幕間-46 カバンシお姉ちゃん(?)とあたし
「では、変化するか。それにしても、セレン。まさか周辺国から帰国した翌日にダンスの練習とは……。しかも、今日は任務報告書の草稿まで書き上げているのだろう?」
ここは、戻って参りましたまたよろしくね! な、大臣ご婦々のタウンハウスのダンス練習用のお部屋(!)。
あたしはカバンシ兄ちゃんの飛行移動のお陰で短縮出来た時間を大事に使う為、帰国当日はゆっくり静養、翌日(今日のことね!)からはバリバリ活動しているのです!
「大丈夫だよ、カバンシ兄ちゃん! 今回の任務報告書の概要はまとめられたし、今はお母さんが内容を確認してくれてるから! ダンスの練習が終わったらちゃんと身体休息の為の聖魔法を掛けてからしっかり休むよ!書類の直しは明日の朝、起床後にします! 必ず! だから、お願いします!」
「ふむ。まあ、確かにお前のやる気は魔力からも伝わってくるからな。ただ、無理は禁物! いいな、ごまかしても無駄だぞ? 魔力から中程度の疲労の気配が感じられたら即座に中止する! 良いな?」
「ありがとう! お願いします!」
「よし、ではまずはセレンお嬢に変化、だな」
そう言うと人型のカバンシ兄ちゃんはまずはあたしに変化。
お嬢、って懐かしい呼び方をしたのは昔からのあたしの事も思い出す為に、だね。
「準備とか良いの?」と事前に訊いたら、あたしとは長く接しているから念じたらそれで大丈夫なんだって。
多分お母さんも、らしい。
そんな感じで兄ちゃんが変化したあたしはと言うと……似てる。そっくり。
だけど、何だか賢そう。お父さんと人型兄ちゃんの違いみたいだなあ。
しかも、服まで変わるの?
いつもの兄ちゃんの革の服が、動き易そうな革のワンピースになってる!
「俺がいつも着ているハンダと揃いの革の上下とブーツは元々は俺の皮だからな。細かく指定してやればこいつも変化してくれる。本当はドレスの方が良いのだろうが、お前も練習用のドレスだから構わないと思うぞ」
「かまわないよ、むしろ素敵!」
あたしの紫の髪の毛に合う、黒革のワンピース。
柔らかそうな革には光沢があって、しなやかな感じ。
これならあたしも知性派に見えないかな?
あたしなのに何だかかっこいいし、体型や姿勢も良くて……なのはやっぱりカバンシ兄ちゃんだからかなあ。
「さすがは大臣ご婦々のタウンハウス。ダンスの練習場所まで備えているとはな。……ほら、次はネオジム殿になるから、離れろ」
「はーい、じゃない、はい、分かりました!」
あたしに変化する時は良いけど、お母さんはあたしと魔力の気配が似ている別の人だから変化に影響が及ばない様に離れる、と。
身内や味方が変化する場合に周囲が注意する事。変化術の基本。学習済です!
「変化術の基本を学べているようで何より。……人族の姿で……どうだ、とりあえず人のネオジム殿だ」
「うわ、お母さん!」
あたしの身長、大体163センチくらいより5センチ程度高い。お母さんだ!
再現度高い!
エルフ族の姿だと身長がまた少し高くなるんだね、きっと。
これだとカバンシお姉ちゃん、かな?
そうだ、お姉さんだ!
お姉さん、なんだけど。
お母さんだとそっくり! 素敵! で何だか賢そう、とかがないなあ。
うーん。多分エルフの血族なお母さんでもそうなんだろうなあ。
「どうした? 何か間違ってるか? 違和感があるなら言ってくれ」
「ううん、良く似てる! 凛々しい! 素敵! カバンシお姉さん、最高!」
「お姉さん、か。……そうか。お前がそこまで言うなら大丈夫だな。それでは、変化の練習はここまでだ。本番いくぞ。……資料を」
「あ、はい……これどうぞ!」
あたしは聖教会本部から支給されたダンスの練習用のドレスの内ポケットから姿絵を取り出した。
聖教会本部からの支給品でも、所有物の一部を亜空間化する魔法は習得済なら掛けて意いんだよ。便利。
「……ふむ、よし。……身長は大体で良いか? 俺やハンダよりもほんの少しだけ低い位でどうだ?」
「それでばっちり!」
姿絵を確認してから丁寧に返してくれたカバンシ兄……お姉さん。
声も、今はお母さんの綺麗な声だ。
「……どうだ?」
あたしやお母さんの時より少しだけ時間をかけたその変化は、素晴らし過ぎて。
「……すごい、すごいよ! もう少しだけ気品と優雅さと凜々しさがあれば完璧だけど、でも、かなりすごい! 十分にイケてる! 鼻血出そう!」
「……鼻血は堪えろ。ご本人に向かって鼻血を噴射したらどうするんだ、お前?」
お母さんの声から変化した声が、完璧!
ヤバい、すごい!
「……大丈夫か?」
「ら、らいじょ、大丈夫……」
頑張れ、あたし。
目標はとりあえず、30秒! できれば1分間お顔……今の変化状態のカバンシお姉さんの顔を見詰められる様になる事……。
あと、鼻血を噴かない事! これ大事!
拳を握り締めて、気合を入れる。
「いざ、参ります!」
「……剣術や格闘ではなく、ダンスだぞ?」
「お願いします!」
優しく手を握られて、柔らかくホールドされるだけで熱が出そう。
鼻血も噴きそう。だけど、何とか堪えた。
これなら、あの方との練習日には間に合うかな。ううん、間に合わせる!
「挙動不審にならない様にな。……様に」
口調まであの方に似せてくれてる!
本当にありがとう、カバンシお姉さん。
「はい!」
あの方の前で恥ずかしい姿をお見せしない様に、セレン-コバルト、頑張ります!
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