239-ネクタイピンと私達
「改めまして、お久しぶりですね第三王子殿下。魔道具の実演は貴方がされるのが良いでしょう」
求者が、相変わらずの表情が分からないフード姿で言う。
さっきの念話と笑顔は私達二人の間だけのものらしい。
他の人に話すも話さないも、私の自由という事か。
『そういう事です』
そうか、そういう事か。
取り敢えず、第三王子として今するべき事をしよう。
テーブルの上に置かれているのは、タイピンと髪飾り。タイピンは二本。
因みに本、という数え方は寿右衛門さんが教えてくれた。
「念の為の状態確認はいずれも済ませております。普通の、と申すべきなのでございましょうか。こちらのネクタイピンは魔石を用いました魔道具に存じます」
「ありがとうございます、茶色君。……という訳で、普通に使用してみて下さい。タイピンの片方はどなたが使われますか?」
「じゃあ、俺が」
求者の言葉に、緑簾さんが一本を手に取る。
そして、スズオミ君が使用済みの為に一時的に形が明らかになっている簡易転移陣で地上へと転移した。
「どうだ? 普通の声だけど。」
「緑簾さん、普通に聞こえてるよ」
「了解。…… …… …… どうだ?」
「了解、と、どうだ? だけだね。」
「分かった。次はでかい声を出すから、主様、耳から離してくれ。……いいか?」
「どうぞ!」
テーブルに置いて、緑簾さんの声を待つ。
「……求者あ、
振動で、テーブルが震えた。
確かに、うるさい。
けど、緑簾さんのいつもの大声よりはおとなしめかな?
「緑殿のお声にしては静かですね」
その通り。
スズオミ君の感想が全てを示している。
「ごめんね、今はこの姿が精一杯なんだよ。どうでしょう、第二王子殿下。貴国の正式な品とは比べるまでもありませんが、簡易版としてはお使い頂けますでしょうか。材料はこちらの魔石で、髪飾りも同様です。試用が必要でしたら、第三王子殿下にお使い頂きますが」
髪飾りは一つだけ。
多分、以前ナイカさんが身に付けていた品の劣化版だろう。
「斯様な品です、と魔石の精霊殿に願われて、わざと機能を落とした品を生成頂いたのではないでしょうか」
おお、スズオミ君、冴えてるね!
「そうだな、やっぱりスズに来てもらって正解だった。それに、入眠前の精霊殿から何か言われなかったか?」
あ、緑簾さん。
こういう普通の会話も拾えるんだね。
無尽蔵とは言わないけれど、かなりの量の魔石の洞窟みたいだから、正式に安価な魔道具として開発、売買したら良いのかも。
勿論、色々な制限は必要だろうけど。
あとは、眠りにつかれている精霊殿達や精霊石さん達の邪魔をしないようにしないと。
『髪飾りにつきましてはこのままリュックさんにお届けして、魔道具開発局局長さんと令嬢さんに検分して頂いたらどうでしょう?』
そうだね、寿右衛門さんのお墨付きだし、スーツ幹部達も、髪飾りは使用していなかったし。
それよりは兄上に確認して首輪の人達を早く自由にしてあげたい。
それと、リュックちゃん、会話流暢だね?
『かなり頑張ってます!』
『……ニッケル様』
あれ、スズオミ君念話?
『はい、眠りに入られる前に精霊殿からこの敷地内ならば活用可能とお力を拝借しました。僕と殿下のみの念話に存じます。……求者殿について、精霊殿からお預かりしました言葉がございます。それは殿下に伺い、ご了承頂けたら皆様にお伝えしなさいとの事でした』
殿下に? それなら兄上の可能性もあるのでは?
『いえ、魂の転生を果たされました殿下に、と言われましたので』
そうか、なら間違いないね。
『聞かせてくれる?』
『はい』
地上の皆さん、もう少しだけ待っていてね。
スズオミ君が預かったこの地の精霊殿達からのお言葉。
聞かないという選択肢は
きっと、地上の皆さんもそう言ってくれるだろう。
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