第六章終-転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子でしたが王家の皆様方特に兄上が大切な家族になりましたので王子として共に励む所存。

「兄上、それで求者が預けてくれた土地、それから洞窟と地下資源はどうなるのでしょうか。我々の調査が落ち着いたらまたあの洞窟に住みたいという方達もいるかと思うのですが」


 用意して頂いたたくさんの新聞雑誌を読みふけっていたらいつの間にか昼食の時間になっていた。


 話をしながら食べやすいサンドイッチとか軽食中心のワゴンをお茶のセットと共に持ってきてくれたメイドさんには「あとは僕達で」と兄上が伝えて下さったので、室内は本当に二人きり。


 勿論警護の騎士団の近衛隊の隊員さんは扉の向こうにいるけれど。


 新聞雑誌には汚れ防止の保護魔法を掛けて、読みながらリュックさんが出してくれたお煎餅とかを摘まんではいたのだけれど、王宮のご飯、いつ頂いても美味しいの!


 作法とかはニッケル君のお陰で万全だし。


 しかも、今はあまり気にせずに食べても良い品々!

 暴れ牛のローストビーフのサンドイッチ、蕩ける! みたいな感じで普通に食べてしまった私。


 そんな感じで実家(!)を満喫していた私が、兄上が出して下さったお茶を飲みながら最初に訊いたのが、この疑問で。


「そうだね。元々私有地だし、あの周辺国は別に我が国に敵対的な国ではないし、獣人差別的な国でもない。ただ人々が穏やかで過ごしやすい国だから、ああいうのがのさばってしまったのだろう。直筆の手帳をカバンシ殿に託された事を鑑みると、求者殿は土地その他の名義に関しては手帳の宛先たるニッケル、君の単独名義にされたいのかも知れないね。だがどうだろう、君と僕、それから殿と飛竜カバンシ殿の共同名義にするというのは。本来の所有権は魔獣国の方のものだったようだね」


 食に集中していた私を咎めずに、良い問いだね、と疑問に答えて下さった兄上なのだけれど。


 兄上、今何と仰いました?


 え、シリコン、って。ハンダさんの!

「いや、良いと思いますよ、だけど、王室の権利も、というのなら兄上とハンダさん、シリコン準辺境伯殿とカバンシさ、殿の名義にするべきでは? そう、そうですよ、今回、記録上では私は何もしてませんし!」


「いや、君が精霊王様の直参殿や精霊双珠殿から一目置かれている事は大陸全体……もしかしたら世界にまで知られるところとなっている。そんな君の管理下にある場所に手を出す愚か者はそうはいないだろう? それに加えて王家からは僕の、叙爵されればシリコン殿は辺境伯閣下と中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿、カバンシ殿は竜族の方々の影響下ということになるね」

『まあ、愚か者と言えば君に婚約者をと言ってくる他国の連中かな。まあそれは、精霊珠殿から許可を頂いた定型文書で返信すると音沙汰が無くなるけれどね。あと、茶色殿が王宮に備えて下さった郵便受付箱は素晴らしいからね。魔法か呪いか……我が国から何かを受けたらしい連中だって、まさか魔法返しと呪詛返しを受けたから弁済しろとは言えないものね! ただ、あの国はね……』


「そうそう、何を間違えたか君には筆頭公爵令嬢殿という唯一無二がいるのに婚約だか何だかと言ってくる連中がいてね、と我が国へのお詫びだか何だかで色々と輸出入が上手くいくと兄上と姉上が喜ばれているよ。勿論、君には迷惑を掛けないようにする事が我々の第一だけれども。ああ、王宮の郵便受付箱は僕や兄上、姉上達の分まで用立てて下さったのだよ。権利は茶色殿がどうしてもと言われるので君の物にして極度の使用制限付きで開発局での開発対象魔道具になったよ。事後報告で済まなかったね」


「いえ、兄上と寿右衛門さ、我が召喚獣茶色の協議の上でしたら全く問題ありません。むしろ、教えて頂きありがとうございます」

 えーと、兄上?


 気のせいでしょうか?何か聞こえた気がする途中の念話は!

 

 多分、訊いたら教えて下さるのだろうけれど。

 いや、それよりは!


「そうでした兄上、騎士団に団長閣下と副団長閣下、それから友人と婚約者殿との剣術試合はご覧になりますか? ご入り用でしたら観覧券はご用意いたします!」


 そう、楽しいことを話そう。

 ただでさえお忙しい兄上が時間を取って下さったのだから。


「ありがとう。母上と姉上は外遊が、父上と兄上は代理としての業務が多々あるので残念ながら観覧出来ないのだが、僕は伺いたいと思っているよ。観覧券は王宮宛に必要枚数の確認が来たので僕と側近の分だけお願いしたよ。側近が喜んでいてね。団長閣下とライオネア殿の応援をしたいらしいよ」


 へえ、兄上の側近さん。当日はお会いできるのかな。


「いや、君達はお互いの親友の応援だからね。必要以上に声掛けはしないよ。僕の側近とはまた話す機会もあるから」

 読心術ですか、兄上。

 お顔を拝見する限りは違うみたいだな。


「お心遣いをありがとうございます、兄上」

「そんなに遠慮しないで。他にも色々話してくれるかな。僕は君の話を聞きたいよ」


「はい、じゃあ屋台のお土産のクッキーも出します! 中央冒険者ギルド近くで一番の美味しいお店、居酒屋関山の物です!」

 串焼きの残りは緑簾さんが楽しみにしているから、こちらで。


「居酒屋でクッキーなのだね。珍しくて良いね。美味しそうだ」

 リュックさんから飛び出したクッキーに喜色を示される兄上。

 兄上は、こういう庶民派な所をお持ちな点も魅力的なのです。


 あ、基本的にこの私の王宮私室には選別の魔法も付与済なので、毒味等は必要ありません。  


 もしかして母上とかが見えられたら厳重に行うけどね! 

 いや、本当は兄上でも必要なのだけれど。まあまあ、という感じでこうなっている。


 予備のお皿は多分手描きの花模様が繊細な美しい陶器製。草さんのクッキー、映えてるなあ。


「あ、美味しいね。僕も留学前に中央冒険者ギルドに伺って側近と共に試験を受けたいのだけれどね。我が国の中央冒険者ギルドで取得した冒険者資格と言えば格が異なるから」


 王宮に担当者に来てもらいたいとかは決して仰らない兄上。

 留学先は我が国よりは小規模な国だから万が一の事を考えておられるのかも。


 これは、弟として縁の下の力持ちにならねば。

 黒白から風殿に伝えてもらえば良いかな?


『早急に』

 ありがとう、黒白。


 そうだ、それから。

「兄上、私も兄上が赴かれる国について知りたいのです。書物や論文でお勧めがありましたら教えて下さい……というか、剣術試合の後にご都合の良い日はありませんか? 大書店を貸し切りにして、色々ご一緒に探してみたいのですが!」


「え、それ、僕と出掛けたいという事? 嬉しいな。でも、大書店に行くのは筆頭公爵令嬢殿と君との大切な外出ではないの?」


 あ、兄上が……私とのお出掛けを喜んで下さった……! 嬉しい!


「ご遠慮なさらないで下さい兄上! 実はナーハルテさ、と私の伝令鳥とそれから聖教会本部の大司教様と聖魔法大導師様と騎士団魔法隊隊長兼上級大将閣下と魔法隊の魔馬ともしかしたら他にもたくさんの人達とで、大書店買い出しツアーか部隊か、みたいになる予定なのです!」


 それにこのクッキーを買った時に……と続いてカンザンさんと草さんと狼獣人さんとテルルさんと風殿とのあれこれをナーハルテ様とデートという機会に恵まれて朱々さんに見守られながら無事終えた事や私の惚気話は続いたのだけれど、兄上はうんうん、と穏やかに聞いて下さったのだった。


 ああ、嬉しい。

 比べたらいけないのだけれど、あちらでお姉ちゃんとビールとおつまみとを並べて話していた時みたいだ。

 そうだ、それにチュン右衛門さんの代わりにここには黒白とリュックさん、はあちらにもだったけど今は魔道具としてだし! がいてくれる。


「ありがとう、それでは剣術試合を最優先にして、仮の予定として皆さんとの大書店行きの参加者に私と側近見習い殿も加えてもらっても良いのかな。……楽しみだよ」


「私も、楽しみです! そしていつか、私も兄上の様に立派な王子になりたいです!」


 あちらの事を思い出した分も加えて勢い込んだ私を兄上の墨色の目が見詰める。


「そうか。君、そう言ってくれるのだね」

「……はい!」


「焦らないでね。君も、君達は、僕なんかよりもよほど素敵な王子様だよ。でも、そう言ってもらえる王子様でありたいね。これからも共にこの国の民を、国を大切にしていこうね」


「はい!」

 そうだ、国よりも先に民を。

 これは、コヨミさんが言われた大切な事。


 ニッケル君にも聞こえたかな。


 ニッケル君、この国の王族の皆様は私にとっても大切な家族になりました。

 お忙しい皆様方にはあんまりお会い出来ないけれど、敬愛しています。


 特に謙虚で弟思いなすぐ上の兄上……バナジウム・フォン・カルノー・コヨミ第二王子殿下の事を大切に思っています。

 これは、君と一緒かな。


 私、君の分もお役に立てるようにこれからも励むからね!


 第六章〈終了〉




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