224-困惑の周辺国獣人売買組織幹部

「はいはい、今開けます……って、あれ、前と違う?」


 ガンガンガン。


 聞こえてるから扉を破壊するのだけはやめてくれ、地味に金を積んだ魔石入りの特殊扉なんだぞ。

 そう思いながら扉を開けた瞬間……後悔した。


 だが、閉ざそうとしたら破壊される。必ずだ。

 何で、どうしてこいつらがまた来たんだ?


 とにかく、距離を取ろう。


「いや、違わねえよ。増えただけだ。ダイヤモンド階級冒険者ハンダ-コバルト、召喚竜カバンシ、それから天下の高位精霊獣緑さんだ! 残るお一人は自分で名乗られるから待ってろ! いざ、尋常に成敗されろや!」


「ああ、それに加えてコヨミ王国王国騎士団副団長、アタカマ・フォン・コッパーが加わっただけだ! あとは正式なお前らの拘束許可関連書類だ。見ろ! あ、写しだから燃やしてもダメだからな?」


 これはどうした事だ。


 前回の厄介な視察という名の摘発も、あくまでも我々は巻き込まれただけ、ただの人材派遣機関だととごまかせていた筈。


 あの国の高位貴族や財界人達も上客だから、我々の派遣人材用の宿舎がたまたま何処かの国の密売組織に獣人共の倉庫として使用されてしまっていただけ、それをこいつらに潰されただけ、という建前……。


 まあ、その損害はかなりのものだったのだが、それは伝えずに(全てを潰された訳ではないから)賠償請求はいたしません、と良い顔をしておいたのだが、足りなかったのか。


 前回もかなり巧妙なやり方で、何だかんだで貴重な資金源を潰されたのに!

 貴重な商品、獣人をどれだけ奪われたと思ってやがる!


 聡明と名高いコヨミ王国の第二王子。


 それと組みやがったのがこれまたあの国の中で悪事を働こうとする連中からは蛇蝎の如く嫌われている辺境伯。

 奴の許可証付で第二王子が乗り込んで来た時は正直焦った。


 今よりも人数が少なかったが伝説の邪竜斬りとその邪竜の人型に、たかが商品警護の連中が敵う筈もなく。

 こちらの連中は全員、それなりに腕に自信があった奴等だったし、実際かなりの腕だったが、その腕は自信と共に文字通り全員折られていたのだ。


 コヨミ王国では獣人も国民だが、今俺達がいるこの国には獣人に人権はない。


 特に目立つ産業も無い小国だが、金を払えばかなりの自由が利くというある意味動き易い国。

 だから上手い具合に商売が出来ていたのに。


 たかが獣人如きの為に何故中堅国ながら大国と対等の国交や貿易が可能な程のあの国の英雄や相棒? 高位精霊獣? に騎士団の副団長? といった連中がこんな国までわざわざ出張る? 周辺の友好国と言えなくもないだろうが、こんな小国、出張る旨みなどあるとは思えないぞ?


「たかが獣人の為に、か? 面白い事を言うな」


 しまった、思考を読まれた。


 竜人は高貴な存在。獣人差別が恒常化している国でも別格扱いだ。

 然しながら竜人は種族によっては獣人を友とする者もいる筈。どうごまかす?


「ごまかす必要はない。年少者を労働者として売買する事を禁ずる我が国、コヨミ王国にお前らは人を送って寄こした。それを裏付ける証拠を入手したから我々が来た。それだけの事だ。ああ、安心しろ。お前らだけではなく、購入した連中も平等に裁かれるからそこは心配するな。我が国は大国ではない中堅国だが、中立国で中庸国なのだ。覚えておくと良い」


 こいつは確か、コヨミ王国騎士団副団長アタカマ・フォン・コッパー。

 素手で暴れ牛を倒したという噂がある高名な騎士ではなかったか?


 それに、でかい。獣人もかくや、という大きさだ。

「緊張してやがるな。暴れ牛の件か? 噂じゃなくて本当だよ。但し、一頭じゃなくて五頭だとさ。ああ、申し遅れましただな、俺が噂の第三王子殿下の鬼の召喚獣さんだよ。ほら、その扉から離れたお前、逃げるな!」


 何だこの運動着姿の美しい鬼は。

 腕の太さが尋常ではない。

 多分、捕まえられたら一瞬で骨が折れる。逃げるに決まっている。


 そうだ。

「……逃げるのではない! 良いのかお前ら! 第二王子と聖女候補と聖女候補みたいな第三王子の婚約者を放っておいて! あとは執事が二人位ではとてもとても! 早く行かないと……ぶげえ!」


 英雄に一発もらってしまった。

 物理攻撃は届かない距離にいたのに、何故だ。


「俺達以外の人員については伝えてないのにそんな事まで知っているとは。そのネクタイに付いているやつ、随分お洒落なネクタイピンだなあ。魔道具だろ? おい、そっちにいる奴等に言うぞ。そのお方達は強いからな? 俺らを相手にする位の覚悟じゃねえと、やべえぞ。……よし、忠告終わり」


 英雄よ。俺が言うのも何だが、それじゃあダメだろう?


「……おい、忠告だけなのか? 本当に行かなくて良いのか?」


 さすがに、あの国の第二王子殿下や聖女候補並みかそれ以上の聖魔力保持者の筆頭公爵令嬢や聖霊王様を信仰する国々が喉から手が出る程渇望しているという強大な聖魔力保持者の聖女候補(しかも英雄の娘ときた!)に実害を加えたらいくら裏稼業従事者でも生きてはいけない。


 それくらいはさすがにわきまえている。

 一応の年数、この業界でやってきた身だ。


 だから、うまくこいつらを宿舎倉庫に放ってその隙に逃げ出そうと思ったのに。


「良いと言っているだろう。それに、まだ他にもおられるし紛れているから、せいぜい気を付けるがいい。……と伝えてやれ。ああ、終わったか」


 今度は副団長だ。

 何だ、奥を見てるのか?


 ……?

 室内の連中の気配が消えた! 何処に行った!


「心配ですか? お仲間は全員土壁に埋めてあります。鼻と口、どちらかは空けましたから呼吸は出来るでしょう」


 何だと? 

 室内にいる奴等は俺も含めてそれなりに魔力がある者達。

 それを、この、確かあの国の学院の制服だったか? 姿の、男女問わずすぐにでも買い手がつきそうな爽やかな美形が?


「ああ、自己紹介が必要ですか? 僕はスズオミ・フォン・コッパー。副団長の実子です。それでは」


「……似てねえ! モガモガ……」


 全力で意見したら、その場で土の柱に埋められた。何だこりゃ。


 室内の土壁を媒介にして土石を召喚してるのか? 陣も無しで? まさか錬金術? おかしいだろ!


「何を言ってんだ、こんなに似てるのに」

「いや、アタちゃん、それはさすがに。それにしてもつまんねえなあ、スズが全部退治しちまったか? あ、いや違うな。まだ


 畜生、あのイケメン鬼、気付きやがったか。


 もう無理か。

 こいつらをあっちに向かわせなくて済んだのは良かったかも知れねえな。


 実際、前回もだけは見つかってねえし。


 もうこうなれば仕方ねえ。

 少しでも時間を稼いでやる。


 そうすれば、何とかあれだけは残せるかも知れねえからな。

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