第七章
259-転生された敬愛して止まない王子殿下と近侍候補そして友としての僕
「えーと、スズオミ君? 剣術大会に向けて鍛練と精神修養? に専念してた筈じゃないの? 何で寿右衛門さんにお茶の入れ方を習ってるのかなあ? いや、それにしても君、執事服似合うね?」
僕こと騎士団副団長令息にして侯爵令息たるスズオミ・フォン・コッパーに対して戸惑いと感嘆と色々錯綜された問いかけをされる第三王子殿下。
僕が敬愛して止まないお方であられる。
これに関しては、当然のご発言としか言えない。
竜の姿の雄々しきカバンシ殿に揺られてほぼ一泊(カバンシ殿の御背で一泊だった!)二日という短時間で王都に戻った僕達は報告、連絡、休息をそれぞれ無事に終えていた。
移動行程の中で許可を得た地上の幾つかの地で何度かの休憩を入れて頂けたので、到着してからの休息も短い期間で済んだのだ。
そして今、僕は執事服姿で敬愛する殿下のお側に控えさせて頂いている。
そう、僕の人生にかかわる一大事、殿下が問われた婚約者との剣術大会までは残すところあと五日。
1週間すら切っているのに、僕は聖教会準々貴賓室にお邪魔しているのだ。
繰り返すが、僕がその身に纏うのは執事服。
異世界からの魂の転生人であられる尊きお方、第三王子殿下が抱かれた疑念は当然過ぎるものだ。これも繰り返しではあるが。
「主殿、スズオミ殿の対戦相手、ライオネア殿は現在セレン殿のダンスパートナーを務めておられます。本日から三日間は基礎鍛錬以外は
僕に代わって高位精霊獣茶色殿が答えて下さった。
隙の無い礼、整った声音。
感嘆してしまいそうになるが何とか堪えた。
こちらの都合でお側に控えさせて頂いているのに見惚れる等はあってはならない。
「ライオネア様が? セレンさんの? よく分からないけど試合に集中する為に敢えて剣術とか体術以外の……って事? え、でもダンスパートナー、ライオネア様が? セレンさん、大丈夫なの? 失神とかしてないかな。あばばばば……とか言ってないと良いけど」
あばばばば。
何とも、的確な表現。
僕が秘めた思い(本人以外にはあらゆる方々に見抜かれている様だが)を寄せる聖女候補セレン-コバルトは感情の起伏が激しいのだ。
そしてライオネア・フォン・ゴールド公爵令嬢。
騎士団団長閣下のご令嬢で僕の婚約者、そしてセレンのみならず多数の子女の憧れの君。僕にとっては憧れの、そして戦いたい相手。
僕達は婚約の円満解消の為に試合を行うのである。お互いの父同士も。
現在、騎士団では試合観戦の為の休日取得に備えた業務先行が盛んに行われているらしい。
実際、犯罪者や魔獣の捕縛数が天井知らずなのだ。
そもそもが大陸の諸国よりは犯罪数や事故件数が少ない我がコヨミ王国でその状況である。
「益々平和になって何より!」と父上が笑っていた。
それから、当日の騎士団の通常業務対応を行う団員達への労いもされているらしい。
これは団長副団長の試合もそうだが、会場が聖魔法大武道場という大陸でも音に聞こえた会場である為だ。
そして、審判は聖魔法の第一人者聖魔法大導師様。
大司教様も補助として役を務められるらしい。
会場の警備責任者は千斎上級大将閣下。閣下は魔法隊隊長でもあられる。
僕も、何度考えてもその舞台等の凄さにおののくばかり。
この点に関しては既に思考を放棄している。
「ライオネア曰く、昨日セレンとの顔合わせに聖教会本部に向かいました所、1分間は見詰めてくれていた為、少しは安心して身を任せてくれそうだと感じたそうです。普通の女性は1分はとても持たないらしくて。あばば……は聖女候補の聖魔法の特殊文言かな、とライオネアは思っているらしく。お父君の叙爵に伴い、聖魔法による身体能力向上魔法を用いずに踊る事が出来る様に、との辺境伯閣下からのお達しを聖教会本部が尤もとされ、ゴールド公爵家に依頼をされたそうです」
「ああ、そうか。それなら納得。やっぱりハンダさん関係で叙爵の式典とかパーティーとかが近いのか。たいへんだね。ダンスとか色々、私はその辺りは全部ニッケル君の王子様貯金でやり繰りしてる所があるから。魔法と基礎鍛錬は一応継続してるけど、多分ダンスは素地が無いとかなり厳しかった。うん、セレンさんは偉い」
うんうん、と頷かれた第三王子殿下はそれからああ、という感じでこう言われた。
王子様貯金とは恐らく僕の親友、異世界に渡ったニッケルの過去の鍛練等を評して下さっているのだろう。
「セレンさん、貴族になるなら、じゃなくて憧れのライオネア様と踊るなら気合とか諸々……って感じなのかなあ」
「その通りです。僕は今回のカバンシ殿の飛行移動中に聖教会本部の特別伝令鳥殿にその旨を伺ったのですが、一時的とは言えパートナーがライオネアと知り、かなり驚いていた様です」
「私もその際に特別伝令鳥殿と親交を深められまして。精霊獣でも聖霊獣でもなく鳥のままであの様な大役に就かれる事、頭が下がる思いでした。全く、有意義な空の移動にございました。たまには己の翼や転移魔法ではなく乗せて頂くのも良いと思いましてございます。こちらに戻りましてから雀の姿に戻りまして、またこうして人型を取っておりますのもまた一興、ですな」
そう、先程からの茶色殿の声音は念話ではなくて音声だ。
わざわざ人型になられて予備の執事服まで出して頂いたのだ。
これも一重に殿下のお近くに相応しい人材をという茶色殿の第三王子殿下に対するお気持ちの故だろう。
「アタカマさんがそう言われて寿右衛門さんが了解したなら私は別に何も。寿右衛門さん、もう兄上へのご報告も済んでいるし、試合前日に試合会場を案内してもらうくらいしか、予定も無かったよね」
「左様に存じます。選抜クラスへの編入準備も整っておられますし」
異世界から魂の転生を果たされ、様々な偉業を成し遂げられた上に初代国王陛下と同じ属性にまで目覚められた第三王子殿下。
「僕もせめて上クラスには編入出来る様に努めます。まずはこのお茶の入れ方、そして目前の試合ですが」
殿下にお見せ出来ない様な無様な試合は決してしないぞ、という決意表明だったのだが。
「……え。スズオミ君、上クラス……編入?」「これは何とも……」
「申し訳ございません、第三王子殿下、茶色殿。些末な事を申し上げました。試合会場ではその様なご心痛がございませぬ様に励みます故」
何という事だ。僕の上クラス編入が未だに確定していない事をわざわざ今改めてお聞かせするなど。
茶色殿までが少々驚いておられる。何という不覚!
「主殿、こちらはスズオミ殿が焼かれたクレープです。辺境土産の大蜜蜂の蜂蜜と共にどうぞ。自然な甘さがお気に召すかと存じます」
「え、綺麗に焼けてるね! うわ、これもしかして魔乳牛のクリームチーズ?」
「あ、はい。クリームチーズは僕が殿下にお渡ししたいと思いまして。状態保存魔法はセレン……聖女候補殿が付与して下さいました」
「うわ、魔乳牛の色々は海産物と並んで辺境区の名物だよね。アイスクリームも美味しかった! ありがとう!」
『近侍として良い姿勢ですよ』
お二人は、話題をを変えて下さっているのだ。
こちらこそありがとうございます、第三王子殿下、茶色殿。
因みに魔乳牛は魔牛が牧畜の為に乳牛として飼育されている牛だ。
長い年月を経て我が国の畜産として親しまれている。
食肉としての魔牛も我が国の特産品ではあるのだが、騎士団員やギルド所属冒険者等、野生の味を知る者からすると野生の暴れ牛の方が美味と言える。
ただし、食肉もかなりの高品質である事はお伝えしておきたい。
実は父が茶色殿に頼まれたのは、緑殿や黒白殿、リュック殿にハイパー殿も傍に居られる殿下の傍らに人の護衛役そして近侍として僕に可能性が存在するかをご判断頂きたいというものだったのだ。
『確かに、我が主には人の護衛殿が必要な場面も今後生じるやも知れませんね。……良いでしょう』
そう言われた茶色殿にご承諾頂いてこうなったのだが、やっぱり僕は色々まだまだだなあ、と思う。
いや、そう思う事さえおこがましいのだが。
それでも、来たる剣術試合では。
敬愛してやまない
不肖スズオミ・フォン・コッパー。
大切な
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