243-地上に戻る私達

『やっぱり、きゅうはここを精霊から譲られたんだなあ。無理矢理とかじゃねえとは思ってたけどな。空気が澄んでるから。にしても、大切な存在って、なんなんだかなあ』


 談話室に戻りつつ緑簾さんに念話を送ると、やっぱりね、みたいな感じだった。


 それにしても、求呼び。

 緑簾さんは求者に好意的、とは言わないけれども悪い感情は無さそうだ。

 スズオミ君もそんな感じだよね。スズオミ君の場合は敬意も、なのかな。


「お帰りなさい。殿下はどちらのお姿で地上に戻るのかな。あ、片付けもしてくれるの? ありがとう」

 迎えてくれた求者が言う事は正しい。

 大切な存在についてはノーコメントか。


 まあ、そうだろうな。

 それよりも、このままの姿……第三王子殿下で登場するのはマズいよね。


 そこで、スズオミ君が進んで片付けをしてくれている間にフィンチ型眼鏡を掛けて兄上の姿に戻る。


「さあてと、また殿下呼びかあ。間違えて呼ばねえ様にしないとな。あ、茶色殿、セレンは求に飛び掛かったりはしねえよな? もしそうなら地上に出た瞬間に対応しねえと」


 そんな事は……とは言い難い。

 今は紅ちゃんも精霊界だし。

 もしもの時は私が止め……られるかな。


「大丈夫かと。カバンシ殿が言われるには獣人の幼子や今回助け出した方達が求者殿のご厚意を皆さんにお話になったそうです。ナーハルテ様と朱色殿もおられますし。とにかく早急に戻りましょう」


 あ、そうなんだ。良かった。


「うん、そうだね。地上が落ち着いたら権利関係の書類を渡すから。聖女候補殿は僕に対しては憤懣ふんまんやる方ない、とかかも知れないけれど、獣人の皆は僕が首輪を解除して回収した方が安心だと思うよ。……大丈夫ならここに陣を形成するから皆で地上に戻ろう」


「そうしてもらえるか、でしょうか求者殿」

 私、兄上になると少し冷静な王子様になれる気がする。コスプレ効果?


「あ、申し訳ございません、求者殿。精霊殿達が貴方から採掘場を伺うようにと精霊殿達が眠りに入られる前に仰られましたが、どうしたら宜しいでしょうか」


 え、スズオミ君?

 あ、いや、精霊殿達からのお言葉ならきちんと伝えなきゃいけないよね、うん。


「そうか、彼等は君に言付けたのか。……分かった。敷地内も含めたここの全ての地図も渡そう。眠りを妨げない採掘場は幾つかあってね。そこに印を付けて渡すよ」


「ありがとうございます!」

『いやあ、君の仲間は面白いねえ。まさか、精霊達がここまでするとは。ただ、大切な存在については、今は訊かないでね? よし、行くよ!』


 求者から私への念話。


 もしかしたら、スズオミ君に言われなくても魔石の採掘場自体は教えてくれるつもりだったのかも知れない。大切な存在。まあ、それについては訊くつもりはなかったけどね。精霊殿が今はこの表現で、と判断されたのだろうし。


 ただ、採石場についてだけなら、求者の予想以上にここの精霊殿達にスズオミ君が気に入って頂けたということなのかも知れない。


 だとしたら、友人としても王子殿下としても鼻が高いな。


 そんな事を考えていたら、あっという間に地上に転移していた。


「あ、第さ、二王子殿下、お戻り下さいましたね!申し訳ございませんが、獣人の皆さんにカバンシに、殿に乗って辺境区に向かってほしいと言って頂けませんか?」

 セレンさん、え、それ?


 いや正直、地上に着いたらセレンさん、は想定内だったのだけれど。


 求者の事はセレンさんの視界に入っているのかいないのか。


 とにかく、彼女に言われたこと、それは地下で想像していた内容とは全く異なるものだった。

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