244-地上とセレンさんと私

「殿下、如何でしょうか。首輪を付けられて働かさせられていた方達はともかく、他の方達はカバンシ殿に乗せて頂いてピューッと行く方が早いと思うのです。辺境伯閣下も、おかあ、母、ネオジム博士も辺境区での準備を整えてくれ……下さっていますし」

『先祖が魔獣国の出身の方もいるらしくて、竜のカバンシ兄ちゃんに乗せて頂くなんて恐れ多くて、みたいな感じなんです。他の人も獣人さん的に竜さんって尊敬の対象だから厳しいみたいで。あ、殿下は魔獣国はご存知ですよね?』 


 会話とそれから念話で聞くと、セレンさんの焦りはなるほど、という気がした。


 あとセレンさん、焦りからか聖女候補の口調が微妙。


 ところで、セレンさんが言っていた魔獣国はコヨミ王国からは物凄く遠方の国だ。

 国交も正式には締結されていない。大陸法でも準国家扱いだった筈。


 でも、友好国と言えなくはない、そんな国。

 魔物や魔獣、魔獣人達が多く住む国なので魔の国と蔑視する国も存在する国だが、我が国は勿論そんな事はしない。

 魔、という表現に眉をひそめるのかも知れないし、コヨミ王国にもそういう人はいるだろうけれど、魔物や魔獣だった方が努力の結果精霊殿や稀には聖霊殿達へと上られる事もある程で、決して侮蔑対象にして良い存在ではない。


 簡単に言うと、討伐対象の魔物達とは異なり、意思疎通が可能でどちらかと言えば理性的な方が多く暮らす国。


 実は中央冒険者ギルドギルドマスタースコレスさんは国王陛下と懇意にされているそうで、何かの折には紹介状を、と私と寿右衛門さんに言って下さったこともあるのだ。


「カバンシ殿が良いと仰ってるなら……とは言え、獣人の方達のご事情もあるでしょうね。敬意の対象である竜族に軽々に乗せて頂くなんて、というお気持ちなのでしょう」

『……セレンさんはスコレスさんが魔獣国と親交があるのは知ってる? 私もスコレスさんから色々教えて頂いたよ』


『スコレスじいちゃんからはあたしも少し聞いてます。カバンシ兄ちゃんは当然ですがお父さんとお母さんはもう少し詳しい筈です。……確かに、敬意は大切なものですからねえ』


「取り急ぎ、連中が目覚める前に首輪を回収して頂きましょう、……フード殿」

 さすが、寿右衛門さん! 


 あ、そうだったいたんだこいつ、みたいなセレンさん、とりあえず今は気付かないふりでお願い。

『分かりました。あたしは気付いてません!』

 良かった、分かってもらえた。


「はい、畏まりました第二王子殿下」

 

 既に外れてはいる首輪を付けられていた獣人さん達の傍に求者が向かう。


 すると、回収はあっという間。

 一応、魔法付与の後に外した、という形式にしてもらって、いつもの保存袋に。


「ありがとうございます、フードさん!」


 その様子を確認した皆がありがとう、ありがとうと言うのを止めて、

「いや、これはただの仕上げだ。今回の事はあくまでもコヨミ王国の第二王子殿下を初めとした皆様のお陰だよ」


 そう伝える求者はどこからどう見ても皆に慕われていた。


『釈然としないでも、まあ、皆さんが笑顔なのはめちゃくちゃ良い事だし』

 分かるよセレンさん、分かる。


 小さい子達の話し相手になっているナーハルテ様や朱々さん達も色々思うところはあるのだろう。


 けれども今はとりあえず、獣人さん達を無事に辺境区へ、だ。


『それならば、よろしければ殿下、そしてセレン様、ナーハルテ様。及ばずながら私が皆様をお乗せしても?』


 え、誰?


『それ、良い! 最高!』『素晴らしいですわ』

 セレンさん、それからナーハルテ様。


 今ので分かったの?


「良いわね、それ!」「だな!」

 朱々さん、緑簾さんも。


 一体、誰?

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