222-王宮私室にて少しだけ『キミミチ』を思う私

「こちらからお願いしたのにお待たせして申し訳なかったね、保存魔法は掛けてあるから美味しく味わってもらえたと思うけれど。おや」


「ああ兄上、こちらも丁度終わりました。先程私の為に集まってくれた皆と、顔と名前が分かる者にカードを書いておりました。その為にライティングデスクを拝借しました」


「拝借しました、って。この部屋の物は全て君の物だよ? いや、噂で聞いてはいたけれど茶色殿、貴方の主の配慮は素晴らしいねえ」


『お言葉痛み入りましてございます第二王子殿下。主、そちらはお預かりいたします』


「うん。お願い。この役職の人には……とか表現が良くないとかがあれば遠慮なく言ってね。リュックさ、リュックがこの役職にはこの紙質のこれ、とか色々教えてくれたよ。兄上、私が斯様に行えますのはこの高位精霊獣茶色の教えの賜物です。もしも何か不敬に当たります事がございましたら是非にご指導を。それからお褒め頂きありがとうございます。あと、ニッケル君の声、あちらのでもよろしかったのですか。あと、音声だけで映像がない事も」


「ああ、勿論。寧ろあちらでのニッケルを想像出来て楽しかったよ。生き生きとしていた。こちらはあの子には少しばかり窮屈だった様だからね。それに黒白殿に『キミミチ』も拝見させて頂いた。そうだ、室内の君の映像水晶を借りたよ。事後承諾で重ね重ね申し訳ない。そうだ、あの中、『キミミチ』に絵になった僕はいないのだね。少しだけ期待していたのだけれど」


 そうか、だから意外と長時間だったんだね。


 映像水晶は是非ご活用下さい。

 私は滅多に戻らないから移動してもらってもかまわないのではとも思ったのだけれど、王家の人間には専用の水晶が一つずつあり、それぞれの私室が定位置なんだって。


「ニッケル、君の魔力を通しておいてくれるかい?」

 と兄上に言われたのでそうしておく。


 絶対高級な映像水晶だ、これ。

 台座も何だか色々重厚。透かし細工の凝り方が半端ない。


 あれ、この魔力……。

 そうだ、あのニッケル君からの手紙の。ここに私の魔力を流したら。


 そうか、これで二人私達の水晶になったんだね。


「これでいつでもこの水晶はリュック殿に召喚可能だよ。茶色殿、この私室に水晶が不在の時には認識阻害が自動で発動する術式を組みたいのだけれど」


『ああ、それでしたら私めが』

「そうして頂けますか。水晶を通じて室内に貴方の魔力を常に纏わせられるならば素晴らしい事です。よろしくお願いします」


 うーん、兄上と寿右衛門さん、何だか賢人同士の遣り取り、って感じで格好いいなあ。


 第二王子殿下、ニッケル君の憧れの方だったみたいだし。


 それにしても、兄上、バナジウム様、『キミミチ』に出演? なさりたかったのですか?


 ご聡明と名高い第二王子殿下は攻略対象者としては厳しいよね。


 まぬけにはなれない!


 多分だけどあちらの『キミミチ』、私がイケメン令嬢様を通じてコヨミ王国に興味を持てる様に、っていうのが目的だった訳だから。


 もしかして。


 今も、あちらの世界の高位精霊さん達がそのおつもりになればゲーム開発者さん達にまた夢を見せたりできるのかな。


 でも、攻略対象者全員(スズオミ君はライオネア様と良い関係だけれどちょっと除外して)イケメン令嬢様達とうまくいっているし、私は正直、ナーハルテ様以外と仲良くしているニッケル君は見たくないなあ。


 いや、今みたいに友達としてならセレンさんや皆様方と仲良くしている微笑ましい姿を見たいよ?


 いや、むしろそれなら見せて下さい、なのかな。

 兄上とかね! 緑簾さんとかカバンシさんとかも?


『そうかあ、見たいんだ』


 え、誰?


『どうかなさいましたか?』


 あれ、寿右衛門さん……に聞こえていないなら気のせいだよね、きっと。


「大丈夫かな。今度こそ打ち合わせをしようと思うのだけれど。待たせ過ぎてしまったかな?」


「平気ですよ兄上、始めて下さい。……どれもこれも本当に美味しくて!」


 そう、気のせい。


 少なくともその時の私はそう思っていたのだった。



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