240-お言葉と求者と私
『頂いたお言葉は短いものなのです。ここを預けたのは我々。我々にとっても大切な存在が、ここに眠られているからだよ。無理やりにこの場を使われたりはしていないから。魂の転生を果たした殿下さんに伝えてね。他言については殿下さんに任せるから、自由にしてね。じゃあおやすみ。……これが全てにございます』
『ありがとう、確かにお言葉を頂いたよ』
私は念話を返しながら、スズオミ君の真剣な表情に思わず肯く。
預けたのは我々。大切な存在。
無理やりにこの場を使われたりはしていない。
求者が精霊殿達に魔石の洞窟を作らせたとかではない。
むしろ、活用してほしいと皆様、精霊殿達が求者にこの場を預けられた、という事だよね。
そしてここは、皆様にとっても大切な存在がおられる場所である、と。
それは、精霊殿なのか、精霊石さん達なのか。もしかしたら、別の?
どちらにしても、獣人さん達の隠れ家、そして売買組織の人間への目眩まし。
魔道具密造の為に……と言えなくもないけれど、それよりは保護対象者を隠蔽しながらの保護の為にこの場を預けられたという側面が強いのだろう。
だとしたら。
「兄上、そちらにお預けした私の魔道具はございますか」
私が言うと、天井に映る兄上の薄墨色の目が、『待っていたよ』と色を射した。
「勿論。僕の隣に置かせて頂いているよ」
「ありがとうございます。では、今から押収品の魔道具の多くを送りますのでご査収下さい。今回の分は高位精霊獣たる我が伝令鳥が確認済の為、魔道具開発局局長殿にお渡し頂く事に支障はございませんが、責任者であられる兄上にお任せいたします。リュック嬢」
『分かりました』
リュックちゃんが蓋部分を開き、テーブルの上に残るタイピン達も全て吸い込み、そしてまた蓋を閉ざした。
「ありがとう、ニッケル、皆様方、副団長令息。『確かに』と今この時、魔道具殿が仰られた。後は任せてほしい。では、求者殿。幹部達の身柄拘束、魔石の所有権他の必要書類等は如何したら良いでしょうか」
「それは第……殿下にお渡しするのでご安心下さい。この度はご尊顔を拝する機会を誠にありがとうございました」
「こちらこそ、求者殿、ニッケル、副団長令息、皆様方、失礼申し上げます」
「こちらこそ」『御身ご重畳下さい』「誠にありがたく存じます」『『ありがとうございます』』「ありがとう、兄上」
求者、寿右衛門さん、スズオミ君、リュックちゃん、黒白、私。
そして。
「殿下、お疲れ! またハンちゃんカバちゃんと遊びに行くからな!」
最後に、簡易転移陣から飛び出した再びの緑簾さん。
「お待ちしておりますよ、緑殿。……ニッケル、またね」
その言葉と共に兄上のお姿が天井から消えた。
「リュック嬢、誠にありがとうございました」
映像と音声が切れた映像水晶を丁寧に取り出して身に付けた寿右衛門さんが時計入れに清浄魔法を掛けてからリュックちゃんの中に入れる。
『どういたしまして、です』
リュックちゃん、本当に成長してるね。見習いたいくらいだ。
「じゃあ、あとは俺が使ってたこのネクタイピンも預かってもらって、それから地上に上がるか。獣人達の首輪を何とかしてやらなきゃな」
「そうだね。よし、これで彼らの首から外れたよ。調べるなり分析するなりお好きにどうぞ。因みにあの倉庫と呼ばれた檻もどきもここの魔石で出来ているから。地上に出たら、全ての権利関係の書類もお渡しするからね。戻り方だけれど、緑君が使った簡易転移陣を皆が交替で使ってくれても構わないし、階段を使いたければどうぞご自由に」
いよいよ地上に戻る事になるのか。
早く、首輪を付けられていた獣人さん達を解放してあげたいな。
ところで、求者も私達と一緒に転移するつもりなのだろうか。
だとしたら、セレンさん……。
一抹の不安が残るなあ。
首輪が本当に外れているとして、それが求者のおかげだと伝えたら、即、臨戦態勢! とかにはならずに済むかな?
それに、あのお言葉の事は本当にどうしよう。
私の自由に……。難しい。
転移陣を踏まずに徒歩で戻れば皆に伝える時間稼ぎになるのかなあ。
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