣を見比べ細剣を剣帯に納めて長剣を掲げた。


 僕の手の中にあるのは愛用の長剣一振のみ。


 掲げられた長剣に応え、僕も自分の一振を翳す。

 すると、驚く程に周囲は静かになった気がした。


 もちろん、そう感じるだけなのだが。


 こんな世界で、ライオネアはいつも闘っていたのか。


 精神集中による、静寂の狭間はざま


 今までの僕では見る事が叶わなかった景色だ。


 最初に剣を振ったのがどちらからかは分からない。


 ただ、剣先の軌跡を見ることができた。


 第三王子殿下、そして鎧岩殿。


 スズオミ・フォン・コッパー、参ります。


 キン、キン、キー……ン。

 

 お二方に誓い、剣を振り始めてから何分が過ぎただろうか。


 打ち合う度にキン、キン、キィン、と澄んだ音が聞こえる。


 やはり、剣先の軌跡が見えている。

 そして、長剣が軽い。


 王立学院の剣術試合で用いた刃を潰した試合用の剣とは段違いの重量の筈なのに。


「……楽しいよ。君と闘えて嬉しい」

 思わず、口をついて出てしまった言葉。


 何を言っているんだ、僕は。でも詫びるくらいならば剣を振らないと。


「……自分もだ。あの試合の続きが出来るとはな。……ありがとう」


 思いがけず返された言葉と、繰り出される重たい剣先から来る振動。


「だから、こちらを使わせてもらうよ。……少しだけ、待ってくれ」

 そう言うと、ライオネアは……飛んだ。


 見惚れてはいけない。いけないのだが。


 それは、魔力ではなくて、跳力。


 高く飛翔しながら長剣をきちんと剣帯に納め、そして細剣を手にして再び降りてきたライオネアを。


 不覚にも僕は。


 美しい、と思ってしまった。


『大丈夫か?』


 はい、鎧岩殿。

 

 美しい、と思ってしまったのも、事実。


 だけど、今の僕は。


 ガキィ!


 降りてきたライオネアの剣を。

 魔力が込められた細い細剣からの一撃とは思えない加重の刺突の剣先を。


「いいぞ、スズオミ! 自分も嬉しいぞ!」


 ……払う事が、出来た。








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