258-中央冒険者ギルド休暇中の儂
「はい、では確かに費用を頂戴しました。まあ、何とか合格といった所ですね。我々に感謝して頂きたいですな。後ろの付き添いさん達もね! とりあえず、今日から貴方は我が国の銀階級冒険者です。おめでとう。……え、受領書? 資格を取り消されたいのですか? ありませんよ、そんなもの」
ふむ、そろそろ頃合かの。
「よし、全て写したか? 音声はどうだ?」
「「はい、勿論全て!」」
ここは、コヨミ王国の周辺国の一つで一応国からは冒険者ギルドという認可を得ている場所。
然しながら実態はと言うと、実力のある獣人、半獣人、といった者達に差別的な扱いをして公正な資格認定を行わない、実力のある者達に適正な評価又は対価を払わない等、その罪状は多い。
魔力を絞ったとは言え、この
冒険者資格試験受験料も資格認定書類作成費用も大陸法の五倍以上だ。暴利!
全くもって嘆かわしい。
中々に実直であったこのギルドの前ギルドマスターから国外の儂宛に直接調査依頼が来る筈じゃ!
彼は儂よりは大分若い300歳程のドワーフ族。
もの作りに集中したいと退職したが、やはり無理矢理にでも現役に戻さねばなるまいな。
「コヨミ王国中央冒険者ギルドギルドマスタースコレスの名において、ここに居る全ての者を拘束する!罪状は多数だがとりあえず第一は資格認定に対する金額詐称とギルド員に対する不適切な報酬! 因みに受領書の作成義務は大陸法に
「そ、その赤味のある黄色い髪の毛、長い耳、美しいエルフのお姿……本当に本物の、あの伝説のコヨミ王国中央冒険者ギルドギルドマスター殿! それに、ああ、冒険者ギルド通信で見た、拝見した方達、嘘……」
受付の人間がガタガタと震えだした。
さすがにギルド受付を名乗るだけあって儂の容姿と地位くらいは知っていたか。
伝説だとか儂の容姿が美しいかどうか等はさておくが。
儂が黄色い犬の獣人の認識阻害を解き、若い弟(儂のことじゃ)の付き添いとして共にやって来た獣人の兄達のふりをした名うての冒険者達、つまりはコヨミ王国の冒険者ギルド金階級取得者達に連中を全員締め上げさせるまでに掛かった時間は数分間。
同時に、彼等の認識阻害も解除した。
まあまあの手際じゃの。
映像水晶ペンダントでの撮影も同時進行だから手間ではあっただろう。
「……ま、お待ち下さい。別に貴方様方のお国にご迷惑は。前ギルドマスターからどんなお話があったかは存じませんがエルフの叡智と言われる貴方様と中央冒険者ギルドの皆様方が、たかだか獣人如きに構われなくともよろしいのでは……」
受付が話しているその間に、
「お前らがこの国で獣人狩りをしていた屑ども、それからあの国と結託してるのは分かってんだよ! 防犯の為になけなしの金で依頼してきた獣人達を門前払いしやがっただろうが! そいつらから子供達を守ろうとした奴が、きちんとした形で身内を迎えに行くためにギルドに所属したってのに、てめえらは……」
そう叫んだ彼は、各国に渡ってくれている我がギルドの諜報部隊の一人。
はぐれ魔法師のふりをしながら諸国のギルドの揉め事を内々に解決、報告してくれる猛者じゃ。
儂もお気に入りの居酒屋関山の店長も元々はここに所属していた。
今は自由な情報屋で、儂も居酒屋共々贔屓にしている。
金階級相当なのに銀階級でいたがるのも似ておる所じゃな。
因みに先般筆頭公爵家への侵入罪に問われたものの改心して公爵家の隠密部隊で修行している狼獣人を助けたのも、今怒りを抑え切れていない彼じゃ。
彼等の職務上、目的と立場を明確に出来ない為にぎりぎりまで待ってもらわんとならない場合が多々ある。
本当は子供達だけでなく狼獣人も重傷になる前に助けたかったのだろうて。
それから、彼を適切なギルドに送れなかったこともじゃな。
まあ、この国の機構とは話がついているから、コヨミ王国の騎士団にこいつらを渡す前に気晴らしくらいはさせてやりたいとは思う。
「気持ちは分かる。後で多少は融通を利かせるからの。ここの連中と組んでいた売買組織は今、第二王子殿下達が完全に壊滅させるべく動いておられるし、連中に不当な扱いを受けたお前が助けた狼獣人の妹殿は我が国の辺境伯殿の管轄の孤児院で保護しておる。狼獣人も儂が保証する場で働いておるでの。そこは安心しなさい」
「そうですな、中央冒険者ギルドの年に1度の休みですから、他にも粛清すべき所に向かいませんと。」
「その通りじゃ。では、お前は儂と共に来なさい。こいつらを騎士団に渡す前に、ある程度ならお前の好きにして良い」
「ありがとうございます、ギルドマスター」
男の目に輝きが生じたのを見た連中が縮み上がるが、知らぬ。
己が行いを悔やむには遅すぎる。
そうじゃ、カンザンはあの方に情報を渡せたじゃろうか。
ハンダも奥方もカバンシ殿もセレンちゃんも、叙爵によってあの家族の笑顔が消える様なことはあってはならぬからの。
もしお渡しできて、なおかつ儂の小屋にご案内出来ていたならば、最良なのじゃが。
後で相棒の梟に聞いてみるとしよう。
長生きもするものですな、と呟いた儂に。
『ありがとうございます』
聞こえたのは……?
気のせいでも良い。
儂にとってそれは確かに遠き日のあのお方の声であったのじゃから。
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