250-カンザンさんと新人さんと私達

「おお、久しぶり! 相変わらず似合いのお二人……じゃねえ、似合いの二人だなあ。派手にやらかしてるな! 色々聞いてるぞ!ハンダ達は元気……だよなあいつらなら!」


 大声と白い歯と笑顔で迎えてくれたのは、ムキムキで元凄腕情報系冒険者さんで激旨居酒屋関山かんざん店主のカンザンさん。

 公式の冒険者は引退ながら、相変わらず情報通な方だ。


 本日は、居酒屋関山ならぬ屋台関山?

 

 中央冒険者ギルド近くの商店街一帯が屋台村みたいになっている。

 店舗を持つ方々はそれぞれのお店の前、それ以外の方は少し離れた場所に屋台を形成している。


 お店かな? みたいな大きさの屋台。テントとかではなくてきちんと小さな建物。

 それが何軒も軒を連ねて、お客さん達も楽しんで見て回ったり割ときちんと順番待ちをしたりとルールを守ってくれているらしい。


 少し離れた所には広い空間を取って簡易上下水魔道具を備えた化粧室も整えられていて、私の天幕さんと比べたらさすがにだけど、かなりのレベルの屋台村だ。

 化粧室には隣接しない様に配慮された購入した飲食物を楽しめる場所も作られている。


 あと、騎士団警備隊の方とか自警団の方とか、見回りもされていて……。

 あ、いたいた。居酒屋関山のイケメンムキムキ店員さんとガチンコ系店員さん達!

 手を振ってくれてる。ヤッホー、私達だよ!

 あれ、朱々さんが私達に認識阻害魔法を掛けてくれたんだよね? カンザンさんが普通に歓待してくれたから一瞬忘れていたけど。


『ニケ様、こちらを』

 あ、ナーハルテ様の私物の鏡? カバーがプラチナ色で綺麗。繋いでいた手が離れてしまって少し残念だったけど、また繋げるよね。


 薄墨色の髪と目が美しい髪が一つ結び、ポニーテールに涼やかなミントグリーンのワンピースのナーハルテ様、ナー嬢。

 蜂蜜色の髪と目、白いシャツとペールブルーのパンツの私、ニケ。

 良いなあ、爽やか。特にポニーテールのナーハルテ様! いやこれはお似合い。


『店主達はお二人を良く知っているでしょう。殿下とナーハルテがこの様に認識阻害を掛けて行動する可能性がある事を既知で、害意のない人達には普通に姿が分かる様に魔法を掛けておいたのよ。情報とか、色々必要な事もあるでしょうから』

 さすがの配慮。ありがとうございます、朱々さん。


「今は年に1度の中央冒険者ギルドの長期休暇なのです。その代わり、商店街が一丸となってギルド周辺を盛り上げております!治安につきましてはご安心下さい、ギルドマスタースコレス様を初めとする皆様方が防御魔法を多重掛けして下さいましたので!」


 あれ、何だかかわいい声と外見、だけど圧倒的なスタイルの良さの女性店員さんだ。

 「カンザンさん、こちらは新人さん?」


 居酒屋関山の皆さんは筋肉にまみれた好青年さんとかゴツいけど笑顔が良い方とか、とにかくムキムキでムキムキな方達ばかりだったのに。


「ああ、そう、こいつは新入りで、ニケ様が前回いらした時にはいなかったからな。ソウっていって、先祖が牛の獣人らしくてな、こんな外見だけどお……二人より年上だ。今はうちの菓子とかデザートの担当で中々の腕なんだよ。実は料理も出来てな。ほら、味を見て頂……味見してもらえ!」


「は、は、はい! ええと、高位……じゃなかった執事様、お毒味じゃなくて味見を願えま……どうぞ!」


 ああ、いや、そうかあ。

 人型朱々さんやリラシナさんカクレイさん達を見慣れた私でも最初驚いた草さんのスタイルの良さは牛の獣人さんがご先祖様だからなのか。多分あちらならGとかHのバストサイズ。

 私自身がFだったから分かる。


 見た目は目がくりくりの美少女さん。色白。いや、私も大学生に高校生っぽいと言われてたなあ。

 あ、いけない。あまり見つめたら失礼だ。


 実は第三王子殿下、とかの私達の事情はご存じなんだね。

 毒味かあ。いつもは寿右衛門さんか黒白に任せきりだからな。


「あ、ありがとう。全て購入しても大丈夫ですか?」

『聖魔法の状態確認魔法です』


 試食用の小さなクッキーを一つ、美しい所作で摘まんだナーハルテ様、ナー嬢。

「ひあ、筆、いえお嬢様、ありがとうございます!」

 うん。

 獣人美少女実は美人成人さんでも、ナーハルテ様の笑顔とお声には驚くよね。


「材料が貴女に料理されている事を喜んでます。味見は必要ないですわ。買い占めは良くありませんが、もしよろしければ、その奥の品でしたら購入出来ますか?」


 朱々さんが言うのは、多分奥の方に積まれたたくさんのクッキー。 

 多少形がいびつかな、というくらいの品で、大量。確かに十分おいしそう。


「ああ、あれは草が売り物にならない、って言って、後で店の皆で食おうとしてたやつだな」


「こちらの袋詰めの物を全種類と、あちらの品を購入しても良い?」

 私も一つ頂いたけれど、刻んだ胡桃とか色々が美味しい。この購入方法なら大丈夫かな。

 多分これからもたくさんお客さんが来るだろうから買いすぎない様に、だ。


「じゃあ、全種類分の倍の値段を頂いても良いか? 悪いからほら、牛串。ハンダ達が食いたがるだろうから、他にもどうぞ。何とか保存魔法か? とか掛けてくれ。で、ニケさんには旨え酒とかも色々頂いてるしな!」


 暴れ牛の牛串たくさん! しかもカンザンさんお手製の網焼き!

 と、包みの他に丸まった紙。

『それはこちらに』


 布バッグに変化したリュックちゃんの中にふわりと入る紙。

 あ、カンザンさんがウインク。

 これ……情報だ!


『ニケ様、草様をご覧下さい』


 ……?

 あ、草さん、カンザンさんを見詰めて。


 真っ赤。


「ん? さっきまで平気だったのに、焼き網の熱が熱いか?顔赤いぞ。水分取れよ! いや、それともで、じゃねえ、ニケさん以外の男でなんか嫌な奴でもいたか? あ、もしかして、女か?」


「ち、違います、大丈夫です! 店主のウインクが素敵に格好よくて見とれたりなんかしてません!」


「……そりゃそうだ!そしたら逆に熱でもあるって皆が心配しちまわなあ! ニケさん、悪いな。草は腕も性格もいい菓子職人なんだけど、ほら、見た目が可愛いからよお、タチの悪いのに好かれやすいらしくてな、前の職場で揉めたって話を聞いて、俺がうちに来ねえか、って誘ったんだよ。店主と店員達は良い奴らだったんだが、客層がイマイチな店で。むしろ店主達からも頼まれたんだよ。だから代わりにムキムキで腕の良い奴を紹介しといたけどな!」


「全く。魅力的な女性は巻き込まれやすい話ね。まあ、草さんもこちらで素敵な方に会えたみたいだし、以前のお店の方達も安心ね」


「は、はははい!」

「おい、草。いくら素敵な方とはいえ、この方、人はダメだぜ?」

「分かってます! はい、それではこちらも袋に入れさせて頂きました!」


「ありがとう。……色々頑張ってね?」

「はい!」


 朱々さんとの遣り取りを聞くだけでも草さんの苦労が分かるね。頑張れ!


「これだけあると皆に配れるかな」

「そうで、そうね。アベリアさ、ちゃん達にもあげたいで、けど、またの機会……ね。セレン様達には良いかも。あ、やはりお客様がたくさんいらし……来てるから行きましょうか」


 どうしよう、ナーハルテ様の口調がかわいい。


 じゃなくて、さすがは屋台村関山、すぐに混んできたのでカンザンさんと草さんにありがとうと挨拶をして、それから私達用にと牛串を二本とクッキーを少しだけ取って牛串の残りと大量のクッキーをリュックちゃんに預かってもらう。


 「まだ少し見て回れそうだね」

 そう私が言うと、ナーハルテ様と朱々さんは見付けた空きテーブルに場所を取り、リュックちゃんをまず椅子に座らせた。


 それから、『そうですね、飲み物ともう少し食べ物を買って来ます、殿下をよろしくお守り下さい』と伝えて黒白に後を頼んでいかれた。


 うーん、お二人とも気配りされてるなあ。と感心する私。


 いや、さすがにスコレスさんの魔法防御壁の中で馬鹿な事をする人もいないでしょう、と思ったのだけれど。


 だけれども! なんだよね、これが。

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