248-任務を振り返る私

「皆さん、お疲れ様。少しだけ休憩したら、皆でカバンシ殿に乗せて頂こう。ナーハルテ……嬢、朱色殿、お茶と軽食の用意をお願いしても良いだろうか。可能な限り簡略に願いたい」

「「謹んでお受け申し上げます、第二王子殿下」」


 皆さんの綺麗な礼。


 そして、ナーハルテ様と朱々さんとリュックちゃんに合図をする私。

 獣人の皆さんを寝かせていた毛布にそのまま座らせてもらい、お茶とお菓子と簡単な食事を取ってもらう為だ。


 さすがの面々は私の意図を把握して、てきぱきと作業をこなしてくれている。

 人型寿右衛門さんにお願いしたらイケオジ執事様が素敵過ぎてしまって作法を無視した飲食をしてもらえなくなるかも、と思ったので。


『……承知しておりますよ。良いご提案です』

 あ、やっぱりお見通しだったか。


「第二王子殿下のお気持ちを有難くお受けする様に。ああそうだ、この場は作法は気にせずとも良い。……ですね、殿下?」

 と、いい感じでカバンシさんが伝えてくれたので「勿論」

 と鷹揚に肯いた……つもり。


 多分、兄上っぽいと思う。ぽかったら良いな、と。


「第……殿下はこういう時はお気にはなさらないから安心して食いな! 水分も取れよ!」

「その通り!」 

 と、書類他を受け取って戻って来てくれた緑簾さんとハンダさんが私作のおにぎりを立ったままでバクバク食べ始めたので、獣人さん達もむしろほっとしてくれた様だ。


 二人共、わざとなのかも知れない。第三、って言いそうになったのは天然だろうけど。

 けれども、それ以外はありがとう。


 飲食物はリュックちゃんがリュックさんと亜空間で繋がってそこからナーハルテ様が取り出してくれた物。


 あらかじめ、収納しておいて良かった。

 それに、亜空間が無事に繋がったという事は書類その他も無事に兄上のお手元に届いたって事だからね。リュックちゃん大活躍!


 あ、緑簾さんとハンダさん、加わったアタカマさんが凄い勢いで食べたり飲んだりし始めた。


 これなら余程の事が無い限り獣人さん達も礼儀作法を気にしないで適切な量を楽しんでくれるだろう。


 実際、皆さん次々に飲食を初めてくれているし。

「お前らはもう少し殿下と茶色殿と筆頭公爵令嬢殿と朱色殿への気遣いを示せ。それに、副団長殿まで……」

 カバンシさんはそう言いながらも目元は笑っている。その手元には梅おにぎり。


「まあまあ、カバンシ殿、確かにこれは旨い! それに獣人の皆を解放という初志は貫徹出来た!」

 アタカマさんもご機嫌だ。


 そう言えば、求者はまた何処かに発ったそうだ。


 暫くは姿を現さないらしい。


 セレンさんが聞いたら

「雷パンチの一発くらいはぶつけたかった……」と言いそうな気がする。


 その反面、求者の出発を伝えてくれたハンダさんは何だかスッキリとした表情をしていた。

 任務が一段落したからだろうか。


 獣人さん達は

「フードさんにはもっともっと丁寧にお礼を言いたかったですが、あの方はまた俺達みたいな獣人や流人達を助けに行ってくれたのだと思います」と皆さん口々に感謝を述べていた。


 この人達の前で求者を拘束、とかを行わずに済んだ事にはほっとしているというのが正直な所だ。


 兄上も、今回はあくまでも皆さんの解放が第一、組織を完全に消滅させるのが第二とお考えだったからね。

 前回はほぼ、だったから。


 それに、連中の精神的支柱だった求者が実は皆さんの保護の為に組織に属していた事が鮮明になり、

「奴等は精神的にガタガタです。心を折ったから、もうこういう行いは出来ませんよ」と緑簾さんとハンダさんの二人が求者と連れだった後にアタカマさんが教えてくれた。


 カバンシさんと寿右衛門さんと朱々さんも

『心を折られたら体よりも切実です』と完全に同意見だった。


 その上、辺境区での取り調べ。

 連中の精神はとことん追い詰められている筈だ。


 兄上も既に母上と父上、姉上と上の兄上に許可を頂いて王国のみならず外部にコヨミ王国は獣人に限らず人身売買行為には毅然と立ち向かうという確固たる姿勢を新聞その他の適切な手段と情報操作で内外に知らしめておられるらしいし。


 留学に向かわれても、そのご手腕は益々磨かれるのだろう。


 兄上、本当に賢く穏やかで時には激しく、と完璧な王族であられるお方だ。


 私も、兄上の様に母上達をお支え出来る人物になりたいなあ。

 そんな事を考えながら、ナーハルテ様と一緒にクッキーを一口。


「立ったままで食する……食べるのは新鮮ですね」

 と微笑むナーハルテ様の可憐さにときめいていたのは内緒だ。


 やっと落ち着けたかな。

 任務もほぼ完了、穏やかだなあ。と思っていたら。


「第二王子殿下、恐れながら、ご婚約者を迎えに来られた弟君の事をナーハルテ様にお伝え願えますか」

『羽殿の眼鏡殿が殿下の分体を作られます。朱々殿とお二人とで転移で中央冒険者ギルド付近にお渡り下さい。多少なりともお時間を過ごして頂いてから王都へ向かわれては如何でしょう?』

 寿右衛門さんの会話と念話の同時通話が。


 え、は、はい?


「じゅったん……様?」

 ほら、ナーハルテ様でさえ驚いてるよ?


 寿右衛門さん、とんでもない事を言ってない?

『あたくしと殿下とナーハルテなら大丈夫でしょう? 今日一日、夕刻ぎりぎりまではデートをさせてあげられるわ! ナーハルテとあたくしは筆頭公爵家、殿下は王宮私室に戻られるのよ。転移ならあたくしと白黒と黒白がいるから完璧!』

 朱々さんまで?


 あれ、緑簾さんとハンダさんとカバンシさんとまさかのアタカマさんも何だか笑顔?


『ナーハルテも嬉しいでしょう?』

 ナーハルテ様、は驚いてるけどさすがの冷静さも素敵! なんだけど、少し赤くなってらっしゃるのかな?


 でも、兄上が……。


『ご心配なさらずに。その第二王子殿下からのご提案です。先日、今回の任務後にというご提案を頂きました。勿論万事が上々ならばというのが前提でしたが。素晴らしきお考えですな。そして、明日の昼からご報告をとの仰せであられます』


 兄上、ありがとうございます!


 思わず叫びそうになって、兄上は今は私だと気付いて思い留まった。


 だから、心の中で絶叫。


 兄上、本当に、ありがとうございます!

 明日の兄上へのご報告、全力を尽くしますからね!


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