245-羽殿とお迎えと私達

『皆様、場を拝借いたします! そのまま動かずにいらして下さい!』


 あ、この声は分かる。

 私がお借りしたフィンチ型眼鏡も魔力を感じて微妙に光っているし。


「羽殿! インディゴ! わぁ……よくぞ見えられた!」


 わぁい、はだめでしょう、私。なんとかなった?


 兄上の起爆札で私が色々吹き飛ばしたからほぼ更地になっていた辺りに綺麗に着地した白鷺似の端正な伝令鳥さんと、大型馬車を引いた逞しく美しい藍色の魔馬。


 特に見入ってしまったのは後者。


 久しぶり、会いたかったよお!


 中央冒険者ギルドは勿論、その近くの冒険者御用達商店街とか居酒屋関山とか大書店とか……ナーハルテ様とのデートに行く時には送迎してもらうんだ、って想像(私の夢想や妄想じゃないよ? 確約済だからね!)していたあのインディゴ。


 こんな状況だけど会えたのはやっぱり嬉しい!


 私は、今は兄上の姿だから抱きついたりできないのが寂しいけど。


 重力魔法を掛けているのだろう、体躯を揺らさずに静かに着地した姿も雄々しい。

 そして勿論羽殿も凛々しい。


『騎士団への魔馬使用許諾申請はコッパー侯爵家当主殿が率先して行われました。その上で千斎上級大将閣下に迅速にご対応頂けました次第です』


「ありがとうございます、羽殿、遠路遥々はるばると! おお、さすがはアルちゃ我が妻! と千斎殿! ならば俺が……と言いたいが殿下の御身とご婚約者ナーハルテちゃ、嬢がおられるからな。そうだ! スズオミ、俺の代理としてお前が皆さんを辺境区までお送りしろ。首輪を付けられていた人達は俺らが送るから」


 アタカマさんてセレンさんと口調が似ているよね。和むなあ。


「あ、なら私も! 月白げっぱくちゃんから噂を聞いてて、インディゴさんに会いたかったんです! こんにちは! 良い筋肉と毛並みですね! 聖女候補セレン-コバルトです!」


『初めまして当代最高の聖魔力保持者であられる聖女候補殿。そうですか、月白殿……。確か聖教会本部の真面目な白き魔馬ですね、いつかの式典でご挨拶を頂いた事がございます。聖教会の皆様と国防の要、それぞれ尊い方々をお運びする魔馬同士、またお会いしたいですな』


「本当ですか? 月白ちゃん、喜びますよ!」

『そうですか、嬉しい事です。お互いの業務の励みになりますね。ああ、私にはぜひ、お楽なお言葉を』


『分かり、分かったよインディゴ! でも、あれ?』


 うん、セレンさん、多分、月白とインディゴ、お互いに会いたいのは一緒だけれどちょっと意識の方向が違うかも。


 まあ、好感触は好感触だから、って事で。


 て言うか、寿右衛門さんと深夜に遠乗りしたりしてるからかインディゴ、念話が堪能!


 そうそう、月白、私にはそういう話は無かったけど、セレンさんとはしてたんだね。


 まあ、私もお似合いだと思ってたし、多分これはこれでかなりの好印象なんだよ、きっと!


「インディゴ、お会いできて嬉しいです。皆さん、こちらの魔馬さんはコヨミ王国騎士団所属の魔馬殿です。逞しくて賢い魔馬さんなので皆さん、魔馬さんとお話したいとは思うけれど、今は急いで辺境区に運んでもらいま……おうね。はい、偉いで、偉いね。……そうそう!」


 うわぁ、ナーハルテ様、素敵……。


 頑張っておられた言葉遣いの練習の成果が出てるよ!


『あたしも感無量よ、殿下!』

 うんうん、本当に全面同意ですよ朱々さん!


 そして、そんな感じで順序よく進む皆さんの移動の準備。


 先に逞しい獣人さん、次いで小さい子から順番に、ステップを踏んでもらって大きな騎士団大隊用馬車の中に。


 アベリアちゃんが、私達に向かってめちゃくちゃ手を振ってくれている。


 迫力ある車体とインディゴ。

 確かに、これなら余程の自信家か無鉄砲以外は襲ったりしては来ないだろう。

 車体への魔法付与もたくさんされているし。そして、インディゴ自身も完璧魔馬さんだ。


 それに加えて羽殿とセレンさんとスズオミ君。皆の護衛としても申し分ないよね。


 そうだ。


『ハンダさん? 羽殿がおられるからセレンさんとスズオミく、コッパー侯爵令息の二人連れでも良いですか?』


 この件、兄上だと訊きにくいから念話で訊くと。

『まあ、侯爵令息は甘く採点して10点だから、許すよ』

 10点。100点満点で? 厳しくない……か。天水町があるから。


『心配するな殿下、八の街ではハンダの点数が取れた者がいないから。全員等しく0点。要するにセレンに似合うに足るかどうかのハンダの自己中心的な採点だ。彼……侯爵令息は100点満点でセレンの編入時の分、マイナス120があっての10だからな。大したものだ』


「おい、ばらすなカバンシ!」

 点数配分は良く分からないけど、とにかく割と高い点数……なんだね。

 良かったねスズオミ君! で良いんだよね?


「まあまあハンちゃん、心配しなくてもスズは任務と感情をごっちゃになんかしねえよ!精霊殿のお陰で今日一日は念話も使えるし」


「まあな、そりゃ副団長殿の息子だもんな。殿下の、第三王子殿下の親友だし」


 緑簾さんが宥めてくれたからか、ハンダさんは笑顔も見せている。

 ただ、アタカマさんはともかく、私の評価が高いぞ。

 何故だ?有難いけど。


 まあ、良しとして。


 求者は多分、笑顔? で獣人さん達に手を振っている。


「あ、あの、王子殿下。殿下は第三王子殿下のお兄ちゃ、様ですね?」


 あれ、リスの獣人さんかな。大きな尻尾もかわいい子に声を掛けられた。

 緊張してるね。


 まさかこの子、第三王子に気付いたの?


「第三王子殿下にお伝え下さい。あ、私、まだ捕まるまでは各地を移動する行商隊に入ってて。捕まった時も連中に気付いた行商隊の人達が逃がしてくれようとしたけど、逃げた先にいた別動の連中に捕まっちゃって……。捕まる前にはコヨミ王国の地方の街にも行った事があって。慰問に来て、いらしてたあちらのお姫……筆頭公爵令嬢様がポンプを直したり水源を浄化して下さったのを見て、すごくて……殿下が獣人の小さい子達のお話をちゃんと聞いたり、魔力が少ない子を励ましたりされてたの、あの頃は、殿下の事……」


 ああ、ニッケル君。

 ちゃんとあの頃の君を見てくれていた人は、こんな所にも居たよ。


 嬉しいね。


「ありがとう、君の気持ちは弟、ニッケルに必ず伝えるよ。あと、馬車の中で聖女候補殿か騎士団副団長のご令息のどちらかに行商隊の方々の扱っていた品とか皆さんの人相とか、覚えている事を伝えてくれるかな。勿論、精霊獣殿にでも良いからね。もしかしたら君の無事をお伝え出来るかも。ほら、あちらで案内をして下さっているお姫様が待っている。ああ、ご令息、お嬢さんを頼むよ。コヨミ王国の辺境区は良い方がたくさんいるから。……フードさんにさようならと……ありがとうをして、ね」

「はい! あ、ありがとうございます」


 お手をよろしいですか、と私に礼をしてから姿勢を低くして獣人の女の子に手を差し出すスズオミ君。


 女の子の頬が赤い。


 おや、ここに初恋泥棒がいるぞ。


 それはそれとして、さっき教えてもらった事は必ず伝えるからね。


 ニッケル君に。


 スズオミ君にエスコートされて魔馬車に乗った女の子に続いてセレンさんと羽殿が最後に乗り終えた。


「フードさん、行って来まあす!」

「フードさん、ありがとう! 大好き!」

「竜様、鬼様、王子殿下、お姫様、執事さん、執事のお姉さん、英雄さん、騎士様、皆さん、ありがとうございました!」


『ご尊顔を拝せました事に感謝を』『眼鏡が役立ちまして幸いに存じます』『皆さん、先に参ります!』『殿下、セレ……皆様と聖女候補殿は羽殿と、このスズオミ・フォン・コッパーがお守りします!』


 インディゴ、羽殿、セレンさん、スズオミ君。

 そうして、あっという間に駆けていった。


 うん、やっぱり聖教会本部の上級魔馬車と真っ白な月白よりインディゴと騎士団馬車のこちらの方が獣人さん達には安全だ。


 勿論、月白は美しく素敵に活躍してくれたんだよ。


 そう、辺境区内の医療活動の際に。

 これはネオジムさんからの連絡を受けた兄上に聞いた話。


 多分、カバンシさんに月白も含めた辺境区内の全員を乗せてもらって帰る事になるのかな。


 我が国には聖教会本部の上級魔馬車と月白に襲いかかる強盗団とかなんてそうはいないと思うけど、そういう気にさえならないよねインディゴと騎士団馬車の迫力は。


「獣人達よりセレンを優先しやがったからマイナス。……総合評価は1点だ」


「ハンダ、大人げないぞ。それよりも殿下、御身よりも私や緑や朱色殿を優先するのは獣人のさがでございますのでご容赦下さい」

「大丈夫、そんなのは気にしねえよな、ある、……殿下!」


 うん、緑簾さん、その通り。


 さて、とりあえず一安心かな。


 あ、首輪の方達もそうだけど、連中も! だったね。


 大切な存在、は、とりあえず私が覚えておこう。


『はい』『だね』


 何だか、寿右衛門さんと求者、息が合って……ないよね、うん!

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