246-辺境区へ向かう前の私達

「フードさん! それにそちらにおられる方は、竜様では? あれ、首は……」


 気付いた獣人の皆さんが驚いたのも無理はない。


 辺境区に発つ前にセレンさんがナーハルテ様との協力態勢で完璧に治した皆さんの首輪の跡。


 ふさふさとした毛並み、健康的な肌。傷跡等は探しても分からないでしょう、ふふん!

 さすがは私の大切な仲間と最高の婚約者様! と心中でどや顔の私。


 勿論、皆さんの怪我等は映像水晶に記録済です。


 元々、見目麗しく且つ肉体美も、な獣人さん達だから皆さん逞しくも美しい方達。


「こちらのフード……殿が首輪を外して下さり、首輪は我々が検分の為に預かっている。君達の仲間は我が国、コヨミ王国の辺境区に既に向かっているから安心して君達も向かうと良い。私が竜に戻り、乗せてやろう」


 すると、

 そんな、竜様のお背中になんて……。

 皆を解放頂いた上にその様な!

 恐れ多いでございます!

 回復もして頂いたのですから、私達は走ります!


 そんな返事が聞こえてきたけれど、今回は多分カバンシさんが説得してくれるだろう。


 何しろ、彼等を酷使していた連中を檻のまま一緒に運ぶのだから。


「畜生、フードの親分が来たら、お前らなんか……」

 早めに目覚めてしまった若いゴツい男が悪態をつく。


「ふーん、その親分って、あっちで首輪が外れた連中と談笑してるフードさんか?」


「見えねえか? 申し訳ねえけど、ナーハルテ様、ちょっと魔法付与をして頂いてもよろしいですか?」

「ええ、構いません……これでご覧になれますでしょうか?」


 緑簾さんとハンダさんは何だか楽しそうですね。


 音声はナーハルテ様が掛けた魔法で模造ネクタイピンから連中も拾えている筈だ。

 だから、重ねて付与されたのは視界を広げるとかそんな感じの魔法だね。


「おい、てめえらも起きろ! フードの親分、あれ(……バリン! とハンダさんの雷パンチ)じゃねえ、あいつらを解放しちまったぞ?」


 ゴツ若(略した)が周りを揺らして起こそうとし始める。


 すると、激しい振動で次第にスーツ二人も目を覚まして、そして、愕然としていた。


「「そんな……あの人が……」」


 あとは早く辺境区に届けて、連中の処遇は辺境伯閣下肝煎りの皆さんにお任せしたら良いだろう。


 辺境区で細々と暮らしていた獣人さん達にも被害者として該当するらしい方々がいたとの事前調査結果。


 よって、王都に身柄を移す前に辺境での聴取をと閣下が求められたのを兄上が了承されている為、とりあえず全員辺境送りになることが既に決まっている。


「分かったろう? フード……殿は彼等の味方、私達の強力者だよ。お前達はまずは辺境区での取り調べを受ける事になる。辺境伯閣下が直々に、という可能性もあるから心しておくんだな」


 兄上にしてはちょっと意地が悪い感じになってしまったかも知れないけれど、効果はあった。


 何しろ全員、「あ、あの辺境伯に……」

 と言ったきり、意識を失ってしまったのだから。


 うるさくなくなった分、運びやすいよねきっと。

 意識がないから重量は増えたかも知れないけれど、カバンシさんだから大丈夫だよね。そんな加重なんて、物ともしないだろうから。


「これならすぐにでも運べるわね」


「あ、それならば何人かあちらの建物にお出で下さい。全ての書類をお渡しするので」

 やれやれ、という感じの朱々さんに求者がそう言うと、アタカマさんが反応した。


「ハンダ殿、それならば俺も辺境伯閣下からの私的な文をお預かりしています」


 辺境伯からの文を、騎士団副団長閣下が預かり、英雄に渡す。すごい光景だ。


「あ、すまねえ。……あ、こりゃあの人の私信だな。後でゆっくりと読ませてもらうよ」


「んじゃあ、俺とハンちゃんが書類を受け取って来るよ。茶色殿は映像水晶の操作があるだろ?」

 そして、ハンダさんと緑簾さんのやり取り。


 この二人、意外と細やかだから良いかもね。


「確かにそうですな。それでしたら殿下、ナーハルテ様、リュック嬢をお二人にお預けしてもよろしいでしょうか?」

 寿右衛門さんが言うなら間違いない。


「そうだね、どうかな、リュック……嬢」

『分かりました』


「それではわたくしからは賛意以外ございません。リュックちゃま、どうぞ、誠心誠意お勤め下さいね。」

『はい!』

 リュックちゃんとナーハルテ様の了承も得た。


 よしよし、これで速やかに兄上に重要書類をお渡しできるね!


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