232-打ち合わせの私達

「第二王子殿下、殿下にはこちらに残って頂いて、私と緑殿と朱色殿とハンダ殿とカバンシ殿とで参りたく存じます。いかがでしょうか」


 少し二人で話した結果、寿右衛門さんが提案したのは何が起こるか分からないから第二王子殿下、つまり私にはご同行を控えて頂けないでしょうか、という結論だった。


 確かに、第二王子殿下が本当に兄上で、私が第三王子のままだったとしたら私もそう進言するだろうな。


 さすがは寿右衛門さん。


「茶色殿、正しい判断だと思うよ」


「そうね。精霊の声を聞く事が出来る存在達だけで行く方が良いかも知れないわ。それならリュックちゃん、貴女はナーハルテと共に」

 私が意見を肯定して朱々さんがリュックちゃんに言うと、その背中が揺れた。


『ダメ、と一緒。あと、殿下も』

 リュックちゃん? 私はともかくアベリアちゃんも一緒になの?


『そうして頂けますか。精霊殿のお声は私が』

 黒白、元に戻ってるね。

 良いの?


「それなら俺が残るよ。俺は精霊の気配を感じられるだけだから。それに、カバンシがいたら獣人は例え初見でも襲っては来ねえよ。竜や竜人は獣人にとって絶対的に敬うべき存在。そうだろう?」


「確かに。ならば私は普段よりも竜の気配を強くしておこう。副団長、ご令息も精霊の気配を感じられる故、こちらは任せても?」

「ああ、ハンダ殿と俺と息子と聖女候補殿と筆頭公爵令嬢殿。武力と魔力が合わさり、かなり良い守りになるんじゃねえか? それにしても、カバンシ殿の魔力調整能力は素晴らしいですなあ!」


「ありがとうございます、いつの間にか斯様に」

 謙遜するカバンシさん。相変わらず謙虚な方だ。


「あ、私もそう思います、副団長閣下! 何だか繊細なんですよ、カバンシに、殿は!」


 確かに。

 カバンシさんって豪快な攻撃と繊細な魔法攻撃(防御も)、盾への変化、正に自由自在なんだよね。ご自身は遠慮深いけれど、やっぱり、鍛錬をたくさんされたんだろうな。


「ふむ。良さそうではありますが、やはりその前にリュック嬢が斯様に言われるのは何故か、それをお教え頂けますか」


「じゅったん様、それはわたくしが。アベリア嬢にあの捉えた者を確認して頂き、それから入口を開けて頂きたいそうですわ」

 ナーハルテ様の通訳。


 入口? もしかしたら。


『そうです、コヨミ様の末裔さん』

 あ、この声は。


『もしかして、精霊殿でいらっしゃいますか?』

 一応、念話で。


『そうです、地下で貴方達をお待ちしております。獣の子達には話をしておきますから大丈夫です。勿論、その小さな獣の子を苦しめたりはしませんので』


 うん、やっぱり。


「……決まりね、茶色殿。」


「致し方ございませんな。……スズオミ殿、気配を感じ、精霊殿の助けを頂けた事、素晴らしき事です。声が聞こえずとも、力をお借りして動く事が出来る。それもまた成長です。皆様と良くご協力下さい」

 

「光栄に存じます、茶色殿」

 ええと、つまり、スズオミ君が目覚めたのは錬金術ではなくて。


「そうですわね、わたくしも及ばずながら召喚についてをご教示しました際にスズオミ様はたいへんに良く理解されていると感じました。ですから、召喚には向かないというよりは、何か別の形でそのお力を示されるのでは、と思っておりましたの。確か、助言をなされたのは」


 おお、スズオミ君、ナーハルテ様に褒められてる!


「そうです、ナーハルテ様。第三王子殿下の召喚獣であられる緑殿です。本当にありがとうございました」

 へえ、すごいな緑簾さん。


 今は第二王子だから堂々と賞賛はできないけれど、第三王子に戻ったらめちゃくちゃねぎらおう。


「いや、スズが頑張ってたのを精霊達が教えてくれたからだ。今はそれより、ここの守りに気合入れろよ」


「はい!」


「スズオミ様はスズ、って緑さんに呼ばれているんですね。仲良しな感じで良いですね!」

「え、何ならセレン、お前も呼んでやれば良いじゃねえか。」

「え、いや、それは緑殿……。せめて君付けで」


「嬉しい! やっぱり男の子の中で一番の仲良しだもんね、ありがとう! じゃあカルサイト君と同じでスズオミ君、って呼ぶね! 様か君かって迷ってたの! カルサイト君は本人とナイカ様に許可を頂いてるから! あ、勿論、時と場所は選ぶからね!」


「おい、セレン?」


 あ。まさか、娘を思う余り、ちょっと不穏なハンダさんなのかな?


 もしもの時は止めよう、と思ったらそういう感じではなかった。


 ハンダさん、スズオミ君の方を見ながら

『良いのか?』みたいな表情だ。


 スズオミ君はいや、まあ……はい、みたいな、そんな感じ。


 アタカマさんと緑簾さんは笑ってる。

 朱々さんとカバンシさんは苦笑い。

 寿右衛門さんとナーハルテ様は聞こえないふり。


「あ、お父さん、あのね、確かにまぬけ王子と仲間達だった頃ちょっと色々あったけど! 今はお友達として仲良いの! とっても!」

 逆に、セレンさんが焦り始めた。


 けど、ハンダさんの問いは違う……よね?


『俺、主様よりこういう面で鈍い人間がいるとは思わなかった』

『確かにそうですな』『そうね』『ああ』『はい』『はい!』


 その意気投合、必要かなあ。


 ねえ、緑簾さん、寿右衛門さん、朱々さん、カバンシさん、黒白、リュックちゃん?


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