262-剣術試合前日の私達
「圧巻、って感じ。屋台の色彩も調和が取れていて素晴らしいね」
「お褒めに与りまして光栄に存じます。会場周辺の美観担当者達に必ずお言葉を伝えます」
明日の剣術試合に備えた会場の最終確認。それに同席させて頂けるとあっては気分は高揚してしまう。が、それ以上に会場周辺の活気が凄い。
普段は聖魔法大武道場周辺は武道場以外の場所は自由に散策出来る広い公園なのだけれど、その一帯が全て聖教会本部の公印を必ず何処かに記しているたくさんの屋台。
屋台から離れた場所には綺麗な簡易化粧室が幾つかまとまっていて、公園の広場は飲食可能な場所として解放されている。
視界に入る芝生が青々としていてとても爽やかだ。屋台群も芝生の色の様に爽やかだったり落ち着いていたり。
聖教会本部の公序良俗を守る為にと担当者さん達がきちんとされているのだろう。
「先般の魔道具品評会の時の屋台公募抽選に外れてしまった者達を中心に声掛けをして、あとは周辺の飲食業界等に声を掛けました」
今日の案内役は聖魔法大導師様、浅緋さん。豪華だなあ。おかげで寿右衛門さんは明日の警備体制の最終確認に集中出来ているのだけれど。
何でも、数日前から既にこの屋台は展開していたのだって。確かに魔道具品評会の時もあの周辺の賑わいは大盛況だった。
肉串、フワフワ白パン、焼き芋、苺の飴がけ……色々美味しかったなあ。
あ、お酒の屋台を出す高級娼館の方々だ。屋台に書かれたお店の名前がそうだから分かる。
お酒も許可制で受け付けるあたり、懐の広さが感じられるなあ。
高級娼館の方々、やっぱりお美しい。
あ、お一人こちらにウインクして下さった。
うわ、魅力に被弾した、近くにいた若い騎士さんが倒れそう。……持ちこたえた。良かった。うん、魅力的な方だもんね。
思い出した。多分、ニッケル君が授業の一環で性知識について色々教えて頂いた方だ(実技はないよ! 理論と精巧な模型使用!)。
その節はお世話になりました、と軽く手を振っておく。
豊かなお胸の部分が黒レースのセクシーな衣装は露出が控え目なのに、かえって印象的。
騎士さんは巡回中だからまだお客さんにはなれないね。お仕事が終わったら、だね。頑張れ。
「コヨミ王国の娼館は全てきちんとした営業法に基づき、指定した地区で営業しております。万が一にも人身売買や借金の為の身売り等は無い様にと騎士団や聖教会が目を光らせておりますがもしもの場合には極刑に処せられる事もございましょう。これは初代国王陛下のご意志でもございます」
コヨミさんの。そうか。
徹底した施策は、もしかしたら貧困層の身売りとか遊郭とか、そういうのはコヨミさんの時代にはまだ身近だったのからなのかもかも知れない。さすがはコヨミさん。
そうだ、ハイパーが教えてくれてたんだ。
魅了魔法の効果が強すぎる方には聖教会も魔道具開発局開発の制御魔道具も近くに存在するからね。あ、勿論きちんとした申請諸々と許可は必要ですよ。
実際に見ると、すごく勉強になる。
この試合の為にこちらに来た方達がそういうお店に寄ったりお酒を飲んだりして、経済の活性化にも繋がるのかも知れないなあ、とも感じられた。
今回の試合は基本的には騎士団員または関係者のみの観覧の筈だったのだけれど、騎士団の事務局への問い合わせがかなり多くて、ペガサス郵便の往復葉書による観覧希望者抽選受付をして、厳正なる抽選の結果当選した方々も観覧出来る事になったそうだ。
聖教会本部それから王都や二の都市の聖教会に伺ったり美術館、博物館を回ったりとか、騎士団の方もそれぞれ色々目的があるらしい。
もちろん、一番は試合見物なのは間違いないけれど。
この試合の為に休暇を取得するぞ、と騎士の皆さんは普段以上に働いてくれたそうで、元々他国より犯罪が少ない我が国が魔獣捕縛や他国から侵入した犯罪者の検挙等が捗った為に更に平和になったらしい。
これはぜひ継続してほしい。
騎士団の事務局さんと聖教会本部の事務方の皆さんが犯罪抑止や経済効果も考えてきちんと対応、宣伝等をされたお陰、というところかな。
『そうですね、騎士団員は必ず購読しているコヨミ王国騎士団新報にもかなりの記事が掲載されていた様ですし』
黒白、ありがとう。
騎士団新報か。いかにもな名前。
『確か、殿下には直前の予想をお願い出来ないかと取材の申し込みがございましたと茶色殿が言われておりました』
そうだったの? でも、聞いてないよ?
『第二王子殿下が代わりにお受け下さいましたとの事です。お読みになりたいかと存じましてリュック殿の中にございます』
すると、「それならどうぞ、あちらに座りましょう」と浅緋さんが言ってくれたので休憩用テーブルの椅子に座る。
そこから一番近い屋台で浅緋さんがコーヒーを買ってくれた。
「ありがとうございます」
今日はもしかしたらお手伝いもあるかな、と学院の運動用ジャージと紐靴と白様印のリュックサックなリュックさんなので特に変装も認識阻害もしていない。
そもそも、聖教会本部のお膝元で聖魔法大導師様の隣にいる美形の王子殿下(いや、本当にそうだから!)にわざわざ声掛けする人もいない。
多少はお知り合い、な方、例えばさっきの高級娼館のお姉さんみたいな人もあんな感じで軽めに接してくれるから動き易い。
だからコーヒー片手に新聞を、とかも出来るんだよね。
ええと、あったあった。探すまでもなかった。
コヨミ王国騎士団新報と書かれた表題の隣に大きく出ている兄上のお姿。
「弟に取材と聞いていましたが彼にとっては友人と大切な婚約者殿のご友人との試合ですから、代わりに兄たる僕が、とお願いしました」
うーん、にじみ出る兄上のお人柄よ。お優しい!
「騎士団団長と副団長については剣術のみにならなければ副団長にも可能性は、然しながら団長に一日の長があるでしょう。騎士団長令嬢と騎士団副団長令息については普通ならば副団長令嬢だろうけれど、僕が第三王子と共に立案をして現地で指揮を取った獣人売買組織の完全殲滅に伴いかなりの働きをしてくれた副団長令息に勢いがある事をぜひ皆にお伝え願いたいですね。無論令嬢の自力は評価していますよ」
その後には記者さんが兄上のお言葉を褒めてくれている記事が続いていた。
なるほど、さすがは兄上。
誰かを贔屓なさる事が無く、それでいて分かり易いお言葉。ただ、さり気なく私も立案をしてる事にして下さってるなあ。
確かに兄上、あの殲滅作戦、最初は私に現地で指揮を、って仰ってたからなあ。
ただあの作戦、やっぱり兄上で良かったんじゃないかな。
獣人さん達には、第三王子にまぬけの印象がまだ残っていたみたいだったから。
いや、作戦成功の後には兄上の弟殿下だから、とか筆頭公爵令嬢様のご婚約者だから噂の真の姿は! みたいに高評価だったのだけれどね。
あ、そう言えば、騎士さん達には第三王子殿下ってどんな印象なんだろう。
「ご安心下さい。大人気であられますよ。……こちらもどうぞ」
美味しそうな焼きチーズ添えのホットドッグと共に聞こえたこの声は。
え、大丈夫なんですか、明日の為の最終確認は!
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