幕間-44 飛行移動のあたし達

「速い~速いよカバンシ兄ちゃん~」


『セレン、何だその歌は。まあお前は声も綺麗だし歌も上手いからおかしな歌詞でもなかなかのものだが』


 えへへ、飛竜の姿のカバンシ兄ちゃんで辺境区から一気に飛べるなんてめちゃくちゃ嬉しいもの!


 その上、視界が開けて臨場感に溢れた頭部に乗せてもらってるんだから!歌いたくもなるって!


 あ、万が一がない様にあたしとお母さんが重力魔法を全員に掛けているから滑る、転ぶも無く安全保障は完璧ですよ。


 インディゴ君と月白ちゃんの魔馬コンビと耐久性ばっちりの魔馬車にも勿論!


 ただやっぱりめちゃくちゃ高いし速いし風圧はすごいから怖いという人には馬車の中に入ってもらおうと思ったけどアベリアちゃんも含めた獣人さん達は辺境区にいるし、獣人売買組織のぺぺぺのぺー! な奴等は全員辺境伯閣下預かりになった(厳罰とか重労働とか色々になる予定。連中、途方に暮れていたよ。ざまあ見ろ!)から、そういう感じの人はいないんだよね。


 一番不安なスズオミ様でも一応普通の顔色だし。


 あ、辺境伯閣下の部下の皆さん経由で閣下から許可を頂いてお父さんとダブル雷パンチ、飛ばしておきましたよ奴等を引き渡す前に!

 檻に入れてた時も飛ばしてたけど威力が違うからね、直接だと!

 少し焦げてたけど知るもんか! って感じ。


 辺境警備隊選抜部隊の皆さんは苦笑してたなあ。


 この飛行、数日分の飛行許可を頂けただけじゃなくてもしもの時の休憩場所や兄ちゃんが羽を休められる土地はきちんと印を付けた地図で示されている。

 全て、各方面の了承済で。


 さすがは知性の王子殿下と呼ばれた第二王子殿下! だよね。

 うーん、あたし、本物にもお目に掛かる事とかあるのかな、これからは。


「ん、あれ、そういえば……」

『どうした、セレン。休憩か?』


「ううん、違うよ快適! じゃなくてね、第二王子殿下で思い出したんだけど、もしかしてお父さんの叙爵? が実現したらあたしも貴族さん? なの?」

『……まさかとは思っていたが、やはり、自覚が無かったのか。恐らく礼儀作法は聖教会本部と学院で習得中だから大丈夫だろう。然しながら、ダンスは聖魔法の付与無しでも踊れる様にならないとな。それに、婚約者候補は俺達が選定している。お前が嫌な気持ちになる様な者達ではないが』

 うう、ダンスゥ!


 あと、婚約者候補? って本当にいたんだ……。


『今なら竜の姿なので羽の振動を使い易い。……良し』


 何、何をしたのカバンシ兄ちゃん?


「どうしたカバンシ、敵襲か!」

「カバンシさん?」

 お父さん、お母さん?


 あ、兄ちゃんが念話で呼んだんだね。


『そういう事だ。ネオジム殿、この二人が叙爵に伴うダンスの事を失念していたのでな。丁度良いから少し説明してやってほしい』


「そういう事ですか。分かりました。そうね、ハンダもセレンも、特にハンダは礼儀作法もね! 心してかかりなさい!」


 ついさっきまではあたし、竜のカバンシ兄ちゃんの頭部で楽しい空の旅、だったのに。


 何でこうなったのかなあ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る