235-地下の獣人さん達と私達

『皆を助けに来て下さった方々がおられる事は地下の皆に伝えました。では、私はこれで』


「あ、ありがとうな、精霊殿達。スズに力を貸してくれて」

 緑簾さんがお礼を言った。


 そうだ、私も。

「え、あ、騎士団副団長令息へのご尽力、王子として感謝申し上げます!」

『いえ、私達こそ。獣の子達をお願いいたします』

 賢い第二王子殿下らしからぬ振る舞いだった気がしたけど、精霊さん達はむしろお願いします、という感じで丁寧にそう言われた。


『……主殿、この土地、そしてこちらの精霊達は再び力を蓄える為に休まれました。私達は役目を果たしましょう』

 はい、そうですね寿右衛門さん。

 私達は精霊さん達がゆっくりと休める様にしないと。


「アベリア嬢、私と朱色殿とが付くから心配ない。行こう」


「はい、竜様、伝令鳥様。お願い申……し上げます」

「良いお返事ね」

 本当に頑張っているね。

 良いお返事だったよ、アベリアちゃん。


 皆で何処にこんな広さがあったのか、という魔石の空間を歩いて行く。 


 すると、作業部屋のような場所に出た。

 そこでは獣人さん達が何かの作業をしていた……のだが手を止めて、こちらを凝視している。


 敵意は全く感じない。

 但し、獣人さん達皆が高い魔力保持者の様ではある。


「皆さんこんにちは。あ、あたしはアベリアと言います。こちらの竜様はカバンシ様です。それからあちらのお方はコヨミ王国の第二王子殿下です。皆さん、お家がある人はお家に、無い方はあたしみたいに良いお家を皆様に教えて頂きましょう!」


 アベリアちゃんの、唐突ではあるが心を込めた話を皆さん聞いてくれている。


 良かった。ほっとした表情の方もいる。


 ちなみに竜のカバンシさんの次に王族たる私、なのは獣人さんの序列に併せました。第二王子殿下兄上だけど私だし、公式の儀ではないから大丈夫だよね。


「彼女の言う事は真実だ。君達を蹂躙した連中は上で檻の中に居る。何か質問は? 体調が悪い者がいたら先に看よう」

 という訳で、人命優先な第二王子殿下です。

 これは兄上らしいお言葉だと思う。


「……皆様の事は精霊様から伺っております。本当に、一同心より御礼申し上げます。体調不良の者はおりません。ただ、まだ捉えられている者達がおります。首輪を付けられて、奴等の為に働かせられております」


 よし、好感触。

 多分皆をまとめているらしい大柄の犬の獣人さんが答えてくれた。


 精霊さんと獣人のアベリアちゃんと更に竜族のカバンシさんのお陰で信用してもらえているみたいだ。


 もしかしたら、兄上達が前回かなりの人数を保護した事を知っているのかも。私の方に深く頭を下げている人もいた。

「その者達も保護している。15人で合っているだろうか? 首輪については構造や術式が未知の為にまだそのままにさせてもらっているが」


「それならば、全員です。ありがとうございます、本当に! この作業室の奥にまだ居住区があります。奴等は知りませんが、が秘密裏に保護された子達です。全員元気です」


「あの方? 精霊殿の事だろうか」

 カバンシさんが尋ねると、


『主殿、私の後ろにお控えを!』

 寿右衛門さんが、念話と同時に私の前に。


 寿右衛門さんにかばわれてやっと私も感じたこの気配は。


 まさか。


『……いいや、精霊達ではなくて、この僕だよ。魔石や土の精霊達も助けてはくれたけれどね。それにしても、さすがは茶色君。かなり気配を消していたのに』


『貴方とはですからな』

 長い? ううん、今は訊ける状況じゃない。


 今はとにかく、アベリアちゃん!

「リュックちゃん、あの子を……って何で?え、強制転移出来ないの?」


 朱々さん程の術者の魔法が作動しないの? この空間のせい? それとも私? 姿を偽っているからとか?


『違うわよ。この子の意志をリュックちゃんが尊重したの』


 朱々さんの言うとおり。


 魔石の洞窟が理由ではなかったのだ。


「フードの恩人さん! 会いたかったです!」


「フードさん! こちらの皆様が、首輪の仲間を解放して下さったそうです!」


 アベリアちゃんの弾んだ声と、獣人の皆さんの歓声に似た声。


『皆さん、操られてはおりません。本心です』


 そう、なのかあ……。


 黒白の声に、私は思わず天を仰ぎそうになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る