275-登壇の騎士団団長令嬢と騎士団副団長令息

「いよいよですわね。……殿下、ナーハルテ、お茶などはよろしいかしら」


「はい。大丈夫です。ええと、ニッケル様、お茶などは。あと、お手はどういたしましょうか」


 お手。


 ああ、そうか。

 

 ナーハルテ様はライオネア様、私はスズオミ君の応援をするのか。

 一応、この手は。


「私も十分。このままにしておきたいのだけれど、また、だね」


 離す前に手をしっかりと絡めて、恋人繋ぎにしてみた。


 幸せ。

 離したくないけど、離す。離そう。

『……はい、また』


 今日は繊細な編細工のポシェットになっていたリュックちゃんがタイミング良く扇を出してくれたから、ナーハルテ様のかわいらしく照れていらしたお顔は隠れてしまったけど。


『良くやったね』『うん』『ですね』

 リュックさんと携帯版ハイパーと黒白が褒めてくれて、朱々さんは『良し!』と言ってくれたから、合格、かな?


 良し、よし。 

 そうなるとやっぱり、私はスズオミ君の応援かな。

 そう言えば、セレンさんは? と思っていたら。


「きゃああ、ライオネア様ぁ、素敵、素敵です凛々しいです格好いいです!」


 気にするまでもなかったかな。


『誰の声か、確認する?』

 いや、いい。いらないよ、リュックさん。


「続いてはぁ、騎士団団長令嬢ぅ、王立学院剣術大会二連覇ぁ、美貌の獅子騎士ぃ、ライオネア・フォン・ゴールドぉ! 石わぁ、クーリースータールーぅー!」


 もしもし、貴方大司教様ですよね? な百斎さん、良いのかな……。


 会場はめちゃくちゃ盛り上がってるけど。


『殿下、あれ、さっきのお言葉! あたしの意見を取り入れて下さったんですよ、大司教様! もうあたし、この試合が終わったら勉強とか礼儀作法とか色々めちゃくちゃ頑張ります! 聖教会本部万歳! あ、すみません殿下、あたしの分までスズオミ様の応援、よろしくお願いいたします!』


 なるほど、良く分かりました。


 まあ、気にかけてもらえたのは事実だからね、スズオミ君。良かった……ね?

『了解。セレンさんは全身全霊でライオネア様の応援してね』


『ありがとうございます!』


 そんな感じのセレンさんを中心にした若い女性陣の声と、騎士団の若手さん達からの大声援。


「ゴールド先輩、頑張って下さい!」

「たまには士官学校にもいらして下さい!」

 これは、学院の騎士クラス生と士官学校生かな。


 そう、実は男女共(男女比8:2くらい?)に大人気なライオネア様、今日はいつもにも増してめちゃくちゃ格好いい。


 心行くまで応援出来て良かったね、皆。


 水晶。

 そうか、あれ、無色の水晶クリスタルなんだ!


 水晶が糸状に変化して編まれた鎖帷子チェーンメイル

 革製の剣帯に二本差しの武器。頭部が露出しているのは金紅さん達と一緒だ。

 聖教会本部謹製の絹の衣装が頭部や臓器等は守護してくれるからなのだろう。

 不足なら、自助的な治癒魔法も許可された筈。


「ライ、ライオネアはセレン様の護符を持つと言っていましたから、怪我等は心配しておりません。スズオミ様は学院の大会からは目を見張るばかりにお強くなられましたが、相手が相手ですわね」


 確かに。

 精霊殿のお声を聞けるようになったから、魔石殿にも認めて頂けたのかも。


 ところで、スズオミ君の石と防具は……。


 薄い縞模様? 魔力で凝視しないと分からないな。


『左様にございます。コヨミ様の末裔様』


 誰? どこからか渋イケボが。


 面識のある方で私が気付かない渋イケボさんがいる筈はないから初対面の方だ! 絶対に!


「お待たせしました! 最後の出場者ぁ!騎士団副団長令息、成長著しい若手の有望株、スズオミぃ、フォン・コッパーぁー! 聞いて驚け、石は何とも珍しい、鎧岩よろいいわ!」


 浅緋さん、聖魔法大導師様、絶好調。


『鎧岩さん、説明どうぞ』


 あ、携帯版ハイパー、ありがとう。


 ふむふむ、鎧素材の珍しい石。それが魔石に。

 凄い魔石さんに見込まれたんだね。


 全身を包む、正に岩鎧ストーンアーマー


「待ってましたあ!」「若手の星!」

 

 あ、良かった。

 騎士団の若手の方達からの声援が思いのほか多い。

 そうだよ、騎士団宿舎のスズオミ君、人気者だった。

 副団長令息で侯爵令息なのに穏やか好青年なんだもんね。


「よっしゃあ頑張れよお! 敢闘かんとうしてやれ!」

 

 これ、緑簾さんだな。

 どれどれ。角無し美形バージョンだ。タキシード似合うね? 驚いたよ!


 うんうん、でも良かった。


 スズオミ君、照れながら手を振ってる。


 そうか、さっきの渋イケボはきっと、鎧岩さんだね。


『左様でございます。もしよろしければ、ご尊顔を若き者にお示し下さいませ』

 若き者。

 スズオミ君? キョロキョロしてる?

 あ、誰かを探して……。


 あれ、セレンさんの貴賓席の方角を見たのに、まだ?


 じゃあ、彼が探しているのは、もしかしたら。


 セレンさんじゃなくて、私?

 

『はい』

 分かりました、鎧岩さん。


『見てるよ、スズオミ君!』


 私の念話を受けて、少しだけはにかんだのは赤銅色の彼。


 頑張って、スズオミ君!


 セレンさんと、あとニッケル君の分まで私が応援するよ!


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