241-地下居住区の私達
「そうだ、地上に戻る前に奥の居住区を見せてもらっても良いかな。あと、映像水晶で中を写させてもらいたいのだけれど」
ぎりぎりまで考え抜いて、結局閃き、という程のものではないけど兄上の為にもなるよね? な案を思い付いた。
そこで、求者にこう提案してみた。
寿右衛門さんも、『よくお気付きになりましたな』と念話を送ってくれた。良かった。
さあ、どうなるかな。
もしも、見せてもらえるならそこでカバンシさんに念話で念押しもしたい。
もちろん、求者の事をだ。
「どうぞどうぞ。それなら殿下と茶色君かな。皆さんはお茶のお代わりと、あと何か召し上がるなら戸棚でも冷蔵魔道具からでもご自由に。冷水や温水は冷温水魔道具からどうぞ」
意外にあっさり、な承諾。
そして、相変わらず、セルフサービスとはいえなかなかのおもてなし。
地下洞窟という場所を考えれば信じられない程だ。
ウォーターサーバー似の魔道具は冷温水魔道具って名称なのか。分かり易い。
本当に、騎士団の浴場にあった物よりも高品質。何しろ、魔石の補充が必要ないのだから。
私達は移動を開始した。
すると、緑簾さんがお茶菓子を、スズオミ君がお茶をと仲良く準備し始めた。
緑簾さんとスズオミ君が辺境区でかなり打ち解けたのが分かるなあ。
良かった。でも待てよ、礼温水魔道具もここの魔石が材料なの?
だったら、コベリン君の冷蔵魔道具の材料にも使えるかな?
『恐らくはそうでしょう。冷蔵魔道具と冷凍魔道具もその筈。此度の品評会の主要魔道具の材料とする事も可能かと。汎用性は高いでしょう。精霊殿達のお休みを妨げぬ採掘場が存在するのかも知れません』
寿右衛門さん、さすが。
私が何か話したがっている事もお見通しだね。
『奥に参りましょう。先に私が』
うわ、イケオジ人型寿右衛門さんに守ってもらえてる。感動!
だけど今は感動のし過ぎはいけない。
『あ、あのね。精霊さん達からのスズオミ君へのお言葉があったらしくて、求者にここを預けたのは皆さんのご意志で、無理矢理ではないよ、って。あと、皆様にとっての大切な存在もいらっしゃるんだって! その事は私が他の皆に伝えたかったら伝えてという感じなんだけど』
お言葉通りに伝えた方が良かったかな。
言い直す?
そう思っていたら、『今言われた内容で承りましてございます。精霊殿達の思考も同時に伝わりましたので』
だって。
さすがは寿右衛門さん!
「ここですな。入口と同様、我々の魔力は覚えて頂けている模様です」
ゴツゴツとした岩壁に見える箇所に寿右衛門さんが触れると、そこが魔石の扉に戻る。
「広いねえ」
自動で開いたそこは、かなり広い居住空間。
広い談話室らしい部屋にテーブル、椅子、書棚。
「軽くなら見て触れても良いかな?」
「少しならよろしいでしょう。少々魔法を用いましたが、特段の問題はございません。私は他を確認しまして必要箇所を写して参ります」
「よろしくね」
さて、と振り返ると書棚には絵本もあった。
あと、目に付いたのは大陸公用語の辞書が数冊と、この国の簡単な言葉を学べるテキスト? みたいな冊子。
ボードゲームとカードゲームらしき物も。
ここは獣人さん達皆さんの憩いの場所なのだろう。
そうだ、ここにいた獣人さん達と普通に会話が出来たのはこの辞書達のお陰なんだよね。あとは皆さんとそしてニッケル君の学習の賜物。
コヨミ王国の言語は大陸公用語の応用(コヨミさんが皆に使い易い様にとされたらしい)だから、大陸公用語でも対応可能となる。
多分、求者が他の国からも獣人さん達をこっそり連れてきて匿っていたんだろうな。
驚いたのは、書棚も談話室の低いテーブルも、魔石で作られている事。
テーブルの周囲にはクッションと座布団ぽいもの。これは魔獣か獣の皮と布で作られた物だ。本はきちんとした紙。
コヨミ王国と比べると紙と印刷の質がもう少しな感じなのは仕方ないと思う。
外国への印刷・製本技術の輸出については兄上に相談が必要……かな。
クッションがふかふかで、座布団はしっかり固めなのは素晴らしい。
靴を脱いで、つい正座をしてしまった。この国の主要産業なのかな。覚えておこう。
ふと見ると、床の表面が輝いている。
寿右衛門さんが確認済みだから魔法はいらない筈だけど、一応。
一番問題なさそうな聖魔法を軽く掛けてみる、と。
「……え、穴?」
座布団の隣に、丸い空洞。
これはどうみても穴だ。
まさか私、壊した? 地盤沈下とかしない?
本当に、軽めの聖魔法……清浄魔法だったのに。
直せるかな、と人が通れるくらいの穴を覗いたら。
……落下した。
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