229-スズと精霊と俺

「それならばまず、保身ではなく王子殿下達が対応されているお前の仲間に諦めさせるのが先だろう? 決定権はこちらに在るのを忘れてもらっては困るぞ。そして、やるべき事を終えた後に扉の外の彼等を解放しろ。……話はそれからだ」


『やるねえ! 悪そう!』


 ふざけた口調で言っちまったが、スズ、お前は本当に良くやってるよ。

 似合わねえ悪役、頑張ったな。


『……まあ、確かに無理があるわよね。ところで殿下、小さい子ちゃんがあっちの声に聞き覚えがあるって。爪を剥がしたのも恐らくそいつよ。あたくしが転移して燃やして来て良いなら許可を頂戴』


 向こうの声があの出来損ないタイピンから聞こえてきた。……しかも念話か。


 主様、たいへんだろうな。

 朱色殿とセレンがこっちに来たら多分こいつらを燃やしてからすかさず落雷、はいチャンチャン、だ。


『……確かに、燃やしたらあっという間よね。もっと痛めつけないと。分かったわ』


『そうですね、さすが殿下!』

 魔法付与はきっとナーハルテ様だな。音が滅茶苦茶良く聞こえる。


 まあ、念話まで聞こえてるのはこっちだと俺とカバちゃんハンちゃんだけだろうが。

 あっちなら主様と茶色殿と黒白殿と朱色殿とナーハルテ様とセレンだから、皆が念話まで拾ってるかな。


「……やべえよ……多分本気だこいつ……じゃなくてこの方達。俺以外の連中は壁に埋まってる。多分このままだと竜様に踏まれてぺしゃんこだ。そっちも言われた通りにした方が……あとリー……ぶへあ!」

 お、やっと説得する気になったか。

 っておい!


「……おい、どうした、おい? おい!」

 こういう時はこの中ならカバちゃんかスズだな。

 状態確認、と。

 あ、スズはもう奥に行ってる。やるねえ!


「全員息はある。このまま連れて行くか。むしろ、手間が省けた」

 こっちはカバちゃん。


 スーツ姿の奴は土柱から顔面が全部見えている。

「こちらの全員も息はあります。寧ろ僕達が室内から運び易くしてくれた様な……失礼いたしました、皆様に許可を得ずに推論を申しました」

 スズの奴、一礼までしてるよ。

 真面目だなあ。


 いや、騎士志望者としては良いのか。

 あと、主様の騎士候補だものな。


 ……お、精霊達が。

『どうした?』


『ありがとう、獣の子達を助けてくれて。あと、赤銅色の子は良い子だね。お話は出来なくても、力を貸したいと思う精霊はきっと多いよ。色々教えてあげてね、緑鬼さん』


『まだ途中だ、助けられてねえよ。でも力を貸してくれてありがとうな。それに、スズオミを認めてくれたのも。了解したよ、手助けは任せな』

『どういたしまして。あ、部屋の外の子達は皆気を失ってるだけ。あと、もう必要ないから……解くよ』

 ああ、重ね重ねありがとう、精霊達。


 辺境区の畑仕事にも専心していたスズに力を貸したいと精霊達が言ってくれていたのでそれに気付いた俺が助言みたいなものをしてみたら、スズは声は聞こえないものの精霊達の力を借りる事が出来る様になったのだ。


 スズ本人は自分に召喚魔法の才能が無い為に召喚に弱いと思っていた様だが、そうじゃない。


 彼には精霊を呼ぶのではなく、助けてもらいながら共に動くのが向いていたのだ。

 多分、アタちゃんの奥方、コッパー侯爵家のご当主でもあるアルミナ殿が時期を見て伝えるつもりだったのではないかと思う。


 だが、まあ、俺は人じゃなくて鬼属性だから、余計な事をしても多少は許されるだろう。

 しかも、一応高位精霊獣だしな、俺。


「おい、緑ちゃん、部屋の外の獣人達、やたらと丁寧に寝かされてるぜ全員!勿論皆無事だ!あと、首輪、これ取れそうだけど、勝手にいじらない方が良いよなあ?」


 確かに。

 ハンちゃんは野生の勘で言ってるけどその通りなのだ。

 良かれと思って外してやったら……なんて事も有り得る。

 理解が出来ない魔道具は色んな意味で恐ろしい。呪いとかもあるしな。


「そうですな、ハンダ殿。あの凛々しくもフワフワでお可愛らしい茶色殿に伺ってみては? このまま連れて行きましょう。俺達なら全員を一気に運べます」


 アタちゃん、茶色殿に会えるのが嬉しいんだな。

 もしかしたら、フワフワでモフモフなお体に触れさせて頂けるやも……って願望が漏れてるぞ。


 これだとまだ、茶色殿が人型でいらっしゃる事は言わない方が良さそうだな。

 伝えちまったらアタちゃんの馬力が半減しそうだよ。


 取り敢えず、こっちは何とかなったのか?


 多分リーダー、だよな? って奴の事は主様達と合流してからだな。









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