幕間-42 これからと僕
「カントリス・フォン・マンガン伯爵令息、第三王子殿下と異世界に渡られたニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ様、そして君が身に付けている品に感謝なさい。その組紐には魔力が込められている。それのお陰で君は惑わされずに済んだのだよ」
僕にそう言われるのは魔道具開発局局長ジンク・フォン・テラヘルツ侯爵閣下。
そして、ここは開発局局長殿の執務室。
専属秘書ギベオン殿は閣下の業務を一時的に代行されている為にご不在だ。
恐れ多くも示されたお二方のお名前に続いてそれ、と促された物は、僕が常に身に付けている組紐だった。
カルサイト達と共にウレックス領の二級品(とは言え質は良いもの)の材木達を纏め上げ、第三王子殿下の召喚獣茶色殿と魔道具殿にお渡しした後に再度魔法局へと戻った(転移陣で皆を転移させる事が出来て、誰よりも僕が一番驚いた)所、カルサイトは魔法局局長殿、僕は魔道具開発局局長殿から戻り次第閣下方それぞれの執務室にとの伝言を頂戴していた。
魔道具殿に出して頂いた室内履きは素晴らしい物であったがさすがに外で作業が可能な靴に履き替えていたのでそれと制服を含めた自分自身に清浄魔法を掛けてから急いでそちらに伺ってみると、そのお言葉はたいへんに難解な物であった。
それでも、と僕なりに想像を巡らせると。
此度の僕の上クラス編入試験の合格は第三王子殿下並びに異世界に渡られたニッケル様のお陰である事。これは間違いない。
それから、組紐。
紛失防止のおまじない程度、と当時のリチウムは言っていた。
「紛失防止の魔法に君は魔力を込め続けた。そのお陰でこの組紐は、元の所有者と君とを結び付ける物へと変質していったのだろうな。無論、君自身がそれを願ったからだろうが」
僕がずっとこの組紐を身に付けていたから。
僕がリチウムへの思いを紛失しない、という魔法に変わっていたのか?
ありがとう。
心からの感謝を捧げた。
そうだ、どんなに美貌を誇る方、高い地位を自負されている方、それらの方々の、または婚約者をまだ持たないといったご息女達からの誘いを受けても、僕は常に女性達には紳士的に対応出来ていた。
だが、何故それを閣下はこの場で仰ったのだろうか。
「学院生に伝えるのは適切ではないかも知れないが、君が発見の端緒となったあの証拠品の中に、我が国の高位貴族や地位のある商売人等が買い手であるという証拠が存在した。その買い手の幾人かは、君が多少なりとも関係している者達だったのだよ」
そうだったのか。
お話を伺うと、僕を観劇等に誘っていらした人達の中には少年や若い男性のみに恋愛感情を持つという性癖の女性もいたらしい。寡婦の方々の事だろうか。
何方もそれなりの家の方だった筈だが、どの方が、等と確認するつもりは無論無い。
「とにかく、今回の君の功績は十分に選抜クラスに編入出来るものだ。同じくカルサイト・フォン・ウレックスも同様に。ただこちらは魔法局局長殿が彼に伝えて下さっている筈だ。私は彼の義理の父になる予定の者、身内に近い者が伝えるのはよろしくないからな。組織の掃討が行われつつあるという状況的に不似合いな言葉ではあるが、おめでとう」
「ありがとうございます。……然しながら、僕には身に余るお言葉に存じます」
僕は多分、震えている。
なんとか御礼は申し上げる事が出来たが、内心ではまさか、僕が?
それ以外の言葉が見付からず、右往左往している状態だ。
「正直に言うが、君達は第三王子殿下の背後にあられる様々を知りすぎている。選抜クラスという組織に所属してもらい、君達が共に学ぶ事は有効なのだ。無論、その資格を得たからこそ言える事だが。選抜クラス編入については学院長先生の許諾も頂いている。斯様な機会が再び現れようとは君も思うまい?過分と思うならば今後その身で示せばよかろう。第三王子殿下の友として、支えとして存在する己自身を」
落ち着かない胸中が少し静まった気がした。
確かに、局長閣下の言われる通りだ。
選抜クラス編入試験、合格。
これは、僕のこれからを、友との有り
僕にはまだまだその資格がないと自覚があるならば、少しでも近付く努力をしよう。
異世界からいらして下さったお方、異世界に渡られたお方。
そして、僕の、誰よりも大切な数式の乙女に恥じない自分へと。
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