227-皆様と僕

「腹立たしいにも程があるな。首輪に魔力を込めているのか。」

苦々しげにカバンシ殿が言われた。


そうだ、あれは魔法付与済の首輪。

恐らく魔力を込めた首輪で獣人の人々を操っているのだろう。


何処に閉じ込めていたのか、かなりの人数の獣人が廊下にひしめいている。

しかも、忌々しくも全員に首輪を装着させているのだ。

さっきとは逆に、僕達が室内に入っている形だ。

魔石が埋め込まれた扉はハンダ殿の機転でわざと開放しているのだが彼等が突入もせず、襲っても来ないのはそう命令されているのか、服従させられながらも皆様の力を感じているからなのか。


……首輪。

セレンに聞き、ナーハルテ様に確認させて頂いた幼子にもその跡があったと言う。


前回第二王子殿下達が保護された中にも獣人の幼い子供や若者がいたが、今僕らの眼前にいるのは見目の良い、そして均整の取れた肉体の青年期の獣人達。

カントリスに声を掛けていた寡婦達の内に斯様な若人を好む人達がいたと聞いたが、やはり眉根が寄ってしまう。


……どうしたら。


「闘う、って言ってもなあ。何とかあの首輪からの指示?を消さねえと。あの土柱のやつが操ってんなら早いんだが。」

ハンダ殿が言われると、カバンシ殿が応じられた。

「いや、それよりは私が彼等を保護して殿下達と合流したら良かろう。もう室内には用は無いのだから。」

「確かに。証人ならあっちの連中が一人か二人いれば済む話だな。じゃあ、スズに術を掛けてもらって獣人達を回収したカバちゃんが少しでかくなって飛んでくれたら良いのか。たくさんいやがる、ってさっきは言っちまったが、ムカつくのは飽くまでもあの首輪だけで、彼等は保護対象だからなあ。」

「そうですな。息子はまだカバンシ殿の竜化の衝撃には堪えられますまい。……という訳で土柱の奴と土壁の中の奴等はまあ、頑張れ?」

緑殿と父上が続いて会話をされた。


……ええと、思考回路を総動員して話の流れに添うと。

僕が獣人の方達に軽い(後遺症等を与えないもの)意識喪失の術を掛けてカバンシ殿のお側に寄らせて頂く。

その後、カバンシ殿が皆と僕を抱えて軽い竜化をされ、飛翔。殿下達がおられる所へ。

……かな?


「……ほう、中々理解が良いな。偉いぞ。」

カバンシ殿にお褒め頂けたのは嬉しいが、本当にそれで良いのだろうか。

「ああ、俺もちょいと精霊達に訊いてみたけど、こっちの建物内にはもう人はいないから大丈夫だぜ?確かにそれは言わないといけなかったよな。悪かった。」

いえ、緑殿。

……いや、その点はありがとうございます。ですが。


「……おい、じゃねえ、あのう、そうなりますと俺達は、邪……じゃなくて、竜様の下敷きになるのではないでしょうか……?」

さすがに一応組織の幹部らしき人物だ。

スーツ姿の多分幹部は何とか会話が出来る位の穴を自分の魔力でこじ開けていた。そして皆様の会話を拾っていた。但し、ぜえぜえ言いながらだけど。


「……まあ、そうなるな。いや、でもこちらの騎士団副団長のご令息はお心が広くていらっしゃるから、お前達が誠意を見せたら、もしかしたら竜殿にお願いして下さるかもなあ?」

ハンダ殿が何だか無茶苦茶な事を言われた。


「……副団長閣下に似てな……いえ、激似の賢そうなお坊ちゃま!お願いします、奴等、いえ、彼等……の首輪の従属は解除する、いえ、……いたしますから、この錬金術を解いて下……さい!」

……錬金術?奴にはそう見えたのか。


……こういう時は、ええと。

「それならばまず、保身ではなく王子殿下達が対応されているお前の仲間に諦めさせるのが先だろう?決定権はこちらに在るのを忘れてもらっては困るぞ。そして、やるべき事を終えた後に扉の外の彼等を解放しろ。……話はそれからだ。」


『やるねえ!悪そう!』

緑殿、揶揄からかわないで下さい。

自分でも似合わないなあ、と思ってるんですから。


……以前学院で、ライオネアの事を女の癖に、と言われてブチ切れた時の僕を思い出して演じてみたのだけれど。

やっぱり僕には力不足かも知れません。


第三王子殿下、悪役令息って、難しいものですね。


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