幕間-41 永き家族そして友
『どうだろうかネオジム殿。必要ならば辺境警備隊から選抜部隊をという有難いお言葉を辺境伯閣下から頂戴したのだが』
エルフ族の血族としての力を解放した為、私ことネオジム-コバルトは距離のある念話の可能範囲が格段に上がった。
その念話を用いて今は同じ辺境区内でカバンシ殿と打ち合わせをしている。
口にするのも汚らわしい存在、周辺国の獣人売買組織を滅亡させるという今回の任務には私も可能な限り協力をしたいと考えている。
無論、私は本来の任務である辺境区に常勤してくれる優秀な若き医療従事者達への引き継ぎを最優先に行わなければならないのだが。
当然と言おうか、愛娘セレンは「止めても行くからね」という勢いであるし、恐れ多くも筆頭公爵令嬢様までが鳥の高位精霊獣たる召喚獣朱色殿と共に赴こうとされている。
他には騎士団副団長閣下と第三王子殿下の召喚獣緑殿と副団長令息。
また、王都からは第二王子殿下ないしは第三王子殿下、お二人いずれかの王子殿下と共に英雄たる我が夫ハンダ-コバルトも駆けつけてくれる事になっている。
ほぼ鉄壁の布陣と言えよう。
副団長令息はセレンの事を憎からず思ってくれている様で、たまに見せる表情が何とも面はゆい。
だが、セレンは気の置けない男性では一番の友人と考えているらしい。
年度末に控えた名高き騎士団団長のご令嬢との円満な婚約解消の為の試合も、どちらかと言えば(と言うか、かなり)セレンはご令嬢びいきの様だ。
その辺りをカバンシ殿はある程度理解されていて結果によっては彼をセレンの婚約者候補としても良いかも知れないと考えておられる様なのだが、果たして私の夫はどうなのだろう。
まあ、今はその話の時ではない。
『そうですね、我が血族とそして私の双方を主として下さった伝令鳥梅殿と孤児院の腕利きの職員さん達と、何より私も火急の際には戦えますから。その上セレンとそしてナーハルテ様が聖魔法の結界魔法を多重掛けされた上に皆さんが私達以外の魔力を感知する罠を幾つも張って下さいましたし』
『そうか、ならば必要最低限の人数と装備をお願いしようか。だが、確かセレン達は獣人の孤児も連れて行くのだろう? それは大丈夫なのか?』
そう、第三王子殿下達が見付けて下さった獣人売買の物的証拠。
それに該当する獣人の幼子がこの辺境区の孤児院に保護されていて、治癒と治療を施したのがセレンとナーハルテ様。
セレンが見落とした爪の欠落を見付けられたのが医療副大臣閣下のご令息だ。
セレンの王立学院編入後の彼らご令息達(第三王子殿下は別であられるが)の態度に思う所があった私や医療、財務大臣ご婦々両閣下達ではあったが、この医療副大臣令息のみならず財務副大臣令息も此度の証拠発見に大きく寄与してくれており、他の令息達も個々人の成長が甚だしい。
何より、本来のご婚約者達との関係が皆よろしくなった。
更にセレン自身が
「えー、お母さん、あの頃のあたし、ナーハルテ様達みたいな素敵過ぎる皆様よりもこのまぬけさん達にはあたしの方がお似合いかも、とか思っちゃってた恥かしい子だったから、皆の事叱らないであげて、ね?」と言っているのだ。
今では何と、魂の転生を果たされた初代国王陛下の末裔殿であられる第三王子殿下並びにご婚約者筆頭公爵令嬢を代表とされる綺羅星の如きご令嬢方。
それから皆様方の婚約者たるご令息達全てと親しい友人となった聖女候補が私の愛娘なのである。
母親としては鼻が高い。
実は、セレンの言葉が
「あ、今は皆と皆様の事をめちゃくちゃ応援してるし王子様、第三王子殿下は皆様のお一人だし、あちらに向かわれたニッケル様の事も応援してるよ! あ、スズオミ様はライオネア様と友情一直線だから試合できっちり対決して超友情に戻るんだよね! そういうのカッコいいよね!」
と続いたのは騎士団副団長令息には内密にした方が良いのかも知れないが。
『どうした?』
『いえ、獣人のお子さんを必ず守れる方法を今茶色殿とご相談しております。……実は、思い出してしまって。彼、ハンダと会った時を』
そう、相変わらず長い長い月日を過ごしてはいたものの、自分の出自が明確になり、医療従事者というやりがいのある仕事に就けて、無為だと感じていた時間が確実に動いていたあの頃。
隕石落下を一組の人と竜殿が食い止め、その人、英雄を治療した私に告白した
そして、まだ正直には話せなかったものの、あまりの年齢差に躊躇した私の背中を押してくれた相棒さん、竜殿。
『……あの時、ハンダの手を取り、貴方とも家族になり、セレンを授かり』
『ああ』
『小さな、でもかけがえのない幸せで、これ以上の幸福はないと思っていたのに。……今度はあの方がいらして下さって、驚きと、様々な事が起きて、今は』
『そうだな。貴方は真の姿を示して、今また新たな人材を育てつつある。私……俺もまさか、こんなに驚きや発見……充実を味わえるとは思わなかった』
そう、私達は恐らく今共に過ごす皆の殆どよりも永く生きる。
精霊界や聖霊界、妖精界の皆様はまた別の時間軸であられるが。
だがこの先、またこうして残った二人だけで語る日が来ようとも。
私達は笑顔で語るのだろう。
家族の、そして友と呼べる皆様の事を。
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