249-息休めが有難い私

「筆頭公爵令嬢様のご婚約者様がお迎えにいらしたのですか? それならば是非向かわれるべきです!」


『じゅったん様、第二王子殿下のご厚意は有難く存じますが、獣人の皆様方はどうお感じになりますでしょうか?』

 あの兄上からのご提案の後、まさにナーハルテ様らしい念話によるご意見に従い、カバンシさんから訊いてもらったら獣人の皆さんからはこんな回答を頂いたのでした。


 逆に、『むしろ、それならば私の背に乗る事も遠慮せずにな、と説得が出来ました』とカバンシさんには感謝をして頂けた程で。


「確か、恐縮ながら以前は少し……という点がおありだったけれど、隠されたお力が現れていらしたんだよな? 本当に、その通りなのだろう! こちらにおわす第二王子殿下の弟君であられるのだから!」


「……真のお力に目覚められた、というお方だろう? フードさんが言っていた通りだな! きっと筆頭公爵令嬢様のご婚約者として相応しいお方に違いない! 何しろ、筆頭公爵令嬢様のご婚約者様で、その上第二王子殿下が高くご評価をなされているのだから! ですよね、第二王子殿下!」


 「え、あ、うん。そうだ、ね。皆さん、弟を称えてくれてわ、僕も嬉しいよ」

 意外。求者は私の事を皆さんに話したりしていたんだ。

 正直困惑。あと、照れるな。


 ニッケル君についてはちょっと耳が痛いけど、今の私達ならきっと大丈夫だよね。

 ニッケル君も私も、それぞれの場所で成長しているのだから。


 内心を隠しつつ転移陣を作動する為に、と皆さんには説明をして亜空間を作り、ナーハルテ様と朱々さんと私が中に。


 兄上な私はお見送りという事になっているのだ。


 「……よし」

 フィンチ型眼鏡を外して、兄上の分体さんを作り、眼鏡も渡す。


 魔力を込めて、兄上のお姿を思い浮かべるだけ。私が、というよりもこの眼鏡さんがすごいのだろう。


「いってらっしゃいませ」

 そう言ってくれた分体さんは確かに私が変化していた兄上よりは薄墨色が薄いけど、きちんと兄上らしかった。


『行ってきます』『皆様に宜しくお願い申し上げます』『行って参ります』『行って来まあす!』『失礼いたします』『皆さんによろしくね。護衛は任せて!』

 私、黒白、ナーハルテ様、リュックちゃん、白黒、朱々さん。


『どうぞ限られた中でごゆるりと』『カンザンに会えたらよろしくな! でもデートを優先しろよ!』『楽しんでな! 暴れ牛の牛串、できればよろしく!』『此度は息子共々誠にありがとうございました!』『次の機会には是非私にお乗り下さい』

 寿右衛門さん、ハンダさん、緑簾さん、アタカマさん、カバンシさん。


『行ってきます!』『こちらこそありがとうございました』

 私、それからナーハルテ様。


 それぞれの腕には黒白と白黒、ナーハルテ様の背にはリュックちゃん。


 貴重な時間をありがとう。兄上、そして皆さん。


『色合いとか服装はあたくしに任せてね!』

 朱々さんが転移空間内で髪や目や服装の認識阻害魔法を調節してくれていた。


 いつの間にか繋いでいた手を離さずにいたら、あっという間に懐かしいあのお店、居酒屋関山の前に私達は立っていたのだった。




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