253-テルルさんと私達

 「この焼き具合、少しだけ焦げ目をつけて、肉の中に肉汁を閉じ込めて……。美味しい!」


 狼獣人さんが去った後はカンザンさんの牛串と草さんのクッキーとナーハルテ様達が追加で購入してくれた焼きたてのかぼちゃパイやアイスコーヒー等を楽しんだ。

 

 コヨミ王国の食事、やはり良い! 好き!


「牛串のソース、たれがついてます、るわ。」

 ナーハルテ様、ナー嬢が口を拭いてくれたのも、良い! 大好き!


 それからは中央冒険者ギルド近くの商店街の皆さんが厳選した品々を並べた屋台を色々見せてもらい、若手冒険者夫婦(!)用の品々をたくさん購入出来た。

 楽しかった!


 取り外し可能なフライパンの鉄の部分を何種類かとコーヒーやスープを作るのに十分な簡易火器魔道コンロ。

 一級品の魔羊の寝具。寝袋と似ているけど魔力を込めたら冷暖の効果を付与できる物。


「リュックちゃまはあの冒険者用のリュックと色々お話、話しているようで、ね」

 そう、冒険者用のリュックサックを見ていたら、『この子とこの人!』と、新しい品と少し使用感のある品をリュックちゃんが選んでくれたのだ。

 蜂蜜色と薄墨色。正に今の私達の色だった。

 時間が足りないかと思っていたけれど、お買い物デート、堪能させてもらいました!


 いつか、が来たら。


 もしかしたらこれらの品を持ってナーハルテ様と旅立つ事が出来るのかも知れない。


 寿右衛門さんや緑簾さんに朱々さん、インディゴや月白やあの方やこの方……な方々も一緒になのかも。


 楽しみだなあ、とそんな風に色々考えながら歩いていたら声を掛けられた。


 「で、殿……じゃなくて、ニケさん、ナーさん! 朱色さ、護衛さんまで! お久しぶりです!」


「テルルさん!」

 中央冒険者ギルドの受付さん、コウモリの精霊獣を先祖に持つ耳が格別に良い人。


 ご先祖からの教えで女性には優しく、男性には厳しい所があった人。

 今は?


「あ、勿論、ハンダ……さんや殿、ニケさんの教えを守って男、男性にも丁寧な受付をしてますよ。あと、休暇の返上は自分から自発的にお願いしました。わざわざ中央冒険者ギルドうちに来てくれる国外の方の為に、とギルドマスターが無人受付を設けようとされたのを俺が無理を言って有人にさせてもらったのです。」 


 なるほどなあ。

 中央冒険者ギルドの長期休暇については国内だと新聞に大きな告知が出てる(らしい)から良いとして、他国の人にしてみたらホームページとかないから、無人受付でもあればありがたいよね。


 多分、兄上はこの日程をご存知だったからわざわざ時間を捻出して下さったのだろうな。

 ハンダさん達も多分同じはず。ありがたいなあ。


「テルルさん、狼獣人の方は見えました、来ましたか? 若い方です」


「ナーさんのお知り合いですか? あ、はい。来ましたよ。やたらと迫力のある若い奴ですね。1度目はこの通り、ギルドの休暇で受付の俺しかいない事にがっかりしてましたが、ついさっきまた来ましてね、ギルド加入の手引きとか色々見て、俺にも質問してきて、やる気に溢れてましたね。ああいうのがいるから、ギルドの受付って良いなあ、って思いますよ」


 ナー嬢とテルルさん、二人の会話を聞いて安心した。


 狼獣人さん、また一歩、前に進めたみたい。


 良かった。


 これなら、アベリアちゃんがお兄さんに会える日もそう遠くはなさそうだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る