252-狼獣人さんと私達

「も、申し訳ご、ざいません……。お、私、本当に……。この償いはどうしたら……」


 お手本の様な土下座。

 やっぱりこの狼獣人さん、良い人だった。


 魔力が高いらしく、集中してナーハルテ様のお話に耳を傾けていたら本当のお姿が見えてしまったらしく(もしかしたら朱々さんが認識阻害を制限解除したのかもだけど)て、自分から罪を告白して、今はある組織でちゃんと働いていて、今日は一日お休みを頂いて情報収集がてら名高き中央冒険者ギルドへ、と思っていたら残念ながら年に1度のお休み中だった……所に聞こえてきたのがアベリアちゃんの名前、という流れからの土下座だった。


 ふさふさの立派な尻尾が思い切り下がっている。

 当然ながら音声その他の漏洩防止魔法は付与済。

 黒白、本当に君はできる魔道具だね。


『恐らく、組織の事はまだ殿下達には内密にと彼の上司から厳しく通達されているのよ。きちんと誓約を守れているという証なので、責めないであげて』


『理解いたしましたわ』『そういう事なら』

 ナーハルテ様と一緒に朱々さんに肯いてから、私は目配せをする。


 やっぱり、朱々さんの制限解除だったのか。


『お願い申し上げます』『分かりました』

 任せて、ナーハルテ様。

 ここは婚約者たる第三王子殿下の出番だ。

「次は無い、と君は知っているね?」


 凛とした王子様……な雰囲気。

 我ながらそれらしい……と思う。 

 兄上のお姿を借りた成果だ。


「……は、は、はい! 勿論です!」

 土下座のまま真っ直ぐにこちらに向いた目は真剣だ。


「ならば良し。妹さんに会う為の準備に向かうといい。時間的にもまだ多少なら動けるだろうから、行きなさい。身だしなみと行儀作法、努力している様だね。良い組織に属した様で何より。今後も励みなさい」


「あ、ああありがとうございました! 精進いたします! 本当に、申し訳ございませんでした! 妹がこちらの国の孤児院に入れて頂けたらしいとは聞いていたのですが、本当に会える可能性が……! あと、依頼主とその部下だった人達へのご恩情、ありがとうございました! 御前を失礼申し上げます!」

 立ち上がり、走り出さずに早足で移動。


 それでもかなりの速さ。

 その辺りも今の組織の上の方々がきちんとした指導をされているのだろう。


 何だか、あの方々を思い出すなあ。


 陰日向でナーハルテ様の近くにいてくれるあの方達を。


 もし、そうだとしたら。


『時期が来たら必ずお伝えするからお待ちになっていらしてね』


 うん、朱々さん、待っているよ。

 

 寿右衛門さんともしたなあ、こんな遣り取り。あちらは求者との関わりだから一緒にはしづらいけれど。

 あと、あの洞窟に眠っていらっしゃる大切な存在………。


「朱々さん、食べた後、まだお店を見られるかな」

 これなら訊いても構わないよね? とナーハルテ様と視線を交わした。


「そうね、若い冒険者夫婦用の野営の為の宿泊用品と、何かお互いに贈りあえる品を見る位の時間はあってよ?」


「しゅ、朱々さん? 嬉しいけど、もっと時間のある時に……」 

「そうです、ね、というか、なんという提案ですの、朱々……」


 どうやら私達二人は、まだまだこの朱色の高位精霊獣殿には適わないらしい。

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