237-求者と私達

「ご興味がおありでしたら、のちに殿下もご覧下さいませ。ここからですと簡素に見えますが実は中が広く、冷蔵魔道具と冷凍魔道具、火の魔道具や調理道具も揃っております。失礼ながら冷蔵、冷凍共に覗かせて頂きましたが、良い食材が揃っておりました。……皆さん、きちんとした食事をしていたのですね」

 お茶の支度をしてくれた寿右衛門さんが、爽やかな香りのハーブティーを出しながら言う。


「うん、まあね。……あ、僕にもなの? ありがとう。このクッキーは子供達が焼いたんだよ。状態保存魔法は付与済みだから、是非」

 それは、ハーブと胡桃のクッキーだった。


 寿右衛門さんが頷いたので、ありがたく頂く。爽やかさと歯応えが良い。美味しい。


 形は丸、三角、四角……と、また三角……じゃなくて多分これ、フードだ! 


 子供達に慕われてるんだな、求者は。

 フードの形のクッキーはナッツ入り。美味しい……。


 そうだ、そう言えば地下の獣人さん達はコヨミ王国の孤児院で健康的な生活をしているアベリアちゃんと比べてもあまり遜色のない健康そうな人達だったな。


「多分、魔石の精霊が協力してくれたんだろうが、地上との行き来が可能な簡易転移陣が幾つか隠れていたぜ。敷地内だけだろうが、獣人達が昼間に地上に出て、動ける様にしてやっていたんだろう?」

 緑簾さんがクッキーを咀嚼してから求者に訊く。

 緑簾さん、観察眼が鋭いな。


「どっちも正解。あの子達には隠蔽魔法を掛けて、連中には魔法で適当に不健康な感じに見せていたんだよ。あと、日中に見付かってもすぐにこちらに戻れる様に帰巣魔法もね。殿下のその鼻眼鏡は妖精に守られているね。良い加護だ。さすがは殿


「茶葉も良いものを揃えておられますね。この茶器は木製……精霊殿が?」

 タキシード姿のイケオジ寿右衛門さんの給仕が凛々しい。


 フィンチ型眼鏡と第三王子殿下に気付いた事はスルーで良いのかな。


「うん。良い木でしょう? あと、実は好きな時に冷たい水とぬるめのお湯が飲める魔道具もあるんだよ。……第三王子殿下はで良く見かけたのでは?」


 え?


「寿、茶色殿、少し僕も台所に」

『私と』『あたしも』

 ありがとう、黒白、リュックちゃん。


 じゃあ、リュックちゃんは膝の上から背中に。よいしょ、と。


「これ、ウォーターサーバー……」


 確かに、見た目よりも遥かに充実した台所。


 魔道コンロと、天幕さんには存在した食器洗いの魔道具まで。


 食器洗いの仕組みは、食器洗い用の粉石けんだけ食器に付けて水魔法で洗浄、あとは別の籠に入れたら風魔法で乾燥する。

 騎士団官舎にもあった洗浄と脱水が別の洗濯魔道具みたいでとても良い感じ。


 あ、ウォーターサーバー? は、多分冷却魔法と保温魔法を使ってるんじゃないかな。


 官舎のよりも、更に高度な設計。

 あちらとは違って大きな筒が冷却と保温で一本ずつ。

 つめたい、とあたたかい、と分かり易い表記のレバー式。


 綺麗に洗浄された木のコップが幾つもあって、年少の子が頑張ったのだろう、たどたどしい筆跡で名前が書かれた物もあり、めちゃくちゃ和む。


「名前のない物をお使い下さい。ご心配ならばこちらにお持ちを」

 そう伝えてきた求者。


 丁寧な対応だな。

 悔しいけど、ここに居た獣人さん達は少なくとも安心感を持って生活出来ていたのがここの雰囲気でも分かる。


 認めるのは悔しいけど!


「じゃあ、せっかくだから」

 仕組みも大きめの木のレバーを下げるだけ。

 やっぱり、この魔道具は分かり易い。


 便利。ほしい。……悔しい。


「はい、茶色殿、一応確認して下さい」


 寿右衛門さんに魔法の解除を要請される迄は私は兄上だ。

 そう、徹底して第二王子殿下を演じてみせるぞ。


「良いでしょう。一つは緑殿にお渡ししても?」

「どうぞどうぞ。ただ、茶色殿が入れてくれたお茶があるから冷たいのを頂きたいな。緑殿、良いですか?」


 我ながらいかにもだから、緑簾さんは困り顔だ。

「俺はぬるくて良いよ、……ですよ、って言うか、もう良くねえ? 腹割ろうよ、主様」


 ええと。

「だよね、とりあえずその背中の魔道具ちゃんにネクタイピンと髪飾りを入れて。ああ、説明が必要なら、それぞれ二つずつ残しておいて」


「お願いいたします。リュック嬢」

『う、はい』

 寿右衛門さんに促されたら、動いちゃうよねリュックちゃん。


 水、美味しい。冷え具合が本当に適温。


「心配しなくても、精霊殿に頂いた魔道具って事にしているよ。設計図他も全部押収してもらうから、自由に使って。ここの子達みたいな人達に行き渡る様によろしくね。心配してないけど。ほら、もうすぐ待ち人が来るから、彼が落ち着いたら話をしようね」


「じゃあ、スズが来たら主様に戻るって事で良いかな、茶色殿」

 

「致し方ございませんな。第二王子殿下はそれで宜しいでしょうか」


「……うん、まあ」


「ありがとう。それなら本物の第二王子殿下にも参加して頂こう。茶色君、よろしく」


 そう言って、また求者は寿右衛門さんを見る。


 スズオミ君と、兄上。


 穏便な話し合い……になるのだろうか?



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