257-兄上に報告の私

「ニッケル、僕の名代お疲れ様。リュック殿のお陰で魔道具開発局に例の首輪を初めとした証拠品も既に送れたからね。辺境区のネオジム博士達は聖教会本部の魔馬殿に騎士団所属魔馬殿達と共に全員カバンシ殿が送って下さるから心配ないよ。飛行許可も周辺国空域は辺境伯閣下が、辺境区から王都までは僕が申請して許可を頂いている。ああそうだ、君の後を継いで僕を演じて下さっている眼鏡殿も、勿論一緒に戻られるから。救出された人達も辺境区で身心の休養を行うので安心してほしい」


『お帰りなさい』


 私の無事な顔を見られた事が嬉しいから、横になってくれていても構わないよお疲れだったねと言われる兄上。


 そして王宮待機の上で頑張ってくれたリュックさん、ありがとう。

 兄上が持たれてもお似合いの渋い感じの墨色のポーチ姿。格好いいね。


 皆さんが良い方向に向かっていると伺えて嬉しい。


 それに良かった、フィンチ型眼鏡殿下、きちんとお役目を果たしてくれたんだ。


 昨日の素敵なデートを経てここは王宮の私の部屋。


 騎士団の官舎は今後は緑簾さんの部屋として貸して頂くので私の部屋はここと聖教会本部準々貴賓室となった。

 天幕さんは実はこの王宮私室でも使用可能。スコレスさんの秘密の小屋(本当は一軒家!)とタウンハウスさん(元々はコヨミさんのお宅!)はまた別格という事で。


「とりあえず君の無事と、今日は君のこの私室で昼食と夕食を一緒に取って良いのだろう? もう少し休んでもらって構わないから話は昼にしよう」


 兄上、ありがとうございます、その弟思いな所、素敵です!


 でも、私は色々お話したいのです。

 組織瓦解の件に求者の件にナーハルテ様とのデートのことも!


 そうだ、あとカンザンさんのメモ!


『どうぞ』


 これくらいなら、と預かってくれていた黒白が兄上にメモを転送してくれた。

 助かったけど、これくらい……じゃないと思う。

 空間魔法と収納魔法の応用らしい。

 凄いよね、相変わらず。


「兄上、それをご覧下さい! 中央冒険者ギルドギルドマスターお墨付きの居酒屋店長さんからのメモです! 諜報の実力はハンダ-コバルトさ、殿が保証してくれます!」


「……これは、丸めた紙に見せていて、実はかなりの魔力を込めないと開けない特殊魔法紙だね。おや」


 特殊魔法紙。

 スコレスさんが特許をお持ちの特殊製法の紙のこと。


 昨日朱々さんを通じて仮名を教えて下さった梟の伝令鳥さん、かざさんが教えてくれた上に筆頭公爵家のお夕食の支度のお時間ぎりぎりという粘りに粘った制限時間によるお別れの際に白紙の紙束を下さったのだ。


 ナーハルテ様にも、と思ったのだけれど、風さんがスコレスさんに追加をお願いして下さるそうなのでとりあえず私が頂く事になった。


 因みにメモには『婚約者の確定を急げ。候補なら厳選した上で一人に絞るな』


 以上。簡潔。


「僕達の周囲で婚約者を確定ないしは婚約者候補を厳選しないといけないのは、君の大切な友人でもあるあのご令嬢だね」


「はい、その通りです。今生最大の聖魔力保持者聖女候補。父君は英雄にして叙爵予定者のセレン-コバルトさ、嬢」


 このメモ、兄上にお見せするべきかは一応寿右衛門さんに念話で確認をしていた。


 すると、私が決めて良いと言われたので良く考えてこうしたのだ。


 そもそもこの特殊紙、カンザンさんが伝えたい相手以外には無地の紙にしか見えないらしい。黒白にも読めたそうだ。


 兄上には。


「僕にも読む事が出来るという事は、それだけ喫緊きっきんということだね。これは預かっても良いかな」


「勿論です! 情報提供者も喜びます」

「ありがとう、ああ、リュック殿も、本当にありがとうございました。黒白殿も。リュック殿にはサイドテーブルに特級品の皮製品用クリームを置きましたのでよろしければ。黒白殿も皮の部分には是非お使い下さい。ニッケル、君には不在時の我が国の新聞と雑誌、周辺国の新聞をリュック殿にお預かり頂いている。良かったら。では、また昼に。話を聞くのが楽しみだよ」

「ありがとうございます! たくさん聞いて下さい!」

『ありがとう』『ありがとうございます』


 さすがは兄上、本当に如才なくて格好いい。


 周辺国の新聞まで、って!


 あ、あの洞窟で見た新聞まである!


 私もいつかなれるといいなあ。

 なるのは難しいだろうけれど近付きたい。


 きっと、ニッケル君も同じ気持ちだったんだろうなあ。

 

 いつかは、兄上みたいに素敵な王子様に、ってね。


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