261-剣術試合前々日の私

「あと二日。いよいよだねえ」

『ですね』

 黒白が調子を合わせてくれた。


 本日の私、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ(魂は異世界人暦まとい)は翌々日の試合の為に予習をしている。

 今読んでいたのは聖魔法大武道場に関する本だ。


 聖教会本部準々貴賓室のライティングデスクの上にはハイパー、『聖魔法大武道場建築年鑑』『聖教会本部年代記』が鎮座していて、ハイパーは既に読み終えた。


 後の二冊はリュックさんが『大書店さんから。これだけ読めば安心! の二冊。代金はいずれ頂戴しますのでご安心下さいだって』と亜空間を通じて支配人さん達からお勧めを取り寄せてくれたもの。


 代金支払い可能は良かった。

 でも何だか、重厚で革張りで、学院の図書館棟の魔法付与と鍵付の稀覯きこう本書架とか、千斎さんの許可なしでは入れない禁書庫クラスの書物な気がするのだけれど、気にしたらダメだ、と思って真面目に読んでいる。内容はとても興味深い。


 実は試合前の大武道場前日点検に参加させて頂けるのだけれど、私の事だからはしゃぎまくりかねないのでせめて内なる声だけで叫べる様にと予習中なのである。


 あ、寿右衛門さんは千斎さんと打ち合わせに行きました。当日の警備担当の一角を担うらしい。さすがだよね。


 さすが、といえば。

 ここから少しだけ昨日に遡るのだけれど。


『殿下にしか叫べないんです! すみませんが付き合って下さい!』


 そう叫ぶセレンさんと聖教会本部の特別な伝令水晶と黒白とで通話したのは、ライオネア様の凛々しさ、格好良さ等々。


 憧れの方の前で叫ばず倒れずだったセレンさん、偉い。

 しかも、ライオネア様のあの鋭い眼差しを見詰め返せるまでになったらしい。凄い。


 本人は嫌がるだろうから言わないし内緒だけれど、さすがはヒロイン、な気がしたのも本当。


 そうだ、ライオネア様の輝きにセレンさんが気絶しない様にって、カバンシさんが女性化してダンスの練習の練習をしてくれた、とか、かなり気になる事も言っていたなあ。

 これについては詳しくは聞けなかったけど。


 まあ、そんな風にお互い飲みながら食べながら、二人で楽しく語り明かしたのである。


 因みに私も久々にナーハルテ様について熱く語れた。嬉しかった!


 寿右衛門さんとか黒白とかリュックさんとかハイパーとか天幕さんの事も語りたかったけど、恥ずかしいらしくて皆に止められたので緑簾さんとカバンシさんの話をして、ハンダさんとネオジムさんと黒殿の事をセレンさんからたくさん聞いて、辺境区にいる獣人さん達の事も色々。


 そうだ、と中央冒険者ギルド近くで会えたあの狼獣人さんの事を話したら、セレンさんからアベリアちゃんにお手紙を書いてくれるって。良かった!


 そう言えば。セレンさんにスズオミ君の事も応援するよね、って訊いたら悩んでたな。


『憧憬して止まない素敵な騎士様と、一番仲良しの異性のお友達……。殿下はどうですか? 最愛の方の親友とご自身の親友ですから、あたしと悩みどころ似てません?』って。

 確かに。分かる。


 やっぱりごめん、スズオミ君。

 前世からのイケメン令嬢様方のファンとしては、やっぱりどちらかしか選べない、ならライオネア様なんだよね。

 ああでも、ニッケル君の分も加味したら……!


『……ていう感じなので、セレンさんにはぜひスズオミ君を……って訳にもいかないよね? ごめん、軽く訊いちゃって』


『いえ、分かりますよ! そうなんですよね! あー、そういうところも殿下は話が分かる方! とにかく当日ぎりぎりまで悩みます! 殿下も悩んで下さい、またお話しましょう、して下さい!』


『うん、楽しかったよ!』


 そんな風に会話を終えて、そうかあ、セレンさん、頑張ったんだなあ……。


 そう思ってたら別方向に閃いて、とりあえず寿右衛門さんに確認したら了承を得られたのでハイパーで勉強を始めた結果、今に至るのですが。


 まだまだ私は、ライオネア様とスズオミ君、どちらをより応援するかを決めかねているのでした。


『もしかしたら、当日も悩んでたりして』


 リュックさん、鋭いなあ、もう!








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