第五章終-転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子だったので大好きになったこの国の王族としての責務も果たす所存。

「いきなり本題になり済まないが、ニッケル、君にはコヨミ王国王子として辺境区に行ってもらいたい。カバンシ殿は既に辺境伯閣下にお会いするべく発たれたので、ハンダ殿と共にとなる」


 王子として? 光栄な事なのですが私で良いのですか?


「君も知っての通り、前回ほぼ壊滅状態にした獣人売買組織を完全消滅させる物証が出た。これは正しく君達のお陰だ。辺境区で保護されている被害者からの陳述書作成は現地滞在中の筆頭公爵令嬢殿や聖女候補殿が行ってくれている。現地に乗り込むのはさすがにニッケル、君と茶色殿、緑殿とハンダ殿になるだろう。但しカバンシ殿と騎士団副団長、君と親しい人物でもある副団長令息も加わるので安心してほしい」


「はい、むしろ前回の討伐には参加したかったし兄上と共に瓦解させたかったと考えておりましたので願ったりです。然し、良いのですか。此度の任務は兄上、第二王子殿下が指揮を執られていた筈では?」


 そうなのだ。

 兄上が成された事を私が? というのが正直な所なのである。


「うん、そうだよ。そうなのだけれどね。……我が国の未だにニッケルの有能さを信じないバカ共や現地の組織の幹部共……連中が事もあろうに聡明なる第二王子殿下が指揮を執られた為にとか何とか……。言いやがる、じゃない、第三王子殿下だとこうはいかない、と言うものだからね。だったらその聡明なる第二王子殿下のご指示で優秀で心ばえも素晴らしく愛くるしい第三王子殿下が現地で動くという形を取りたいのだよ。あ、母上父上と姉上兄上にも了解を頂いているから安心してほしい。……ですよね、茶色殿?」


「さすがのご慧眼、ご明察に存じます」

 うんうん、と深ーく頷く寿右衛門さん。


 絶対仲良しだ、この方達。


『本当に良くやってくれているのにねえ、ニッケルは。……民の為に動こうともせずに過去の偉大な方々の子孫というだけで自分達が偉いと勘違いとか、ちゃんちゃらおかしい。今に見てろよ。獣人の人達を人と認めない様な連中は論外。あいつらこそ人扱いの必要無しな存在なのに、事もあろうにニッケルの事を……』


 一応念話で、なるべく私の耳に入れない様にしてくれているバナジウム・フォン・カルノー・コヨミ第二王子殿下。


 何だか滅多にないけれど悪いお顔の時の寿右衛門さんに魔力が激似。


 ねえ、そうだよねリュックさんに黒白?

『『……』』


 あれ、無言?


 そうか、君子危うきに……かな?


 多分、高位貴族さんとか売買組織の連中達に第二王子殿下に比べて……みたいな感じで私……第三王子殿下の事を貶められたんですよね兄上。


 私だったらさとりお姉ちゃんを悪く言われた感じだ。

 しかも、あくまでも私は貴方を評価しておりますよ、でもお身内はねえ……なやつだ。


 これはダメだ。あの演説とか諸々で私を知ってくれている人達、元々ニッケル君に友好的な方達は良いけれど、というのがまだあるのだろう。


 やっぱりと言うべきか、寿右衛門さんも内情を知っているのだろう。ふわふわ羽毛が揺れている。


 うーん。

 実は、私が辺境区に行くこと、それから兄上からこの作戦のメンバーを訊いた時から少し気になる事はあるのだけれど、今ではなく後からお伝えしよう。


 もちろん、頼りがいはありまくりですよ皆さん! というか、だからこそ、という感じの事なのだけれど。

 多分、リュックさんと黒白も同意見じゃないかなあ。


『うん』『正直申し上げますと……』

 だよね。

 お二人の会話が落ち着いたら兄上と寿右衛門さんに話してみるよ。


「ああ、ごめんね。元々独自路線がある程度認められた王族だからね、僕は。だから王位継承権が明確で、且つ、王太子ではなく王子殿下。お陰で自国の継承者達や後ろ盾連中が不仲だからと我が国も裏ではそうに違いないと思い込んでいる連中には良い目眩ましになっているよ。ニッケルは王家から出て筆頭公爵家に入るのでも、筆頭公爵令嬢殿と二人で国外に出るのでも、何をしても良いから。とにかく王位は継ぎたくないのは皆理解しているし。ただ、将来が決まったら、どうするかは必ず僕達には伝えてね。……家族なのだから」


 私が少し気にしている事があるのが兄上に伝わってしまったかな。

 そういう不安ではないのだけれど。むしろそちらは安心感ありまくりです。


「はい、兄上。心に留めておきます。……では、これからの詳細な打ち合わせをお願いいたします。ちょっと私からもご相談したい事が」

 こんな感じでどうかな。


「うん、勿論君の意見も聞くよ。是非色々話して。さっき音声と映像を楽しませて頂きながら茶色殿、黒白殿と一緒に方策を講じたからそれも楽しみにしていてね。……ああ、勿論飲食は楽しもうね」


「そうさせて頂きます、ありがとうございます。食事をしながらお聞かせ下さい」


 ありがとうございます、本当に。やっぱり兄上は賢くてお優しい方だ。


 大好きな方の生国が大好きな国になって、その国を代々守ってこられたニッケル君の大切な家族。


 そう、そうなんだ。


 任せて下さい兄上! 立派に王子の責務を果たして参りますよ! 


 ただ、ちょっとだけ兄上のお考えとはずれてしまうかもしれませんが。目的は必ず達成いたします。兄上のご期待には応えますよ全力で!


 勿論、今回だけではなくこれからも! です!


 貴方の弟王子、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ。


 気合、入ってます!


 第五章〈終了〉

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