236-求者と獣人さん達と私達

「皆さん、こちらはフードの恩人さんです。あの悪い人達のリーダーだけど、あたし達の恩人さんなんです!」


「……ありがとうアベリア。皆様の事は存じ上げているよ。他の皆も、もう作業をする必要はない。居住区の子達の所へ行っておやり。皆様が皆を地上に送って下さる筈だから」

『……ね』


 送るよ! 

 お前に言われ(念話だけど)なくても安全にね! ってツッコミをしたいけれど、我慢我慢。

 アベリアちゃんの笑顔を守りたいから。


 それにしても、何、なんなの? この雰囲気。


 求者お前と次に会う時は再戦の場で!

 みたいな感じで見送った相手なのに。

 どうするの?


 あと、セレンさんが求者を見たら、ブチ切れないかな?


『殿下、私達がいるから大丈夫だ。あのフード姿が例の存在なのだろう? それよりも彼らを地上に』

 あ、そうだ。

 求者とは初対面の筈なのに冷静なカバンシさんはさすがだ。


「ええと、フード、さ、殿。先に彼らを地上に送ってから話を聞かせてもらう事は可能だろうか?」


 私は第二王子殿下、私は兄上。

 冷静に。


「ありがとうございます。そうして頂けましたら幸いに存じます、第二王子殿下。ご尊顔を拝せました栄誉に厚く御礼申し上げます。斯様な姿で御前に現れます無礼をお許し願えますでしょうか。この姿を除きますれば、この場におかれましては何事も殿下の御心のままに従いましてございます」


 フードなのに、姿勢を正した完璧な礼なのが分かる。


 足とか手とかはきちんとしているし。


 ニッケル君の記憶の中に存在する知識……長い間大切にされた道具や魔道具に宿られた精霊殿達であるかの様な優雅さだ。


 これならばむしろ、求者だと知らなければ敬意を払われる対象なのではないだろうかとさえ思えてくる。


 実際、アベリアちゃんや皆さんはそんな感じだし。


『私も行こう。求者……氏がいるとなればセレンがこちらに強制転移して来かねない。ナーハルテ様の補助魔法のお力を借りれば、今のあいつならば可能だろうからな』


 あ、カバンシさん。

 そうなりそうな人は……うん、いたよ!


 あとは、ハンダさんもかな?

『いや、安心してくれ。ハンダは大丈夫だ。朱色殿がいてくれたらアベリア嬢が安心するだろう。共に良いか?』

「ええ。殿下、リュックちゃんをお背中に。もしもの為に、よ」


「分かりました、朱色殿」

 私はよっこいしょ、と預かったリュックちゃんを背負う。

『今のフードは大丈夫。でもご主人ちゃまの大切な方であられる殿下の事はお守りします』

 ありがとう、リュックちゃん。


「カバちゃん、スズを呼んできてくれねえか?」

 ここで、珍しく無言だった緑簾さんが口を開いた。


「なるほど、了解した。」

 なるほど、なんだ。


 スズオミ君?

 だけど、寿右衛門さんも無言。……と言う事は、賛成って事だよね。


「行きましょう、アベリア」

「はい!あの、皆様、ありがとうございました!」

 ありがとうございます、という言葉はあちらこちらからも聞こえてくる。


 そして、皆で軽く地上に向かった面々を見送った後は、何故か作業部屋に着座する様に求者に勧められた。


『コヨ、第二王子殿下。どうぞ、お座りになって下さい』

 黒白が言うなら大丈夫か。

 私の隣には警護の緑簾さん。


 魔石なのに座り心地良いぞ!何だろう、この魔法付与。

 寿右衛門さんはお茶の支度をしてくれている。


「……魔石の硬度を自動で変化させる術式です。内容は奥にいる茶色君に伝えましたよ。あと、これも必要でしょう? 模造品の通信ネクタイピン。髪飾りもあるから全部押収して下さい。材料はここの魔石。動力はここにいた高魔力の皆の魔力。大丈夫、じゃないけれど、魔力を搾り取ったりはさせていないよ。地下については僕が全てを管理しているから、連中も手は出せない。首輪は申し訳ない事をしたけれど、ああでもしないと外見と体格の良い者達は売買対象になってしまうから。連中には僕から、地上の見張りと動く商品広告として活用しよう、と言ったら上手くいったよ。……本当にありがとうございます、第二王子殿下」


 そう言う求者は、私の方を見ていない。


「僕がお茶を出すと不安でしょう? 茶葉や茶菓子や茶器の検分、幾らでもどうぞ」

 求者にそう促されて、簡素な台所に向かった寿右衛門さんの方に掛けた声だ。


 やっぱり、気付かれていたのか。


 まあ、見破られるとは思っていたけれど。


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