230-敷地内の私達

 中々に広大な敷地内の彼方に見える平屋の割ときちんとした石造りの建物。それが今、別行動のハンダさん達が居る場所。


 そして、離れた場所にある広めの土地に私達がいる。

 ここには宿舎と言い張る丸太小屋が数棟と、倉庫と言い続ける檻の様な物が幾つか。

 檻としてはかなり大きい。あとは全て平地。


 この土地全てが私有地だって兄上が言っておられたっけ。

 コヨミ王国我が国なら登記上とかからも調査出来るのにね、って困り顔をされていた。

 そんな時も聡明で素敵な王子様だった。

 私も気を引き締めて兄上を演じないと。


 丸太小屋の材料なのか、乾燥の為に山積みされた丸太がたくさん。

 あ、起爆札付きだ。あの丸太の山も調査済とは! さすがです兄上。


 そんな空間で売買組織の連中はどうしているかと言うと、幹部らしき拘束されたスーツ姿の男だけが意識を保っている。


 あとの連中は私は兄上の起爆札、他の皆は魔法をガンガン使ったからとっくに意識を喪失しているのだ。


 そいつらをいつの間にか寿右衛門さんが倉庫? に放り込んでいた。連行が楽になりそうだね。

 当然、開いていた扉は全て施錠済。


『……殿下、今からこっちの全員をそちらに運びます。首輪を付けられていた獣人は全員無事です。組織の連中も生きてます。俺達は当然ですが無傷です』


 緑簾さんだ。

『了解です。こっちも幹部らしき存在のみ拘束してあとは倉庫らしき場所に入ってます。待ってます』

 黒白は第二王子殿下に相応しい腕時計に擬態中。

 黒白経由なら念話で直接話せるから緑簾さんが連絡してくれたのだろうな。

 カバンシさんはネオジムさん達に伝えてくれているのかも知れない。


「皆、第三王子我が弟の召喚獣殿が直々に僕に連絡を下さった。あちらの保護対象者は首輪を付けられていたけれども全員無事。幹部以下も全て確保。鬼の召喚獣殿達、皆様もご無事だそうだ。……はい、そういう訳で続きといこうか。それとも自分から話してくれるのかな、スーツ幹部さん?」


 こっちはスーツ幹部、あっちは土付き幹部でいいかな。


「多分あっちの奴等はリー、まとめ役の事を話したから気絶したんじゃねえのか? あの人は色々秘密主義だからな。あんた達、俺に色々訊きてえんだろう? 俺が話してる途中であっちと同じく意識を失ったらどうすんだ?」


 スーツ幹部、で通じたみたい。

 それにしても、この期に及んでまだ脅しみたいな事が言えるんだね。

 一応、幹部だからかな?


「殿下のお言葉に対し不敬です。……召喚獣として権限を行使させていただきます。……ナーハルテ、良いかしら」

「主の責に於いて許可します」


 え、朱々さんとナーハルテ様?

 うわ、高!


 ドラゴン郵便の時のカバンシさんと話した時位の高さくらいに上昇!

 そこから落として……停止。


 あ、また上昇。


 うわあ。


 バンジージャンプがずっと続いてるみたいな、だけど命綱が無いから。


 怖い。見ているのも怖い。ぞわっ、とする。


「ねえ、話す気になったかな。まあ、また嘘をついたら痛みはあるけど今よりは良くないかな?」


 正直、良く堪えてると思うよ。

 勿論、口には出さないけどね。


「話しても大丈夫よ、スーツ幹部さん?口腔には補助魔法を掛けてあるから舌は噛まないわ。そろそろあたくし、目測を誤りそうなのよねえ」


 怖い、凄く怖い。 


「あのさあ、こちらの方は精霊殿であられるから、召喚主のご令嬢以外の指示は聞いて下さらないよ。第二王子である僕の意見でも無理。つまり、素直に質問に答えるしかないって事」


 多分、本当はコヨミさんの末裔にして寿右衛門さん、緑簾さんの主たる私の指示はお願いしたら聞いて下さるるとは思うけど。

『そうですわね。更に精霊双珠殿と白様と狐の方に鬼の族長殿に竜のお方に英雄殿に竜殿……まだまだ多くの精霊界、聖霊界、妖精界、人間界の栄えある方々が大切にされている方ですもの。そして何より、あたくしの大事な主の愛しい方なのよ、貴方は』

 ありがとうございます、朱々さん。


 照れます。

 でも今はあくまでも私、第二王子殿下ですから。


「ね、これを堪えても、元邪竜斬り殿に斬られるとか元邪竜殿に踏まれるとか、手段は色々あるんだよ? 話が出来ればそれで良い、とかになったらどうするの? 一番負傷は少ないと思うよ、今この段階で僕に素直に話すのが」


 これでも話さない、というなら本当に朱々さんに少しだけあぶってもらおうかな。

 そう思いながら伝えてみたら、スーツ幹部はいきなり焦り始めた。


 そして、

「……分かった。分かりました! とにかく、せめて着地、着地させてくれ! いや、下さい!」


 漸く、という感じになったのは何回目の事だったろう。


 もしかしたら、土煙と一緒にハンダさん達が駆けてきたのが見えたから観念したかも知れない。


 何しろ、相当な見晴らしだっただろうからね。









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