233-猫獣人アベリアちゃんと私達

「確かにこの、土だらけのスーツ、と他の……間違いありません! 確認させてい、頂いてありがとう、ござ、いました、第二王子殿下」


「ありがとう、この事はこの者達の断罪に必ず役立つからね。申し訳ないが、君の仲間達、または同じ獣人の方達を救助する為に協力をお願いしたい。獣人の方の気配を感じる場所があれば教えてほしいのだが。勿論、気分が悪いならばまた筆頭公爵令嬢の魔道具殿の中に入って朱色殿にお伝え願いたい。どちらでも構わないよ。強制はしないと僕、バナジウム・フォン・カルノー・コヨミが約束する」


 この子に檻の中の連中を長い間見せたくはない。

 これは参加している皆の共通認識(本物の兄上もだ)。


 だから、確認後はすぐに朱々さんの傍に行ってもらった。


 ただ、アベリアちゃんが私達に話したいという事はありがたく聞かせてもらった。


 魔獣狩りみたいにされた事、爪を剥がされた事、と言われて首輪を付けられた事……。


 襲われたアベリアちゃんとお友達、助けようとして戦ってくれた、まだ会えていない血の繋がらない、でも大好きなお兄さんがいる事。


 アベリアちゃんが頑張って一言を話す度にハンダさんとセレンさんの雷パンチが交互または時間差で連中の所に飛んでいたけれど、勿論不問だ。

 皆同じ気持ち。

 連中がちょっと煤けてきたけど知るもんか。


 檻(もう倉庫という建前はいらないでしょう)の起爆札は更に増やしておく。

 ついでに檻の中の連中の意識が回復したら自動で爆発する様にしておいた。


 起爆札はリュックさんが王宮私室で兄上から預かり、それをリュックちゃんが亜空間で受け取っていたらしい。

 有難く使わせて頂く。まだまだたくさんあるから、ほぼ使い放題だ。


 因みにハンダさんとセレンさんの雷パンチは弾かれるどころか吸収されて反射。

 それらが的確に連中にぶつけられている。


 兄上、素敵なお札をありがとうございます。


 あ、それから、アベリアちゃんは正に猫耳美幼女ちゃんでした。


 ウルトラマリンとエメラルドグリーンのオッドアイ。クリームホワイト色のフワフワな毛並。

 孤児院の特別なお出掛け着だというセーラー型の黒の礼服も映えている。

 上はセーラーで下は男女共通で動き易いパンツ型。きちんとした装いながらかわいらしい。


 高貴な方達にお会いするからと孤児院の先生が言葉遣いや礼法をご指導下さり、礼服も新しくして頂いたそうだ。


 最初は危険だからとこの同伴に強く反対されていたというのも良い指導者さんだと思う。その先生以外の方達も厳しいながらも優しい方達らしい。


 辺境伯様達から孤児院へのお心遣いもかなりのものだとこちらに着任する前に寿右衛門さんが教えてくれた。

 さすがはコヨミ王国の皆さんだ。


 あ、そうそう、人と血族になる事も多い獣人さん達は顔は人族という方達も少なくないらしい。アベリアちゃんもそう。


 ちゃんと兄上秘蔵の本とハイパーと大書店の皆さんお勧めの獣人関連書籍で色々予習したんだよ。


 個人的には完全な獣人さんも素敵! としか思わないのだけれど、愛玩用(!)としては人族寄りの方が高額らしい。

 逆に肉体を堪能したい場合は獣人らしい方達が好まれるそうだ。うわあ、となるよ。


 嫌だけど、とっても不快だけど、王族としては学ばないといけない知識。

 この辺りを勉強していたら記憶の中でニッケル君が感じた不快感が良く分かった。

 本当に、全面的に賛成。


「歩きます。皆様のご迷惑になりません様に、がん、努めます」


「とても偉いわ。あたくしは貴女がお姫様と呼ぶ方に仕える存在です。手を繋いでも良いかしら」

「は、はい! お姫様、じゃなかった、筆頭公爵令嬢様には本当に本当にありがとう、でした!」

 ちゃんと目線を低く合わせてくれる美人執事朱々さんにアベリアちゃんはどぎまぎしながらも笑顔を見せてくれた。


 確かに、この美麗さには戸惑うよね。


「ありがとう、ございます」

 ピンクの肉球が可愛いお手々を出してくれたアベリアちゃんに気付かれない様に朱々さんが魔法を掛けていた。


 万が一の時は、自動でリュックちゃんの空間にアベリアちゃんを押し込めるつもりだ。


 ありがとう朱々さん。そしてよろしくねリュックちゃん。

『うん!』

 リュックちゃんの良いお返事。


 よし。


 朱々さんに目線を送ると、アベリアちゃんに確認をしてくれた。


 繋いだ手をもう一度深く握り、それから離すアベリアちゃん。

 何かを決意してくれたようだ。


「ええと、竜様、少しだけ風を起こして頂けますか」


 やっぱり、獣人さんにはカバンシさんが竜だと分かるんだ。

 ただでさえ知性派かつ肉体派な美形度を更に高めて静かに聞いてあげているから、普段よりも孤高の存在に見える。

 でも、穏やかな眼差しはやっぱりカバンシさん。


「構わないが、何故かな」


 アベリアちゃんが手で腕をこすり、クリームホワイト色の毛をカバンシさんに見せた。

「これを、飛ばして頂きたいのです。そうすればきっと、獣人の皆のいる所を示してくれます。獣人の毛は同じ獣人同士を探す手掛かりとなる事が多いのです」


「承知した。ならば私も、竜が来た事を伝えよう。風よ。我々の事をこの獣の子の同胞に伝えよ。そして、導け」


 カバンシさんの呪文詠唱は、何だか神秘的。

 エルフの叡知、ギルドマスタースコレスさんの詠唱にも似ている。


『さすがは飛竜としては若いながらに自由飛行を許された方ですね。……ようこそ。どうぞお入り下さい』


 どう見ても土にしか見えない場所にアベリアちゃんの猫毛が舞い、落下した。


 そして、この声はきっと。


「精霊様? 獣人の皆をお守り下さいました事に御礼申し上げます」


 アベリアちゃんにも聞こえたのだろう。


 いよいよだ。

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